四十一話 皇国殲滅作戦―開始―
楔形陣形を取り、草原を突き進む二十人の騎兵達。
その道を阻むものはおらず、ただただ鎧袖一触で消されていく。
かの者達の名は世界に名を轟かせる神罰騎士団。
曰く最強、彼らに目を付けられることを誰もが恐れた。
曰く最高、彼らの強さに誰もが憧れた。
曰く最悪、彼らの無慈悲さに誰もが絶望した。
3つの『最も』を兼ね備えた彼らを止めることはできない、この世界の生物に勝てるものは存在しない。
―――ただ一匹の蟲を除いて。
広大な草原を駆け抜ける彼らの覇道を、一匹の影が遮る。
その場所だけが切り抜かれたような闇のように漆黒の鎧を全身に纏い、異形なる八脚は大地を噛み締める。
全てを貫かんとばかり尖った針のついた尾は宙をふらふらと彷徨い、四本の腕はそれぞれに奇怪な武器を握り締める。
紫電を放つ槌を、嵐のように風を纏う太刀を、黒と白に分かれた逆十字架を、黒い瘴気を放つ大鎌を。
頭部に開けられた眼と思わしき八眼は煌々と赤く輝き、全身に刻まれた抽象化された太陽の刻印は鈍く光る。
一匹の蟲の正体は魔神。
何者であっても蟲は恐れることはなく、何者であっても蟲を殺すことは出来ない。
蟲は全てに等しく決して届かない領域―――”神”であるのだから。
*
「散開」
団長と思わしき男の命令に反応し、団員達が俺を中心にぐるりと囲むように回る。
団員達の顔に決して驕りも嘲りもなく、余裕も焦りもない。
まるで、ロボットのよう、それが最初の印象であったがあながち間違いでもないようだ。
こいつらに感情はない、よって傲慢になることはなく、怠惰につかることもなく、常に最強であり続けることが出来る。
「抜刀」
男の声と共に、一瞬もずれることなく全員抜刀する。
光り輝く聖剣、歯車やいくつかのパーツが組み合わさった魔導銃、引くだけで光の矢が生み出される木製の霊弓、黒い霧を放つ呪鋸など様々。
光り輝く神聖なる武器もあれば、一目でわかるほど呪われている呪いの武器もある。
あれらの武器の一部は俺でも知っているぐらい有名であり、そして人間には使えないことでも有名だ。
感情というものが存在するはずの人間には。
馬に乗ったまま団長らしき男が、魔導銃を構え引き金に指をかける。
「悪魔よ、遺言があるのなら邪教徒共に伝えてやろう」
『おかしなことを言う、遺言は死ぬ間際の奴が残す言葉だ。私がお前らに残すのは判決のみ・・・まあいい、私からも貴様らに聞くことがある。―――それはわかっていて、尚且つ誰がやったのだ?』
「・・・何の話だ」
『しらばっくれるな。貴様らの強さの源―――魂の合成だ』
俺の言葉に、神罰騎士団に少しだけ動揺が走る。いや、もうそれだけしか反応できなかった。
神罰騎士団の強さの源は、元々あった魂に更に別の魂を合成したことによるものだ。
感覚的には、キメラが近いかもしれない。その生物の長所の一部を合成して、最強の生物をつくる。
だが、キメラが合成するのは肉体のみ。どれだけ増やそうとしても、あまり大きくなってはいけないので限界もあるし、長所の一部しか合成できないので、劇的に強くなることはない。
しかし、魂の場合はその問題全て解決して余さず合成することが出来る。
単純計算で二倍。合成する魂の元々の力がどれだけかにはよるが、そんなものは質より量の理論で行けば問題ない。魂には限界がなく、無限の可能性が存在しているのだから。
だが、問題もある。全て混ざるということは性格も感情も混じってしまうのだ。
良くて突拍子もなく切り替わる多重人格、悪くて発狂、十人も合成すれば廃人確定だ。
だがこいつらは、確実に百人以上合成している。それも人間だけでなく魔物も亜人も全ての生物を。
証拠は、ミネラルヴァの神器だ。
【閲覧】によって開示された情報は、全て黒い四角となっていた。
これは決してバグっていたわけでない、全ての魂の情報を同時に重ねて表示していたため、黒く塗りつぶされてしまっていたのだ。
そして、スキルだけでなく種族名までもが黒く塗りつぶされていたのは人間だけでなく別の種族も合成したことも証明している。
だが、こんなことをすれば廃人確定、まともに思考すら出来ないはずなのにこいつらは自ら思考し動いている。
理由は簡単、極限まで感情を削り取られているからだ。
こいつらはもう、感動を覚えることも、嘆き悲しむことも、怒りで我を忘れることもない。
ただ無謀に前に突き進むロボット、もしくは死兵と同じだ。
ここで重要なことがもう一つ。
重要なのは、誰がこれを処置したかだ。
魂の合成はの後処理は、そうはもう面倒くさいものだ。
合成されてしまった魂を一つ一つ切り分け、傷ついてしまった部分を修復し、再び世界に適合できるように形を整える、これだけ時間のかかることを何百回と繰り返さなければならないのだ。
それに、一時的に魂の数が激減すると世界の力のバランスが崩れ、世界が暴走しかねないのだ。
うまく抑え切れなければ世界消滅、もちろんそんなことになれば連なる世界にもダメージが入り、連鎖して消滅しかねない。
そんなことを予防するため、事前にそんなことを成し遂げてしまった馬鹿を判別し、それなりの処置を行わなければならない。
二度とこのようなことを起こさないよう、転生も許さず魂の欠片すら残さず消滅させて。
「悪魔よ、その問いの答えは恩を仇で返すのと同じ、答えるわけには行かない」
『貴様の都合は関係ない、答えないならば問答無用・・・といきたいのだが、残念なことに貴様らに恐怖苦痛は意味が無さそうなのでな』
俺は、四本の腕で掴んだ神器を構える。
『―――魂から直接読み取るとしよう』
「任務開始―――対象”悪蟲”を即刻抹殺せよ」
先制攻撃は、神罰騎士団であった。
弾速の速い魔導銃から属性が付与された弾丸が放たれ、霊弓から光の矢が放たれる。
それぞれが伝説と謳われてもおかしくない武装から放たれた攻撃は、一寸もずれることなく俺に向かってくるが、俺は無視して突き進む。
弾丸と矢は俺の心臓めがけて突き進むが、鎧に近づくと途端に勢いを失い、俺に触れることすらできず落ちていった。
俺の外骨格が持つ基礎能力、敵性魔力の吸収だ。
この能力がある限り、俺に魔力が籠められた攻撃が当たることはない。
しかし、この鎧を突破するためには魔力は不可欠というジレンマ。
この最強のコンボがある限り、鎧は破られない。だからこそ、神界最強の鎧を名乗ることができるのだ。
次々に襲い掛かってくる攻撃を無視して団長と思わしき男に近づき、大鎌で胴体を薙ぐ。
銃をかまえており、尚且つ馬に乗っていたため咄嗟に回避行動のとれなかった男は動けず、ギロチンサイズは鎧の胴に突き刺さるが、ほんの少し沈んだだけで終わってしまった。
男はそのことに笑みを見せることなく、ただ淡々と、銃から剣に持ち替え切りかかってくる。
手刀で剣を弾き、俺は突き刺さったまま外れなくなった大鎌から手を放し、拳を胴に叩き込む。
ガコンと派手な音を立て男は吹き飛ぶが、空中で一回転し何事もなかったように切りかかってくる。
今触れてみて、だいたい絶対に破られない鎧と盾の仕掛けは理解できた。
『鎧に入ってるのは不造金か?』
「・・・ここで否と答えても意味はなさそうだ。そうだ、この鎧には不造金が仕込まれている」
先ほどの拳打でメッキ代わりに張り付けられた魔法金属が剥がれ、内部からタイルのようにぎっりし敷き詰められた不造金が現れた。
おそらく、衝撃吸収用の魔獣の革の上から貼り付け、そのうえから魔法金属で鍍金処理を施したのだろうな。
確かに、加工すらできないほどの硬度を誇る不造金が仕込まれているなら、破られることはないだろう。熱伝導も電導性も延性も弾性も最悪に近い不造金は、いかなる攻撃であろうと破壊できないし内部に通すことも無い、加工できるという条件を満たしているのなら防具として最高の素材だ。
だがまた問題が浮上してしまった。
『さて、加工できないことが売りの不造金をどうやってそのような形に整えることができたんだ?』
この世界にはまだないはずの不造金の加工技術。余計に聞き出さなければいけないことが増えてしまった。
「答えるとでも思ったか?」
『別に貴様らから答えを得ようとしているわけでない。ただの疑問だ』
後ろから突いてくる槍の穂先を逆十字で弾き、黒い霧の刃を放つ呪鋸を太刀の【断絶の刃】で切り飛ばし、空から落ちてくる槌を雷槌で打ち返し、首元に迫る聖剣噛み砕く。
機械のように的確に、そして次の一手を踏み出させないように繰り出される連携攻撃。
しかし、決して必要以上にこちらに迫ることは無い。
脚も尾も腕も、神罰騎士団は全てに目を向けながら襲い掛かってくる。
『随分と慣れているようだな。多腕多脚の相手は初めてではないのか?』
「百を数えた辺りから、忘れてしまったな」
『ふん、感情を殺した人形でも冗談ぐらいは理解できるようだな』
剣戟を交わしながら挑発をしつづけていると、ベルゼから報告が入った。
準備完了の報告が。
その報告に内心笑いながら、神器を全てしまい神罰騎士団から距離をとる。
「諦めたのか?」
『ほざけ、貴様らとの戦いは所詮遊びだ。わざわざ本気で戦うわけが無いだろう。時間稼ぎだよ』
「苦し紛れの言い訳だな。見苦しいぞ」
『俺の言葉が本当かどうかは自分で判断することだ』
笑い声を上げながら俺は、胸元の刻印に爪を突き立て―――力いっぱい引っ掻いた。
火花を散らしながら刻印は削られていき、オーディンの封印は力を失う。
だが、もしもの時のために封印は二重に仕掛けが施されている。
刻印はそれぞれが独立した指輪へと変化し、全て俺の指へと収まる。
全てが何も飾り気の無い、血のように赤い指輪に変化して。
『縛鎖二十連螺旋封印。正真正銘、神が施した連鎖式の封印だ』
四本の腕の指全てに収まった指輪の数は二十個、これらは全てが繋がり重なり合うことで封印の効果を高めている。
だが、全てが揃っていないと封印の効果を発揮しないわけでも無く、単体でも十分に強力な封印を発揮する。
つまり指輪の数で、封印の度合いを上下することができるのだ。
よって、これは俺が本気を出す時の最後の手加減装置でもある。
『第一から第十まで開放。コード”終わりなき悪夢に終止符を”』
パスワードコードを唱え、俺は思いっきり二つの拳を握り締め指輪を握りつぶした。
その瞬間、周囲全てを埋め尽くすような膨大な魔力があふれ出た。
足元の草や花は魔力に当てられ次々に異形化していき、異形の鳴き声による即席オーケストラが形成されていく。
空高く飛ぶ鳥でさえ発狂し、血の涙を流しながら狂い鳴く。
現世に出現した魔界、いや地獄の光景といわれても過言ではない。
それでも、神罰騎士団は恐れない。
ただ、命令どおり突き進む。この地獄の光景を見ても、恐怖すら消えた彼らには無意味なことであった。
俺は哀れみ感情を込めて、ある一つのスキルを発動した。
『哀れな人形よ、愚かなる選択肢に進んだ自分を恨むことだ―――発動【焦熱気の波動】』
全てを焼き焦がし蒸発させる、最強の恒星の大気が顕現した。
*
「・・・主様から連絡が入った」
「よーやくか、準備体操はもう飽きたってのに」
「くすくす・・・わかってないわね、愚弟。私達が、不甲斐ないから主様が出る事態となったのでしょう?」
「わかった、わかったからその手に持っているものを今すぐ離すんだ姉ちゃん」
「いまから作戦開始なのに、武器を手放す必要があると思うのか?」
「その前に、その重要な作戦の執行班の命が危険なんだよ!」
「・・・・・・・・・真面目・開始・・・」
《真面目にやるでアリます、とコーカサス姉様は言っておられるでアリますよ!》
「訳さなくても大丈夫ですよ、それと兵の準備はどうですか。アルゼン」
《こちらの準備は完了でアリます!》
《いつでも大丈夫でござる》
「そうか、では行きますよ。アゲハ、グラス」
「くすくす・・・わかりましたわ」
「あー、やっといけるな」
「それでは今から作戦を開始します。主様の威光に逆らいし愚か者に裁きを」
「主様に仇なすものに滅びを」
「「「《《そして、主様の覇道に栄光あれ!!!》》」」」
「『皇国殲滅作戦』―――開始!」
壊滅してしまった神罰騎士団。
最強の騎士団は破れ、皇国滅亡の危機と思われたが、皇国にはまだ十人の神罰騎士団が残っていた。
さらにその十人は、ムーが戦ったものよりも・・・!?
次回『皇国殲滅作戦―四天王―』
お楽しみに!
訂正
・惑星→恒星




