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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
47/79

四十話 神罰騎士団

急展開注意?

 エレメル村の秘密が消えた一週間後、世界はついに動き出した。




          *




 太陽が丁度真上に昇る時、神界から持ってきた書類を城の中で片付けていると窓から手紙を掴んだ蜻蛉が入ってきた。

 俺がレイラに渡した通信用の蟲だ。

 体長は十五センチほどと普通の蜻蛉より少し大きいぐらいしかないが、最大で二十キロ以上の物資を運ぶことが出来る蟲だ。

 まあ、本当は爆弾か何かを持って空爆をしかけてくる蟲なんだがな。

 手紙を受け取り封蝋を切って中身を閲覧すると、手紙の中央に小さく、『今すぐあの広場に来て』と書いてあった。

 幸いにも書類仕事はほぼ終わりかけ・・・とまではいかないが、そろそろ休憩してもいい頃合だろう。

 処理の終わった書類を一纏めにして、次元門を使い円卓があった広場へと移動する。

 今回は、眷属の付き添いは無しだ。 

 移動すると、そこでは既に全員が円卓の席についているが、一つだけいつもと違うところがあった。


『・・・暗いな』


 いつもは明るい皆が、まるでお通夜のように、全員が顔を俯け机を見ている。

 暗い、それにとても空気が重い。鉛のように重い。とにかく、重くて暗い。


『何かあったのか?』


「・・・ああ、緊急事態というかなんというか・・・」


 いつもの豪快な笑顔が見えないフラウは、奥歯に何か詰まったように言う。

 ミスラを見ても、気まずそうに視線を逸らす。

 俺のことで何かあったのか?

 

「―――神罰騎士団が宣戦布告してきたの」


 沈黙を切り裂くように、レイラが言った。


『神罰騎士団?なんだその妙に傲慢な名前の騎士団は』


「この前に攻めてきていたのは皇国最大(・・)の表向きの騎士団《精霊騎士団》、そして今回宣戦布告してきたのは皇国の裏側をつかさどる皇国最強(・・)の騎士団《神罰騎士団》。一般的に戦争で出てくるのは《精霊騎士団》だけど、《神罰騎士団》は滅多にでないの。なんでだかわかる?」


『名前だけの騎士団・・・ってわけじゃなさそうだな』


「彼らは己の信仰に従い、人間の戦には参加しないようにしているの。彼らが相手取るのは世界に仇なすと思われる強力な魔物や悪魔やそれらを使役したりする邪教徒だけ・・・ふう・・・」


 レイラが息を大きく吐き、ミスラが続いた。


「つまり、ムーちゃんが神罰騎士団を動かす原因となっちゃったみたいなんだよね・・・」


『・・・ああ、なるほどな』


 あの時見逃した残党が皇国の上層部に報告してしまったわけか。

 やはり、皆殺しのほうが良かったか。変に情けをかけるじゃなかった。

 

「神罰騎士団は、ムーを悪魔と断定。開戦は三日後。それを召喚した俺達も殲滅すると宣誓してきやがった」


『強いのか?』


「強いなんてレベルじゃねえよ・・・あいつらは、やるわけないが一人一人が単独で竜を狩れるほど実力者だ。人数は三十人しかいないし一人二人なら俺達が抑えれるが、全員でこられたらこの国の防衛は絶望的だ。万が一、億が一にも団長が出てこようものなら・・・この辺りが血の海、屍の山になるぞ」


『そこまでか・・・』


 竜まで殺すときたか、そんな人間は同時期に多数は存在しないはずなんだがな・・・

 竜は世界の秘密を知り、世界のために動く最強の力だ。

 世界の暴走が起こった場合や、生物が絶滅しかけた時に動く最終兵器。

 そのため、竜は世界で神を除く何よりも強力な力を保持しているはずなのだ。

 この世界でかなり昔に現れた魔王の時も、人類が絶滅しかけたため全面的ではないとはいえ竜が協力しているはず。

 その、絶対たる抑止力を殺す人間は存在しないとまでは断言しないが、一時期に、それも一箇所に集中することはありえないだが・・・


「それに、実力だけじゃない、装備も馬鹿げたやつだ。製造してから一回たりとも破られたことの無い盾、鎧。強力な付与がされている超一級品の魔術武器に、現在では製造不可能な古代兵器・・・噂じゃあ死んでも蘇ることの出来る魔術具を持っているとか言われてる」


『・・・どれだけ絶望的かということわかったが、俺が呼ばれた理由は?』


 俺の言葉に、一瞬空気が静止する。

 その瞳は、地獄に垂れてきたカンダダの蜘蛛の糸を見るような、一筋の希望にすがる目だ。

 非常に言いにくそうに、レイラが言う。


「・・・・・・なんとか、ムーちゃんの手を借りることはできない?」


『無理だ』


 レイラの問いに、俺は即答した。

 

「・・・一応、理由を聞いてもいい?」


『察しは着いているだろうが、俺は神だ。それも結構高位のな。神はな、より高位になるほど干渉するのが禁止されていくんだよ』


「で、でもこの前私を助けてくれたのは?」


『あれは、向こうが、神が禁じている術をつかったからだ。もしも、正当な理由無くこれ以上干渉すれば、最悪この国を消さなきゃいけない事態になる』


 自画自賛じゃないが、まだ(・・)真面目に仕事をやる新米世代である俺がそこまで干渉すると、他の神々は調整のために原因を排除しなければならなくなる。それはなんとしても避けなければならない事態だ。

 そもそも、今俺がここにいて話をすることもかなり譲歩してもらっているのだ。

 数秒間沈黙が続き、レイラが大きなため息をついて、机に突っ伏した。


「はあ・・・だから、言ったじゃん。ムーちゃんを頼るのは無理だって」


「神様ってもんは難しいしな・・・幸いこの国だけでも最低限の自給自足は成り立ってるからレイラの盾で塞ぐか?」


「・・・わかって言ってるでしょ、お父さん。一分も展開したら、私干からびちゃうよ」


「・・・万策尽きたわね」


 蜘蛛の糸すら切られ、再び沈黙が落ちる。

 呼吸音と、身じろぎの音が、空しく円卓に響く。

 ・・・まあ、手段がないわけではない。


 俺は次元門を再び作成し城に戻ろうと門をくぐりながら、今気がついたというように、わざとらしく声を上げた。


『ああ、そういえばだがレイラ、まだアゲハ以外の俺の眷属を紹介してなかったな』


「・・・今はそんな事態じゃないよ」


『丁度予定がつきそうなのでな、三日後(・・・)こちらに向かわせるとしよう。残念ながらあいつらは転移が使えないので徒歩だが、もしもその時偶然(・・)にもその騎士団に襲い掛かられてしまった場合、自己防衛のために戦わなければならないかもしれないから、少々遅れるかもしれないが、我慢して待っていてくれ』


「・・・えっ?そ、それってどういう―――」


『また三日後な』


 無理やり会話を切って、次元門を閉じる。

 ちょっと、無理があったか?いやでも、これ以外に方法思いつかないしな。


「くすくす・・・主様は素直じゃありませんね」


『黙ってろ』


 俺は書類整理に戻った。




          *




 あれから二日後、作戦がやっとまとまってきたので全員に作戦を伝えようとすると、丁度コーカサスが帰ってきた。

 土産に、大量の金貨と銀貨が詰まった皮袋を持って。 

 

『随分と遅かったな』


「・・・・・・護衛・対象・王女・・・王都・報酬・・・」


 単語だらけで非常にわかりづらいが、要約すると『俺が命令した対象はどこかの国の王女であって、その王女の願いで王都にいくことになり、護衛の報酬として金貨銀貨を貰ってきた』ということらしい。

 ・・・まあ、馬車も豪華だしそれなりに地位のある人間だとは思ったが、王女だったか・・・。


「そんなことより主様、この子が前に話していた・・・」


『ああ、第五眷属のコーカサスだ。口下手な奴だが、仲良く頼むぞ』


「・・・・・・」


 無言のまま、コーカサスは頭を下げた。

 眷属たちは、次々に握手を交わしながら自己紹介をしていく。


「第一眷属のベルゼです。よろしくお願いしますね」


「くすくす・・・第二眷属のアゲハですわ。よろしくね?」


「俺は第三眷属のグラスだ。なんか頼みてえことがあったら気軽にいいな」


「某は第四眷属のアラクネでござる。よろしくでござる」


「第六眷属のアルゼンでアリます!よろしくお願いしますコーカサス()様!」


 さて自己紹介も終わったこ・・・いや、何かおかしくなかったか? 


『姉様?コーカサスは女なのか?』


「あら、気づいておりませんでしたか?コーカサスは立派な女の子ですわ。ねえ?」


 アゲハが言うとコーカサスは小さく頷き、その頑強な鎧を解除した。

 紅色の鎧はスライドするように小さくなっていき、最終的に背中に収納された。

 頭の兜が解除されると、ポニーテール状に纏められた真紅の髪の毛が広がり、釣り眼気味の瞳が開かれる。

 金属製の鎧から、布製のシンプルな戦闘着に変更され、分厚い生地の上からでもわかるほど胸元が女を主張していた。

 ・・・いつのまにか女騎士になってたのか・・・でも、角があるのは雄じゃないのか?

 世界が違うと、常識まで通用しなくなってしまうものなのか?


「これは・・・中々の美女でございますね」


『・・・ベルゼは気づいていたのか?』


「鎧を着ていましたので、美醜の判断まではつきませんでしたが性別は流石にわかりました」


『グラス、アラクネは?』


「兄貴と同じだ」「某も同じでござる」


 おおおおおおおお・・・まじか・・・この中で気づいてなかったの俺だけじゃん・・・。

 

「顔は中々良いけど、服装がちょっと野暮ね。もうちょっと違う服は無かったのかしら?」


「・・・・・・(フルフル)」


 腰まであるポニーテールを揺らし、コーカサスは首を横に振る。どうでもいいが、あれだけ長いポニーテールだと後ろから引っ張りたくなるな。

 コーカサスの意思を問わず、ゴスロリのポケットの中から髪留めなどを取り出し飾りつけ始めるアゲハだが、本題からずれているので放置しておくことにしよう。

 微妙にコーカサスの目が助けを求めているような気がするが。

 

『さあ、今回集まってもらった理由を説明しよう』


 素直にやってくると、ありがたいんだがな・・・。




           *




 翌日、作戦決行日。

 肝心のどこから攻めてくるのかがわからなかったが、ベルゼに索敵させたところ転移でなく馬でこちらへ一直線に向かっているようなので、エレメル国と皇国の中間地点で迎え撃つことに決定した。

 わざわざ馬で来ているのは余裕の現われか、碌な隠蔽もせずに走っていたらしい。

 実際、出会った魔物はランクに関わらず 一刀両断であった。

  

『おそらく、後十分程度で接触する。作戦通り実行しろ』


《りょーかい、親父殿》《承知しております》


 作戦実行役は、手加減が可能なグラスとアゲハ。

 通信役(オペレーター)はベルゼ。アラクネとアルゼンは、もしもの時を考えてエレメル国周辺の森で待機。

 コーカサスは、残念ながら城で待機だ。

 これ以上割り振るところがなかったので、表向きには俺の護衛となっている。

 正直、護衛対象(おれ)の方が護衛(コーカサス)よりも強いのに護衛の意味はあるのかとは思ったが、コーカサスは満足そうな(気がする)ので大丈夫だろう。

 

 目の前のスクリーンに現在の状況がベルゼの蠅によって投影される。

 大量に蠅を使役できるベルゼは、様々な諜報活動のほかにもこういったリアルタイムの通信も可能なのだ。

 

 一切り開かれた広場の中央に立つ、ベルゼとアゲハ。

 その姿はいつもの人間のものではなく、硬質的な外骨格が体を隙間無く覆い異形の姿となっている。

 更にグラスは脚が肥大化し、アゲハは背から奇妙で美しい大きな翅を展開するなどどう見ても人間でない。


 これは、神罰騎士団とやらを引き付けるためのものだ。 

 魔物は一刀両断の奴らだが、人間相手は無視している。

 そのため、いつもの姿ではスルーされてしまう可能性があるのだ。それでは意味が無い。

 よって、グラスとアゲハに注目させるためいつものでなく戦闘形態に変身してもらっている。防御力も上がるし、一石二鳥だな。

 奴らも、あからさまに人外であるなら向かってくるはずだ。


《接敵まで後十秒・・・九・・八・・七・・六・・・》


 ベルゼのカウントが始まり、画面の中のグラスが構えを取ってアゲハが『虚栄』と『殺念』を取り出す。


《三》


『命令だ、アゲハ、グラス』


《二》


《一》


『―――殲滅しろ』


《《承知いたしました(イエス)我らが主よ《マイロード》》》


《―――ゼロ》


 ゼロのカウントが呼ばれると同時に、森から全身鎧を身に纏った騎兵が現れた。

 全身鎧は決して華美で無く、むしろ質素といってもいいほどシンプルなものであるが油断はいけない 

 あの鎧には、少なくない魔力が篭っているのが見て取れる。あれが一度も破られたことの無い鎧か。

 鎧とは反対に、武器は異常なほど豪華だ。

 宝石やら貴金属かなにかで装飾してあり、一見実用品などで無く宝剣にしか見えない。

 だが、決して宝剣などでないことはわかりきったことだ。


 姿が現れた瞬間、グラスは一気に駆け出し一番先頭の騎兵に跳び蹴りをかました。

 手加減を命令してあるとはいえ、グラスの身体能力は並みではない。騎兵はグラスの姿に気づくことすら出来ず後ろに吹き飛んでいった。

 

 しかし、神罰騎士団の隊列は乱れない。

 目の前で仲間が倒されたと言うのに、奴らは全く動揺していない。

 錬度とかそういうレベルでない、まるで殺人ロボットのようだ。 


《抜刀せよ》


 一番大柄な男がそう命令すると、騎兵は武器を抜き、グラスとアゲハに襲い掛かった。

 騎兵は歩兵に比べて強い。馬の上から攻撃できるため、振り下ろすように攻撃できるからだ。

 だが、そんなことは魔神の眷属にとって関係ないことだ。

 グラスは巧みに蹴りを放ち剣弾き飛ばし、アゲハは幻術を使い僅かな誤差で攻撃を届かせない。

 

『・・・最強といっても、この程度か?』


 映像を見ていて、少々呆れてしまった。

 竜をも狩れると言われていた神罰騎士団だが、強いのはわかるがそこまでとは思えない。

 この程度で、あの竜が殺せる訳が無い。

 次々と武器を弾かれ、しまいには全く攻撃を当てられていない神罰騎士団だが何故か焦る雰囲気が無い。

 ・・・まだ、秘密兵器が何かあるのか?

 いや、わかりきっていることだ。最初に命令した一番大柄なあの男の存在だろう。

 あれはおそらく神罰騎士団の団長だろう。あの男が、神罰騎士団の拠り所となっているはず。

 ならば、折ればいい。その希望を。


『グラス、奥にいる男をやれ』


了解(ヤー)


 了解の言葉と同時にグラスは空を蹴って飛び上がり、団長と思わしき男に跳び蹴りをかました。

 岩をも砕く蹴りは刻々と男の顔面に迫り・・・

 弾き飛ばされた―――グラスが。


『―――はあっ!?』


 思わず声を上げてしまうほどの予想外の事態。

 男は裏拳を放ち、腕力だけでグラスを弾き飛ばしたのだ。

 そんなことは、人間に出来るわけが無い。できていいはずがない。

 慌てて亜空間から片眼鏡―――神器【真眼《老賢梟の鑑定鏡エンサンペテクロス・アイ》を取り出す。

 森羅万象辞典(アカシックレコード)を作製したミネラルヴァ特製の神器であるエンサンペテクロス・アイは生物の情報を見ることの出来る【閲覧】のスキルが付与されている。

 映像越しとはいえ、ミネラルヴァ特製の神器ならば問題ない。早速右目につけて【閲覧】を使用した。

 ・・・が、


『・・・なんだこれ?』


――――――――――――――――――――――――――――――


《名前》:■■■■■■■


《種族》:■■■■■■■


能力(スキル)》【■■■■】【■■■■】【■■■■】【■■■■】et・・・・・・・・


《称号》【■■■■】【■■■■】【■■■■】【■■■■】【■■■■】et・・・・・・・・


《加護》 無し


《祝福》 無し


――――――――――――――――――――――――――――――


 ほぼ全ての言葉が黒く塗りつぶされた四角へと変化していた。

 神器のバグ?そんなわけがない、このエンサンペテクロス・アイには【不壊】のスキルが付与されている。

 このスキルがある限り、神器が壊れることは一部の例外を除いてありえない。


 団長らしき男だけでなく、他の騎兵にも【閲覧】を発動して情報を読み取るが、どれも同じであり、黒い四角が並んでいるだけだ。

 ジャミングか?それとも何らかのスキルの影響なのか?

 何が起こっているのか理解できず、焦りだけが募っていく。


 映像の中でも、なかなか倒れない騎兵にいらついたのか、傍目から見てもわかるほど過剰に力をいれ、アゲハは殺念を振るってしまった。

 凶悪なまでに尖った爪は騎兵の胸元に迫り―――カンッ!と軽やかな音を立て弾かれた。

 アゲハの驚きの表情が見える。

 食い込むことすらしない。ありえない。理解できない。そんな言葉がアゲハの顔に浮かぶ。

 

『何が起こっている!』


 いつのまにか、最初にグラスに吹き飛ばされた騎兵まで戻ってきている。

 形勢逆転、追い込もうとしたはずのグラスとアゲハが逆に追い込まれていた。

 

(どうすればいい!?撤退か?いや駄目だ!俺が出るべきか!?)


 募る焦りと様々な思考で頭がごちゃごちゃになっていく。

 作戦は失敗だ。大前提となる、グラスとアゲハがここでやられてしまっては、意味が無い。

 撤退の命令を下そうとした瞬間、一冊の本が飛び出てきた。

 立派な装丁のされた、分厚い本。森羅万象辞典(アカシックレコード)

 めくってもいないのに、本は開かれページを飛ばしていき、止まった。

 何かを伝えたがっているのか、エンサンペテクロス・アイから垂れる細い鎖までページを指す。

 書かれていた内容は、保証について。

 エンサンペテクロス・アイによって起きた不具合について、対処法が詳しく書かれていた。

 ・・・ちょっとでも打開できるのではないかと、期待した俺が馬鹿であった。

 イライラしながら片眼鏡を外そうとするが、接着剤でくっつけたように外れない。

 それどころか、絶対に外させないといわんばかりに鎖が首に巻き付いてくる。


『何がしてえんだよ!』


 怒鳴りつけるが、本に怒鳴ってもしょうがない。

 さっさと用事を済ませようと、このままで行くことにしようと決意した時、ある一文が眼に入った。

 【閲覧】によって読み込んだ情報が黒い四角になっている場合について、そこにはそう書かれていた。

 本を持ち直し、【高速理解】も使い一気に読む。

 そして、全てを理解した。

 なるほどなるほど・・・それなら、グラスを退けたその力も理解できる。


『・・・クハッ・・・クカカ・・・クハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』


 コーカサスが怪訝な眼でこちらを見るが、笑い声が止められない。

 なんという幸運、もはやこの世界に降りたばかりの時に降りかかってきた不幸はこのためにあったのではないかと思えてきた。


『・・・馬鹿だとは思っていたが・・・己の破滅を選択するほど愚かではないと思ったんだがな』


 鎖はもう解けている。エンサンペテクロス・アイを外し、一つの水晶でてきた球体を取り出す。

 無言でそれを映像に翳す。

 水晶球は一瞬だけ光り輝き、黒く染まって砕け、一枚の羊皮紙が出現した。


 羊皮紙は立派な神器だ。

 名前は【法紙《神罰法典》】、そこには神が守らなくてはならない神の法律が記載されている。


『自業自得、この言葉が似合うのは貴様らだけだな』


 一番最後の欄に自らの名を刻み込み、神器は煙となって消えていった。

 そして現れたのは、空に輝く受諾の文字。

 

『コーカサス、出撃の用意をしろ』


 俺の言葉に無言で頷き、コーカサスは人間形態でなく戦闘形態へと移行する。

 その背には、巨斧がその存在を声高く主張する。


『喜べ我が眷族よ。わざわざ手心を加え相手をする必要がなくなったぞ』


 返事はない。だが、確実に全員に言葉は届いている。


『アラクネは待機しろ、アルゼンは俺の元に兵をよこせ、ベルゼはそのままでいい、グラスはアゲハを抱え離脱しろ』


《《《《《了解(ヤー)!》》》》》


 了解の言葉と共に、俺の後ろから白の軍隊が出現し、映像からアゲハとグラスが消えた。

 突然の逃亡に、神罰騎士団も多少は動揺していたが、直ぐに気を取り直し馬で駆けて行く。

 向かう先は、エレメル村。


 そして―――処刑場だ。







『【閲覧】の情報が黒い四角に見える場合について。

 レンズにゴミがついている可能性があります、拭き取ってください

 インクがついているかもしれません、取れない場合はミネラルヴァまで

 神罰法典第一条特記事項の可能性があります、【審判の水晶】で調査してください』



 

『神罰法典記述、第一条『神ハ現地ノ生物ニ干渉スルコトナカレ』

 ―――特記事項、以下の場合は、この限りでない。

 ・世界が干渉を必要とするほど、崩壊しかけている場合。

 ・もしくは、世界が干渉なくてはそれに類する事態になりかねない場合。

 そして―――現地の生物が、魂への干渉が疑われる場合に限り、干渉を許す』


 太古の神々が定めた神の法、強力な力を秘めた神々が無闇に力を振るわぬよう定めた法律。


『第一条、特記事項補足―――魂への干渉が確実と判断された場合




――――関係する生命体全てを残さず殺せ』

 




『さあ、神罰の時間だ。己が選択の結末、こころして受け取れ』


 


次回予告

ついに動き出した魔神。その果てにあるのは終焉か希望か!?

次回四十一話 皇国殲滅作戦開始(仮)

お楽しみを!




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