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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
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三十七話 第六眷属

アラクネの語尾が『ござる』に変わっています。ご注意を

理由はベルゼと見分けがつかなかったからです

 あまりの事態に頭が審議拒否を起こしてしまい、結局俺が取った行動は・・・


『・・・美味いなこの茶』


「お褒めいただき光栄でござる」


 アラクネの点てた茶を飲むことであった。

 現実逃避?馬鹿なことを言っちゃいけない。あれは多分久しぶりに皆で遊んでいるだけだ。

 折角兄弟水入らずで戯れているのだ、親が邪魔するわけには行かないだろう。

 後、アラクネの飲んでいる茶が美味そうだったからな。茶菓子の最中も美味いな。どこにおいてあったかは知らないが、美術品と同じで棚にでも入っていたんだろう。

 テーブルの上なのが少し風情がなくて残念か?でも俺は正座できないしな、体の構造的に。


「きついって!やばいから!やばいか―――ゴホっ!(ゴキッ)・・・」


 後ろのほうから重要そうな骨が折れる音と、何かが息絶える音が聞こえた気がする。

 ようやく終わったみたいだな。

 チラッとだけ後ろを確認すると、汗一つなく涼しい顔で立ったまま紅茶らしきものを飲んでいるベルゼと、向かい合うように座っているアゲハと、床の上でぴくりとも動かないグラスが転がっていた。

 

『・・・それで、戯れはもういいのか?』


「はい、お待たせして申し訳ございませんでした」


 直角に頭を下げるベルゼだが、その輝かんばかりの笑顔に反省しているようには見えない。

 グラスとか大丈夫なんだろうか?背中を見る限り、肺が動いてないんだが・・・蟲の生命力があるから死ぬことはないだろう。

 全員高位の魔蟲種であるから、アマテラスの言葉が本当なら頭だけになっても生き返るんだろうし。

 それでもまあ、一応理由ぐらいは聞いておくか? 


『グラスは何をやったんだ?』


「はい、それですが・・・神界からこの世界へ降りてきたときに、特に何をするということもなかったのですから城の設備の確認をしていたんですが・・・」


 そこから、ベルゼの話が始まった。




         *




 ベルゼは、主の命令通り二人を集めた後、主のいる世界に降りたのだが・・・

 

「ふむ、ここはどこでしょうか?」


 炎の輪を潜り抜けた先にあったのは、何らかの建築物の地下であった。

 ただ頑丈な扉がついているだけの地下室、まるでここ一帯を隔離しようとしているようにも見える。

 

「材質は、新種の金属・・・いや、金属ですらないかもしれないわね?くすくす・・・」


 アゲハは扇子を口元にあて、優雅に微笑みながらもう一つの扇子を壁に叩きつけて考察する。

 ドンと壁が揺れ、辺りに粉塵が飛び散るが壁が崩れるような様子は感じられない。

 よほど耐久力の高い建材なのだろう、扇子のほうにひびが入ってしまっている。

 アゲハはそれを見て一度微笑んだ後、壊れた扇子を捨てた。


「これは・・・おっ、何か箱が・・・って、何も入ってないか」


 グラスは足元に落ちていた箱を拾って探るが、箱には何も入っていない。

 がっかりした表情で、グラスは箱を壁に放り、カランと軽い音を立てながら、箱は転がっていった。


「二人とも上階にあがりますよ、ここにいてもしょうがありませんから」


「くすくす・・・そうね、いくわよグラス」


「はいよ・・・ところで、そこにいるのは気にしねえのか?兄貴」


 ちらっと、松明の影にグラスが視線を向ける。

 しかし、松明の影には異常は何もない。ただ風に揺れた炎の影がゆらゆらと揺らめくだけだ。

 ベルゼも松明の影を一瞥し


「ええ、問題はありませんよ。彼は私たちと同じ兄弟ですから」


 そう言った瞬間、松明の影が膨れ上がった。

 影から生まれた丸い卵の闇は、繭が解けるように晴れていき、中から現れたのは・・・鬼の面をつけた忍者。

 そう、ムーが城の守護のために創りだしたアラクネだ。


「くすくす・・・始めましてかしら?私はアゲハ、あなたのお名前は?」


「某の名は、アラクネでござる。して、その波長からして同胞でござるな。そちらの御仁方は?」


「失礼、私はベルゼ、そしてそこにいる不良はグラスです。よろしくお願いします、弟よ」


 ベルゼは営業スマイルで手を差し出す。

 それを見て一瞬ためらったアラクネであったが、無言の圧力でベルゼの手を取り握手をする。


「なあ、なんか俺の紹介が雑じゃね?」


「黙ってなさい愚弟」


 不満そうに声を上げたグラスを、アゲハはもう一つの扇子で殴る。

 もちろん、アゲハがグラスを相手に手加減などしているはずもなく、悲鳴すら上げられず壁に突っ込んだ。

 ドンッ!とまた城が衝撃で揺れ、派手にほこりが舞い上がる。

 

「いけませんよアゲハ。いくら頑丈でも、この城は主様のもの。むやみやたらに傷つけてはいけません」


「くすくす・・・すいません、お兄様」


「ちょっと待て!俺の心配ぐらいしろよ!」


「お前はこの城よりも頑丈だから大丈夫だろう」

  

 再びグラスが不満を口に出し二人に詰め寄るも、かるくあしらわれてしまった。

 さすがにその扱いに怒りを覚えるグラスだが、自分が二人に敵わないことを思い出し、復讐を諦めた。

 もしそのようなことをすれば、倍以上に自分に返ってくることが実に容易に思い浮かんだのだ。


「・・・仲がよろしいことはいいことでござるが、ここは主様に立ち入り禁止となっているでござる。御三方なら問題はないと思うでござるが、一応移動をお願いしたいと思うでござる」


「そうか、主様の命令ならばしょうがない。それでは、備品の確認でもするとしましょう」


「それでは私はここら一帯の捜索を・・・くすくす、主様はどちらへ行ってしまったんでしょうか?」


「俺はどうすればいいんだ?」


「適当にそこらで散歩でもしていなさい、いや、警備も兼ねて哨戒を」


「へいへい、わかりましたよーと」


 適当な生返事を返しながら、グラスは階段へ歩いていき、止まった。

 上を見上げ、眼を細くし天井を眺め続ける。

 

「なにかありましたか?」


「いや、な・・・どうも、馬鹿が何匹かいるみたいだぞ」


 グラスの言葉にベルゼ達も上階へと意識を向ける。

 しばらく聴覚に意識を集中し続けているとそこから聞こえてきたのは数人の男達の声。

 粗暴で乱暴な足音と笑い声が、未知の城の中とは思えないほど、地下まで響いてきている。

 

「ふむ、主様の城には少々相応しくない輩のようですね」


「くすくす・・・消してきましょうか?」


 アゲハは微笑みながら、懐からもう一つの扇子を取り出す。

 先ほどまで使っていたものとは使用目的がまるで違う、遊び(・・)でない本物の殺す(・・)ための扇子を。

 しかし、グラスがそれを止める。


「姉貴、それは流石に周りの奴がアブねえ・・・ってことで俺に任せてくれ」


「・・・そう、それなら任せるわ。でも失敗したら・・・わかってるわね?くすくす・・・」


「プレッシャーかけないでくれ、後怖い」

 

 笑いながらも薄く殺気を漂わせるアゲハにびくびくしながら、グラスは膝を曲げる。

 全身をバネのように縮ませ、一気に天井まで飛び上がった。

 驚異的な脚力により音速まで加速したグラスは空中で体を捻り―――


「―――はいやっ!」


 ―――回し蹴りの要領で天井を蹴り飛ばした。

 グラスの種族は、『閃脚飛蝗』といういわゆるバッタであり、特徴は自分の体ほどある巨大な脚である。

 本来は甲蟲人の中でも臆病な種族のため逃げるためにしか使われない脚ではあるが、一蹴りで百里を飛翔するといわれるほどの脚力は決して馬鹿にできない。

 そして、グラスはムーの眷属であるため通常ならば保持していたはずの【臆病】が消失しており、脚力も速さも核の時に付与された【神風縮破】によって、通常の個体よりも強化されている。

 つまり、本来の姿に戻っていなくともその脚力は恐ろしいほどになっており・・・


―――ドォォオンンン!!!


 瞬間的に音の壁を十三枚ほど突破した蹴りに堪えられるはずも無く、天井は連鎖するように次々と崩壊していく。

 グラスの蹴りが当たった天井が吹っ飛んだのはもちろんのこと、その衝撃波天井一枚程度で収まりきるものではなく、吹っ飛んだ天井の破片が次の天井にぶつかり吹き飛び、その次も同じように吹っ飛びと、まるでドミノ倒しのように破壊されていく。

 上階にいた盗賊を殺すには、あまりにも過剰すぎる攻撃であった。

 ベルゼは、はあっと小さくため息をつき、グラスのほうへと歩いていく。ちなみに、アゲハとアラクネは場の空気を読んで既に上階へと上がっていた。

 

「よしっ、終わったぜ・・・って、兄貴、何でそんな嫌に気持ち悪いほど笑って・・・」


 その後、地下から悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもない。




          *




「・・・というわけで、こちらが現場でございます」


 いまだ目を覚まさないグラスを引きずって、案内された場所は丁度食堂の裏の廊下。

 ベルゼがさす場所には、相撲取りが余裕で二人ぐらい通れそうなほどの大穴があいていた。

 痛くなる頭を抑え、穴をのぞいてみると下のほうに薄らと神界の門である炎がちらついいている。

 ・・・なんのために、わざわざこの城をつくったんだか。

 

『・・・侵入者はどうなった?』


「どうももう一つ横の廊下にいたようで、全員逃げていきました」


 とりあえず、今回は始末書の心配はなくていいか・・・神界の書類って、単位が枚じゃなくて厚さだからな・・・エレメル村全員の蘇生は、三十キロメートルだったけな。

 一万円札百枚で一センチだから・・・いやもう終わったことだ。やめておこう。

 

「主様、この城の警備についてでござるが・・・少々問題が発生したでござる」


 アラクネが深刻そうな表情、は見えないから深刻そうな雰囲気で頭を下げてくる。

 嫌な感じがする。


『・・・言ってみろ』


「主様が帰還するまでの時間、この城への侵入者が先ほどの人間も抜いて十二人でござる」


 結構来てるな。普通、謎の城があらわれたら、近寄らないと思うんだがこの世界の人間は冒険心が高いようだ。無謀とも言うが。


『それで、どうかしたのか?』


「それがなんでござるが・・・某は仰せつかった命はこの城の警備でござるのですが、某にはあまり向かないようでござる」


『どういう意味だ?』


「某の刃には呪いがかかっており、切られたものはたとえ指先以下の傷でも即死するでござる」


 あ、なんか展開が読めてきた気がする。


『・・・・・・』


「侵入者は全て即死でござるが、どうも死ぬ瞬間に呪いが爆発するようで、主様の城が随分と有象無象の血で穢れてしまったでござる。真にもって申し訳ないでござる」


 違う・・・違うよアラクネ。心配する内容が、かなり斜めにずれてるよ・・・。

 限りなくひどくなっていく頭を抑え、文句を言おうとすると、ちょうど顔の横に神界の門が出現した。

 無言で横を向くと、そこには見慣れた梟の顔が。ミネラルヴァだ。


「ねえ、なんかやったの?人形が大量に書類を持ってきたんだけど」


 もう嗅ぎつけたのか?まだ数時間前のことだぞ?


『一体誰が・・・』


「えっとね、審判の神様みたいだよ。あ、伝言も付いてる。なになに・・・『逃げられると思うなよ』・・・だって!」


『ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


 流れない涙を流すような気持ちで、俺は神界にある執務室に飛び込んでいった。




          *




『はあ・・・はあ・・・終わったぞこのやろ・・・』


 【高性能複眼】と【高速理解】を発動して、腕どころか尾からインクを創造し続けて万年筆のように使って、神速で終わらせてやった。

 ちなみに全部で一メートルぐらいあった。推定枚数一万枚。推定なのは数えている暇なんて無いからだ。

 ミネラルヴァにも手伝わせた。私は関係ないとかいっていたけど、俺の補佐なのだからサボるなんて許さない。

 そうして実質作業時間三十分。でも、神界での時間はこの世界では十倍になるので三百分、五時間か・・・かなり時間を食ってしまった。


「申し訳ないでござる、主様。某の失態が故に、このような手間を・・・」


『気にするな、適材適所、お前に不可能な仕事を押し付けてしまった俺は悪かったんだ』


「・・・お許しいただきありがたき幸せでござる。この失態、必ずや取り返して見せるでござる」


 うなだれるアラクネをなだめながら、俺は別のことを考えていた。

 今ので思い知ったが、警備については本当にまじめに考えなければならない。毎回毎回、こんなことやっていくわけには行かない。

 というか、俺がもたない。

 アラクネの他に任せられる奴は・・・ベルゼは論外、アゲハは攻撃力が両極端、グラスは手加減が苦手,

コーカサスは行方不明・・・あれ?ダメじゃね?

 せめて、コーカサスでもいてくれたらよかったのに。といっても、まだあいつのスペックは把握し切れてないんだがな。

 ・・・よし、最終手段にでも移るとするか。本当はやりたくなかったんだがな。


「【魔力圧縮】【眷属生成】、発動」


 前と同じように、もう一人眷属を作ることにした。数が多いに越したことはないだろう。オーディンに文句は言われるかもしれないが。

 いつもどおり、膨大な魔力を極限まで圧縮し、眷属の核となる宝玉を生成。

 種族と付与するスキルは・・・あくまで目的は戦力でなく城の警備に使えるそこそこの力だから・・・蟻で【従体生成】でいいか。

 早速【能力付与(スキルエンチャント)】で核に付与すると、真紅に輝く核は黄緑色に光り始めた。

 種族はいつもどおり魔蟲種の最高種。今回は蟻系統最高種の『暴軍女帝蟻』だ。

 ポイッと核を前方に放ると、核は地面に落ちることなく空中に浮き徐々に回転しながら光を放っていく。

 黄緑色の光が視界を覆いつくしたとき、光の中から一つの人影が浮かび上がった。

 光が晴れ、その中から現れたのは・・・


「―――始めましてでアリます!」


 びしっと敬礼と擬音が付きそうなぐらいしっかりとした敬礼をする、ダボダボの軍服を身に着けた少女であった。

 ・・・あれ?少女?

 もう一度しっかり見てみるが、種族名にあるような女帝といった感じが全くない名前負けしているとしか考えられない少女が目の前にいる。

 明らかにサイズの合っていない軍服に、地面に引きずっているマント。

 しきりに直す大きな軍帽と、肩できっちり切り揃えられた黄緑色の髪がとてもかわいらしく映って見える。

 なんでこんなに小さいんだ?魔力が足りなかったか?それとも、他に何か原因があるのか?

 

「・・・どうしたでアリますか?なにか失敬なことでもアリましたか?」


 敬礼をしたまま、不安そうにこちらをみてくる少女。

 ・・・今考えてもしょうがない、後でオーディンに聞くとしよう。専門家だからな。

 

『・・・すまん、少々別のことを考えていてな。私の名前はムーだ。今後ともよろしく頼むぞ』


「はっ!閣下のご期待に答えられるよう、努力するでアリます!」


『そうか。ああ、後お前の兄弟を紹介するとしよう』


 そういうと、ベルゼが少女の前まで歩いていき、手を差し出した。


「どうも、ムー様の第一眷属『ベルゼ』です。これからよろしくお願いします」


 次にアゲハが、前へ出る。


「くすくす・・・第二眷属『アゲハ』よ。よろしくね」


 最後にアラクネが、足音を立てることなく少女の前へ立つ。


「第四眷属『アラクネ』でござる。よろしくでござる」


『ちなみに、そこに倒れているのは第三眷属のグラスだ。他にも第五眷属コーカサスがいるため、お前は第六眷属だ』


「あらあら、コーカサスとはどちらで?私たちは聞いておりませんよ?」


『あいつは今、私の命令で別件で動いている。また、しばらくしたら会わせてやる』


 確かに別件で動いているが、そろそろ帰ってきてもいいころだと思うんだよね。

 厄介ごとにでも巻き込まれたか?

 そういえば、あの巨斧なんか呪いついてた気がしたな。それのせいかもしれん。

 本人が望むなら、後で取っておいてやろう。


『さて、お前を創りだした理由であるが、この城の警備を頼みたい』


「警備・・・でアリますか?」


『ああ、そうだ。最初はアラクネにやらせていたのだが、少々手荒かったからな。お前はおそらく、自分の眷属を召還して戦うタイプではないか?』


「は、はい!そうでアリます!よろしければ、ご覧になるでアリますか?」


『そうだな。見せてもらおうではないか』


「わかったでアリます!【召喚・一般兵】【召喚・弓兵】【召喚・近衛兵】!」


 どこからか取り出した軍杖を大きく振りかぶり、振り下ろした瞬間少女の後方に三つの穴が発生した。

 黄緑色の穴は、二メートルぐらいに拡大し、中から真っ白な外骨格を纏った甲蟲人が現れた。

 どれも武装など細かいところが違っており、一番左が両手剣を携えた三匹の中で一番特徴のない甲蟲人で、真ん中が大きな弓を背負って比較的軽装なのでおそらく弓兵なのだろ、そして一番右の存在感が半端ない。

 二匹の兵士の1.5倍ぐらいほど大きくがっしりとしていて、外骨格もかなりごつい。更に全員ハルバードと大剣を背負っており、腰には短めのメイスと投擲用の短槍が何本かつけられている。

 これは、思ったより凄い眷属がでてきたものだ。

 少女が軍杖を横に振ると、三匹の甲蟲人は一糸乱れることなく片膝をつき、臣下の礼をとる。練度も十分か。


「ご紹介するでアリます!左から、一般兵、弓兵、近衛兵となっているでアリます!」


『それぞれの戦闘能力はどれぐらいなのだ?』


「戦況によるため一概には言えないのでアリますが・・・一般兵と弓兵は同じくらいで、近衛兵が一番戦闘能力が高いと思うでアリます!ちなみにですが、兵の種類もまだいるでアリます!」


 ふむ、まだいると。


『例にあげると?』


「重装兵、騎兵、長槍兵、飛兵、地兵、・・・我が【災禍の巣穴】が進化すれば種類はどれだけでも増やすことができるでアリます!」


 自慢げにドヤ顔でそう言い切った少女。

 一対多でなく、多対多のタイプか、なかなか役に立ちそうだ。

 それに、一般兵を城の中に配置すれば警備もできるし、重要な場所には近衛兵を配置すればいい。

 後、先ほどの出現からして、別次元にある自分の巣―――名前は【災禍の巣穴】だったか?―――から兵隊を召喚しているようなので、必要ないときは巣穴に返せると・・・素晴らしいな。


『なかなか優秀だな』


「ふえ!?え、あ、はい!お褒めの言葉をいただき恐縮でアリます!」


 バッと敬礼をして、九十度に腰を曲げ礼をする。よくバランス崩れないな。

 ああ、後名前も決めないとな。蟻で何かいい名前は・・・そうだな・・・ 


『それでは、お前にはこれからの活躍に期待して名を授ける。今度からお前は『アルゼン』と名乗るがいい』


 蟻ということでアルゼンチンアリを思い浮かべた俺は悪くない。あの蟻、昔俺が人間であったころかなり悩まされたんだよな。

 いつの間にか部屋の中に群れでいるんだよ。そして殺虫剤を使ってもなかなか死なない。

 ということで、そのしぶとさを見習って欲しいと言うわけだ。決して悪い意味だけではない。

 誰も聞いていない言い訳をしていると、アルゼンは敬礼の姿勢のまま静かに涙を流し始めた。

 えっ?なんで?やっぱりアルゼンチン蟻はなかったか?


「えぐ・・・えぐ・・・ありがどうございます・・・がっがのご恩にごだえられるよう・・・ぜんりょぐで頑張るでアリます・・・」


 アルゼンは、うれし泣きをしていたようだ。だから、その『ああ、泣かした』的な眼でこちらをみるのをやめろアゲハとアラクネ。

 というか、アラクネも本当に表情豊かだな。忍者ってのは、もうちょっと無表情でいるもんじゃないのか?

 俺の偏見か?


「くすくす・・・いい名前を貰ったわね、アルゼン」


「ぐす・・・アゲハ姉さま・・・」


 アゲハが温かく微笑みながら、アルゼンを後ろから抱きかかえる。

 まるで妹を慰める姉のように見えるが、中身を知っているせいか籠絡しているようにしか見えないのが不思議だ。


『・・・そこまで喜んでもらうとは、こちらも考えたかいがあったな。まあ、名づけの件はそこまでにしておいて、次の件に進むぞ』


 俺がそう言うと、ベルゼ達は一斉に片膝をつく。アルゼンもだ。練習してないのに、なんで乱れてないんだ。


『私は再びエレメル村へと向かう。ベルゼは情報収集、アゲハは私についてこい、アラクネはアルゼンのサポート、アルゼンは先ほど言った通りこの城の警備だ』


「「「「了解」」」」


 息の合った了解を聞いた後、グラスのほうへ振り向く。


『既に起きているのはわかってる、グラスは・・・そうだ、冒険者ギルドに行って登録して来い』


 俺の言葉に反応して、グラスはうつ伏せの状態から一気に立ち上がる。

 

「さすが親父・・・ばれてたか。冒険者ギルドってのに登録するのはなんでだ?」


『あそこは年中情報収集ができるからな、しばらく潜入してもらいたい。注意点はあまり目立ちすぎないことと、ランクをあまり上げすぎるな、そのくらいだ』


「了解」


 にやっと笑った後、グラスは窓から飛び出していった。

 それを見届けた後、【限定創造(リミットクリエイト)】を発動し、大穴を塞いでおく。

 色が少し濃くなってしまったが、どうせこれだけ暗いのだから大丈夫だろう。


『では私は行く』


「くすくす・・・留守番は頼んだわよ、アルゼン、アラクネ」


「はいでアリます!」「お任せでござる」


「それでは、行ってらっしゃいませ」


 三者三通りの礼を受け、俺は再びエレメル村へと向かった。








「・・・申し訳ございません、主様。それは無理です」


『・・・やっぱりそうか』


 流石に、移動に次元門は駄目だった。

 


  

次回はもう一回エレメル村。


修正

・足らなかった文字を追加

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