三十六話 帰城
月が沈んで夜が終わり、もうすぐ朝日がのぼるといったころにようやく宴は終わった。
実際皆はまだ騒いでいたかったみたいだが、流石に仕事があるのでこれ以上は無理だそうだ。
まあ、体感時間で三時くらいか?結構飲んだもんだ。
しかし、酒仙人が作った薬酒にはびっくりした。
飲んだ瞬間、酒に酔いつぶれてでろんでろんだった皆がいきなり正気を取り戻してはっきりした足取りで歩いていったからな。
そういえば仙人ってなんか特殊な種族だったけな?忘れちゃったけど。
「そういえば、俺たちが仕事してるときお前はどうすんだ?ここにずっといるわけには行かないだろう」
『ああ、そうか・・・どうしたもんか・・・』
「また私と一緒に行く?」
レイラが提案してくるが・・・
『いや、やめておこう。レイラの仕事を邪魔するわけには行かないからな』
「別に邪魔になるってことはないと思うよ?どうせ書類仕事だけなんだから」
『たぶん、俺とずっと話をして集中できなくなるんじゃないか?』
「うっ・・・」
図星だったのか、レイラは小さくうめき声あげた。やっぱりか・・・
「それじゃあ、俺のところについて来るか?」
『フラウの仕事か?お前の仕事ってなんだよ』
「防衛と、もしくは自警・・・なのか?」
『なんで疑問系なんだよ・・・あ、いい、わかったから』
無言で素振りを始めた村長を見て、なんとなく察してしまった。
つまり、見つけたら即鉄拳制裁ってことだな。そりゃ疑問形にもなるわ。警告なしだもん。
形だけ見れば自警なんだろうけど。
さてと・・・俺はどこに行けばいいだろうか?
一番大丈夫そうなのがフラウか?
「私のとこ『いや、ミスラは遠慮しておく』なんでよ!」
ミスラが立候補するが断っておく。その笑顔からしてろくな目に会いそうにないからな。
すげなく断られ怒るミスラだが、相手をしてもらえないことを悟ったのかショボーンとした感じで肩を落として窓から飛んでいってしまった。
迷路の通路を通らなければここにこれないんじゃないのか?窓は大丈夫なのかとも思ったが、そもそも迷路を作ったのはミスラだった思い出し、何もいわないことにした。
さてどうしようか・・・あ、そうだ。
『俺は、自分の城に戻ってるとするよ』
「城なんて持ってるの?どこ?」
『見渡す限り平原の真ん中あたりだ。正式な地名は俺も知らない』
「へえ、今度私も行ってみていい?」
『おう、いいぞ。まあ、中は何にもないんだけどな』
いるのはせいぜい蜘蛛の忍者くらいだ。ちゃんと仕事やってるかなアラクネ。
「・・・でかい平原って・・・もしかして死霊平原か?いやでも、そんな危険地帯に城なんて聞いたことが・・・」
村長は俺の言葉を聞いて、なんか呟いている。死霊平原?ゾンビなんて一匹もいなかったぞ?
どうせ、村長の勘違いだろうし気にしなくていいか。
『それじゃあまた後でな』
「うん!夕方ごろには仕事も終わると思うから、それくらいに帰ってきてね!見せたいものがあるの!」
『わかった、なるべく遅れないようにするよ』
そう返事を返して、俺は城に戻ろうとしたところ、一つのことを思いついた。
本当なら飛んで帰るのだろうが、またあの鳥に襲われるのは勘弁したい。
ということで、俺は神界で得たスキル【禁魔導】を発動した。
スキル発動と共に、大量の禁書悪書邪書と呼ばれる魔導書が俺の周りに出現していく。
これら一個一個が、全て魔術王と呼ばれたオーディン製の魔導書だ。流石王と呼ばれるだけあって魔術一つとってもすばらしいものであるが、この魔導書に収められているものは違う。
オーディンが実用不可能と判断、もしくは完成していても表に容易に出せない禁術がところせましと掲載されているのだ。
レイラも村長も珍しそうに本を見ているが、手にとって読もうとはしない。まあ、紫色のオーラがでてて苦しげな人の顔が浮かび上がる本なんて読みたくないよな。
それを喰った俺も俺だが。
宙に浮かぶ本の中から一冊の本を選び、他の全てを再び体の中に収納しておく。
今は実体化していたが、魔導書本体はもうない。詳しくは、それらの内容全てが俺の細胞に刻み込まれているのだ。そして必要なときにだけ実体化させる、まあ慣れればそれすら必要ないんだろうけど。
レイラがタイトルを見ようと覗き込んでくるが今回は止めない。今回選んだ本は、見るだけなら問題ない比較的安全なタイプだからな。
アウトな奴は、表紙を見るどころか近づくだけでアウトだけど。でも、そういった類のものは滅多に出さないから大丈夫だろうけど、うっかり出してしまうかもしれないから今度からは周囲に誰もいないことを確認したほうがいいな。
「なになに・・・うーん、私の知らない言葉?読めない・・・」
まあ、神様の言葉だからな。
『【不完全魔導理論】だ。俺の知り合いの神が創った魔術の中で、理論はできているが実現はできそうにないものを収録したものだ』
「ん?どういう意味なんだ?」
「ようするに、できたって言えばできたけど実際に使うと問題が発生するってことだよね?」
『ああ、そういうことだ』
人間を撲殺できそうなぐらい凶悪な厚さを誇る【不完全魔導理論】を開き、目的のページを探す。
ページ数が馬鹿みたいにあるあって探すのにも苦労したが、既にどこにあるのかはわかっていたので数分で見つけることができた。一万三千五百六十一ページっと。
『あったあった、えーっと、作成方法はっと・・・対象座標を頭の中で思い浮かべ、空間を切って呪文を・・・これか《空間接続》か・・・』
本に書いてあったとおり黒曜城の玉座を頭の中に思い浮かべる。
構造自体は作成時に頭の中で作ってあったので、座標を間違える心配はない。
次に空間の切断だが・・・ああ、あれでいいか。
指に魔力を集中させ、指先に剣を作るイメージで一メートルくらいの爪を作り、何もない前方に腕を振り下ろす。
『一爪―――両断』
振り下ろされた爪は何もない空間を切る。一見な空振りしたかと思われたその瞬間、空間が割れた。
世界の修復力で修繕されるまえに、空間を接続して門を安定させる。
安定した門は楕円形の大きな穴で、その先には付属で作っておいた玉座の間の豪奢な椅子が見えていた。
成功だな。
『完成、《次元門》っと』
満足して後ろを振り向くと、レイラは口をぽっかりと開けて唖然としていた。
まあ、かなり無茶苦茶なことやったからな。
しかし、これで一々飛んだりせずに一気に移動することができる。しかも、他の人間に見つからないように隠れて飛ぶことも魔物どもに悩まされることも無い。一石三鳥だ。
「・・・距離が離れた場所への常時接続・・・これかなり凄い技術だよムーちゃん・・・」
感心したようにレイラが呟くが、かなり甘い。確かに凄い技術かもしれないが、そんな便利な技術が、この本に載っているわけがない。
なんていったてこれは、【不完全魔導理論】だからな。
『感心しているところ悪いが、これはそう大したものじゃないんだ』
「へ?なんで?」
『ちょっと目を離さないでおけよ』
【限定創造】で、この世界で一番硬い金属、不造金を創造する。
普通なら聖銀か神金鋼なんかの代表的な魔法金属を出すべきかもしれないが、実はこれらのものは加工できる中で最高の金属なのだ。あくまで最高でしかないのだ。
それに比べ、不造金は金属としては最悪だが硬度だけで言えば最硬なのだ。
だが、加工できない。鉱石の段階で何もすることができず、溶かすこともできなければ破壊することも不可能といった、存在意義のわからない金属なのだ。
積み上げて城壁に使おう何て考えた王もいたらしいが、不造金自体がとても軽いため、とてもではないが城壁として用を成さなかったらしい。
「それは・・・不造金?そんなものどうするの?というか、どこから出したの?」
『ほら、見てみろ』
疑問だらけのレイラを抑えて、俺は不造金を門の中に放り込んだ。
放物線を描きながら不造金は門に吸い込まれるように飛んでいき―――粉みじんになった。
正確に言えば、門を通過した瞬間紙のような薄さまでスライスされたのだ。
「「・・・はあっ!!??」」
これには話がよくわからずぼんやりしていたフラウも思わずびっくり、目を限界まで開いて唖然としている。
『見ての通り、実はこの次元門は距離を短縮することはできるが、空間と空間の間に僅かな亀裂が入っててな、圧縮された空間が斬撃らしきものを放ってるんだよ。繋げる距離が短ければ斬撃の頻度も少なくなるが、それでも秒間三十回で威力も不造金を切り裂くほど。結論から言うと、とてもじゃないが実用性のあるものじゃないな』
これがこの魔術の最大にして最悪の欠点だ。
まあ、これくらいしか欠点ないから斬撃さえ防げれば使えるのだが、今見たとおり威力も半端ないためかなり高位な結界を使わなければいけないとかオーディンがいっていた。
オーディンもポテトチップス作るぐらいしか使えないとか言ってジャガイモをスライスするのに使っていた。あいつ色々と応用が残念だ。
次元門の威力にドン引きしたレイラが、少しずつ門から後退しながら問いかけてきた。
別に門自体が迫ってくることはないんだけど・・・まあ、常に刃がおろされ続けているギロチンに近いもんな、そりゃ怖いか。
「そ、そんな危険なものどうするの?」
『いやな、俺の外骨格は伊達じゃないってことだよ』
俺はそういいながら門の中に手を突っ込む。
形無き刃は当然容赦なく降り注ぐが・・・
「へっ?ちょっと待ってそんなことしたら!・・・あれ?」
俺の腕には傷一つ無い。
何かが腕に当たっている感覚はあるが、それはとても軽く、まるで定規を腕に軽く当てているくらいのものでしかない。
流石神界の中でも最硬と名高い外骨格だ。空間圧縮刃でも、びくともしない。
『普通の奴はダメだろうが、俺は通過できるんでな。それじゃあ、また夕方』
「ちょっと待ってムーちゃん!」
『ん?どうかしたのか?』
「これ、片付けていってくれない?ちょっと怖い」
『・・・・・・わかった』
かなり真剣な顔で頼まれてしまったため、結局門は今度から使用禁止になってしまった。
結構便利なのに・・・
*
門を抜けて二人の頼みで破壊した後、俺は適当に城を散策していた。
作ってから入るのは初めてだし、どれくらい想像と違うかを確かめている。
もちろん、まだ来ていないだろうが冒険者への警戒も忘れない。最大限感覚を鋭敏にして、とっさに出会ってしまった場合は影にでも潜り込むつもりだ。
『ふーん、小物も付属しているのか・・・俺の城の想像と元来のイメージが混ざったからか?』
適当に城の中を歩いていると、ところどころに壷やら絵画やらよくわからないものが見えてくる。
が、統一性は全く無く、和洋折衷どころか和洋混沌になってる。いや中華っぽいのも見えるな。
鳳凰が描かれた壷に、渋い色で染められた茶碗、昇竜が描かれた巻物や、金色に輝く宝剣、何が書いてあるかわからない抽象画、うむ混沌。
色々と混じりまくって、感動どころの話じゃない。悪意すら感じる設置だ。俺がやったんだけど。
形だけでもと思って作った大量の部屋を通り過ぎていくと、遠くのほうから物音が聞こえてきた。
音の発生源は・・・食堂か?盗賊かなにかが飯でも漁りに来たのか?
この小物からして、確かに食堂に置いてある冷蔵庫の何らかの食料が入っているとは思うが・・・。
会っても面倒なことになるだけだろうし、元来た道に戻ろうと思ったとき、俺は気がついた。
この気配・・・多分俺の眷属だ。
神界から降りてきたにはいいが、どうすればいいかわからずとりあえず城の警備についていたとかか?
それなら、俺が帰ってきたのに気がつかないはずがないだろうしな・・・まあ、今から見に行けばいいか。
歩いて数分、食堂が近づくにつれどんどん音が大きくなってくる。
しかも、それには悲鳴のようなものまで混じってて、時々何か重いものが落ちるような音も混じっている。本当になにをやってるんだあいつら。
・・・まさか、侵入者をいたぶって遊んでるなんてことはないよな?
それが本当だとすると・・・やばい。
前もいった気がするが、神は現地の生物への接触は基本的にアウトだ。干渉するにしてもそれ相応の理由がなければならない。
俺の眷属は神ではないが、だが神から生まれた眷族なら一般的に言う天使に値する。
その天使が問題を起こした場合、責任を取らなければならないのが・・・神。
のんびり姿勢から一転、一気に廊下を駆け、食堂にたどり着くとそこに広がっていた光景は・・・
「おっとまだ反省が足らないようですね」
「いでえええええええ!!何か足がいけない音鳴ってる!ギブギブギブギブ!!!」
チンピラ風のヤンキー、グラスが青年貴族風執事、ベルゼに蠍固めを極められ必死にタップし続ける光景と。
「いーち、にー、さーん・・・あら?今どれだけ数えたかしら?くすくすくす・・・」
「・・・・・・・・・(ズズズ)」
レファリーをしているようで全くできていないゴスロリ、アゲハと無言で茶を啜る似非忍者、アラクネという光景だった。
・・・なにこの混沌。
無性に、頭が痛くなってきた気がした。




