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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
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三十三話 帰還

 しばらく睨んでいたレイラだが、徐々に全力で走った後のように呼吸が荒くなっていく。

 原因はわかっている。俺とレイラの間にある壁のせいだろう。様々な色が混じりあった虹色の薄く透けた壁、レイラが持つ神器イージスによる【次元絶壁】だ。

 俺が手加減せずに力を放ったのも、これが展開されていることがわかっていたからだ。音なんて拡散し易い技を、何の策もなしに使うわけがない。対策したのは俺じゃなくて、レイラだけど。

 直感か知らないが、咄嗟に壁を張ったのはいい判断だったな。あれがなかったら、正直どのスキルを使えばいいか悩むところであった。他の選択肢なんて神器で吹き飛ばすか黒炎燃やすかぐらいしか選択肢が無かったんだよ。

 それにあのスキルは恐怖心を植えつけるのに一番最適だったしな。


 睨み合いの硬直状態から十分ぐらい経過すると、レイラは疲労困憊の様子で膝をつき、壁もどんどん薄くなっていき、ガシャン破片へと変わり空中に消えていった。

 なるほど、流石にチート性能を誇るスキルだけあって維持にはかなりの魔力が必要のようだ。

 俺は消費しても直ぐに補填されるから大丈夫だが、加護を与えたといっても人間のレイラでは長時間は無理のようだ。だから、最初兵士と戦っていた時は使っていなかったのか。

 キラキラときらめきながら砕け散って消えていく壁を見ながら、レイラのもとへ歩いていく。

 ふーむ、壁によって守られていた場所と守られていなかった場所の被害の差がすごいな。レイラのところは傷一つないが、俺の後ろは粉塵が舞っていて亀裂が全体的に走っている。こりゃもう使えないな。後で直しておくとしよう。

 レイラの目前にたどり着くと、レイラはまだ息を整え切れておらず、目を潤ませながら上目づかいでこちらを見てくる。

 これはなかなかそそられる光景で・・・ではないな。

 俺、別に嫌いというわけではないがロリコンでもないし、そもそも俺無性体だし。性別なんてこの体になった瞬間超越したわ。


『・・・・・・・・・・・』


「・・・・・・・・・・・」


 しばし互いに何を語るというわけでもなく見詰め合う俺とレイラ。

 数分が経過した時奇妙なことに気がついた、レイラの息切れが直る気配がないのだ。そればかりかよりひどくなっている気もする

 これは、もしや重度一歩手前の魔力欠乏だろうか?呼吸により空気中に漂う魔力を得ようとして、過呼吸になりかけている。これではレイラの身が危険だ。


『おい、だいじょ―――』


「俺の娘になにやってくれてんだてめえええええええええええええええ!!!」


 その瞬間、目の前に落ちてきた何かに俺は殴り飛ばされた。

 反射的に腕を顔の前に構え迫りくる拳を防ぐが、拳は止まることなく、ドゴンッ!と岩の塊を殴ったような音が響き、殴り飛ばされた衝撃で橋を削りながら後ずさる。

 いきなりの攻撃、本来なら有無を言わせず怒りの黒炎で燃やすところであったが、そんなことは今の俺に考えられなかった。

 顔をあげて、立ちふさがる人物をみる。

 身長は三メートルぐらいで、立っているだけでもレイラを丸々隠してしまうほどの大男。

 服を着ても隠せないほど筋骨隆々であり、もはや鎧など必要ないといわんばかりの筋肉をその身に纏っている。

 そしてつるりと光る毛一本無いスキンヘッド。

 やはり・・・もしかして・・・こいつは・・・


「おお痛え痛え・・・どんな堅え鎧してやがんだてめえ」


 痛そうに手を振り、顔を顰める大男。やはりこの聞き覚えのある野太い声は・・・


『・・・村長なのか?』


「あ?なんでそんな昔のことを・・・いやちょっと待て、もしかしてお前・・・?」


「―――フラウ!」


 村長が考え込むと、今度は薄い人型(・・)の霧が降りてきた。

 真っ白な霧はだんだんと濃度が上がっていき、完全に何も見えなくなったところで一気に周りへ散り一人の女性が中から現れる。

 蒼い髪に、蒼い瞳の妙齢の女。この声からして・・・もしかしてミスラか?こちらは一転してめちゃくちゃ変わっているようだ。髪の色も金から蒼に変わっているし。

 というか、何で皆昔と姿が変わってないの?百年経ったんじゃないのか?


『ミスラか?』


「え、なんで私の名前を・・・?いや、そういうことね」


 俺が名前を呼ぶと、ミスラは懐から短い杖を取り出し、魔力を杖に集中させる。

 ・・・あれ?なんで臨戦態勢?


「まさかとは思っていたけど・・・皇国もついに悪魔召還に成功したみたいね・・・だけれど、例え何を呼んだとしてもこの地は守りきって見せるわ!フラウ!少しだけこいつを抑えて!」


「え?いや、その・・・おう」


 おい、納得してるんじゃねえよ村長!何申し訳なさそうにこっち見てんだよ、止めろよ!

 そんなことを突っ込むまもなく、村長が殴りかかってくる。

 繰り出される拳を受け止め、弾き、受け流し、たまにカウンターを打ちながら互いに一進一退の攻防を繰り広げる。

 それほど本気を出していないが、今の俺と村長の実力は互角だ。というか、たった二本の腕だけで俺の攻撃を全て弾くとか、めちゃくちゃ強くないか村長。元Sランクは伊達じゃない。

 溜めが入った強烈な一撃を食らってよろめくと、その隙に村長は後ろへ跳躍する。

 村長が上へと跳び、そして俺の目に入ってきたのは杖を構えたミスラであった。やっと詠唱が終わったみたいだな、いや、正確には準備か。

 

「どいてフラウ!吹き飛べ、《爆霧エクスプローションミスト》!」


 杖に溜めた魔力を開放し、ミスラが何らかの魔術を発動する。

 その瞬間、俺の周りの大気が爆発した。

 いや、爆発したのは大気ではない。少しずつミスラの体から漏れ出ていた霧だ。

 可視できないぐらいの薄い霧を徐々に相手の周りに集め、魔術で信号を発信して爆発させるスキルか・・・まさに毒霧だな、二つ名は伊達ではない。使っているのは毒じゃなくて可燃性のガスみたいだけど。

 爆霧は盛大に周囲を破壊していくが、まあ予想はしていたが俺にダメージはない。

 外からの衝撃波は外骨格が全て吸収してしまうし、口から入ってくる熱気も喰ってしまえば問題なし。本当に【絶対捕食】は便利だ。

 結構自身のあった技なのか、ミスラも無傷の俺を見て驚きの表情を浮かべている。


「これでもダメなの・・・!こうなったら・・・!」


 ミスラは悔しそうに口元を歪めて、ポケットの中から蒼い拳大の水晶を取り出して・・・って、おいおいおい!

 あの水晶、なんか渦巻くみたいに膨大な魔力放ってるぞ!確実にやばいだろ!

 フラウもレイラも驚きに目を見開く中、ミスラは水晶を解き放っていく。 


「『渦巻き、回り回り、螺旋を描く蒼の波紋よ』」


 詠唱と共に渦巻く魔力は徐々に実体化し、光を通すことのない、まるで絵の具で描いた水のように気味の悪いぐらい実体のない青い水へと変化する。

 水晶は魔力が実体化することに比例するかのように、光を失い黒へと変わっていく。

 

「『天より来る慈悲の雨は大地を焼き、豊穣の証は闇へと還る』」


 水晶が完全に光を失った瞬間砕け散り、黒い結晶の欠片は霧のように空気へ溶けていく。

 その時にはもう、気味の悪い水は空を覆うほど広がっていた


「『溶かせ、融かせ、熔かせ、命蝕む毒の侵略』」


 レイラがなにやら達観した表情で自分と村長の周りに結界を張る。神器イージスによるものではない、懐から取り出した六角形の結晶からして魔道具によるものだろう。

 正三角形のタイルが綺麗にならんでいく結界は、SFっぽいな。

 俺も、若干諦めの感情と共に、空を見上げる。

 青い水は、ここら一帯を覆う雲のように広がり、つららのようなものが俺に向けて生えてくる。


「『災いを、患いを呼ぶ水の裁きをここに!《蝕毒雨(デッドレイン)》!』」


 大地を、生物を、海さえも毒殺する猛毒の雨が放たれた。




          *




「反省したか?」


「・・・ごめんなさい」


 フラウに叱られ正座するミスラ。


「本当にムーちゃん、大丈夫だったの?」


『俺には毒なんか効かないよ』


 その横で楽しそうに再開を楽しむ、レイラと俺。

 そして・・・


『・・・それで、結局これどうするんだ?』


「・・・直そうにも、ここまで壊れちまったらどうしようもねえ。お前さんのお陰で湖の汚染は大丈夫だが、一歩でも踏み外そうものなら即死だからな。この橋は破棄だ」


「ごめんなさい」


 そして、無残に完璧に完膚なきまでに破壊しつくされた橋と、紫色の氷によって湖の中で区切られている毒々しい青い水。

 俺の咆哮で死に掛けていた橋は、ミスラの魔術によってとどめをさされてしまった。

 ミスラが発動した魔術は、聞いたところ個人で発動するようなものではないらしい。十人以上の魔術師が協力して死にかけながら編むタイプの戦略級魔術だったらしい。

 魔術名は【蝕命雨(デッドレイン)】。その名のとおり、この青い水に触れた生物は一瞬で死ぬ。

 飲んだらもちろんアウト、触れるのもアウト、気化した分を吸うのもアウトとスリーアウトとなっていて、これ一つで国を滅ぼせるとか何たら。

 しかもかなり効果は強力な魔術であるのに超広域殲滅タイプ、更にいうと、この毒が効くのは生物だけではない。物体であっても容赦なく溶かすのだ。

 まさに強化版酸性雨。亀裂が入りところどころが砕けていた橋は、痕跡すら残さず溶けてしまった。

 まあ、最強の鎧とるこの外骨格を溶かすほどではなかったのだが。【猛毒耐性】をも組み合わさった鎧に勝てる毒など存在しない。

 だが、俺は大丈夫でも橋と湖がダメであった。一滴どころか霧吹き状態のものを吹きかけられても死にかねない猛毒だ、そんなものが湖に大量に溶けた場合この湖は世界最悪の死の湖に変わってしまう。

 尾を伸ばして【絶望の呪氷】でせき止めて蓋をしてあるため、現在は問題ないかもしれないが、この氷は非常に脆い。

 元々は敵を凍らせて砕くことにより相手を殺すためのスキルなのだ、こういったことに向いているはずがない。

 そのため、現在も大急ぎで凍結中。強力だが効果範囲が俺の体から一メートルしかない【絶望の呪氷】はよくアニメで見るみたいに一気に広域が凍りつくなんてことはできないため、いちいち尾で掻き回すようにして凍らせるしかない。

 救いは尾がどこまでも伸びてくれることだな。ハイスペックなこの体に感謝だ。


「ム、ムーちゃんもお母さんの事許してあげてね?あの、その・・・」


『安心しろ。俺は別に怒ってない』


「あ、ありがとう!ムーちゃん!」


「ほれ、お前も謝れ」


「ご、ごめんなさいムーちゃん。ちょっと最近イラつくことがあってね?それでどうしても自制が・・・」


「いいわけしない」


「あう・・・」


 ゴチンッ!とフラウが拳をミスラの頭に振り下ろし、かなり痛かったのかミスラは頭を抱える。

 ため息をつきながら手を頭に当て説教をするフラウと、正座で反省するミスラ。

 なんか、百年前と立場が変わってないかお前ら。 

 ぼんやりとその珍しい光景を眺めていると、門の向こう側から騒がしい音が聞こえてくる。

 もしかして、村の自警団か?

 レイラもその音に気づいたのか、顔を顰める。


「ムーちゃん、昔みたいに影の中に入って隠れることってできる?」


『できるかと言えばできるが・・・見つからないほうがいいか』


「うん、できればそうして欲しい。ムーちゃん言っちゃ悪いかもしれないけど、結構怖いから」


 俺はショックを受けた。まさか、そんなことをレイラにはっきりと言われてしまうなんて・・・死にたい。


「こ、こーらー!そんな落ち込んでないで早く!皆に見つかるとムーちゃんもダメでしょ!」


『まあ、実際そうだな』


 手早く【従体生成】を発動し、今までもお世話になってきた『巨虫(ビックキャタピラー)』を生成する。やはり、これが一番だ。

 適度に警戒されない。丁度いい大きさ。欠点は移動速度が遅いことだな。

 

「懐かしいね~ムーちゃん。昔はこんなに可愛かったのに・・・今は・・・」


『・・・なんか黒くなってないかレイラ?』


「百年以上待たせるムーちゃんなんて知らないもん」


 拗ねた表情でプイッと横を向くレイラ。その言葉から行くと、レイラももう百歳以上なのだから、その子供みたいな口調はどうだろうか?見た目が子供だからいいのか?


「・・・失礼なこと考えてない?」


『気のせいじゃないか?ほら、自警団が来るぞ。フラウもその辺にしとけ』


 ミスラも限界っぽい。顔も青くなってるし、全体的にプルプル震えている。


「ああ、そうだな・・・ちゃんと反省しろよ」


「ううう、わかりました・・・」


 浮き上がるようにして正座を崩し、空中で寝転がる。なんか幽霊みたいになったもんだな。

 それから数分も経つまもなく、自警団のリーダーらしき人物がこちらへ走ってきた。

 銀髪碧眼の好青年は、全力でこちらへ走ってきたにもかかわらず息切れ一つしないのは、よほど鍛えてあるからなのだろう。


「大丈夫ですか!聖女様!」


 いきなりレイラの手をとる銀髪。こいつ、殺されたいのか?

 もちろんそんな言葉が届くわけもなく、レイラの手を握ったまま熱い視線で会話を続ける銀髪。レイラも若干引き気味だ。


「ええ、私は大丈夫です。そちらは?」


「こちらも、問題はありません。騒ぎも小さいものですし、すぐに沈静化されました。第二門と第三門もねずみ一匹通しておりません」


 そのわりに、レイラの後ろに催眠魔術で操られた通したのはどうなんだろうな。とは言わない。

 あれは一応禁忌だしな。使ってくるとは予想できなかったのだろう。

 一通りしゃべり切った銀髪は、疑問の眼をこちらへ向けてくる。ああ、やっぱり気になるのか。


「ところで・・・そちらの虫はなんでしょう?」


「え、あ、その・・・ペットです!偶然そこで拾いまして、それでですね!ここで飼おうと思うんですよ!いいですよね!?」


「危険は無さそうですから・・・問題ないでしょうね。国民には聖女様の従魔として伝えておきます。それでは失礼します」


 一礼した後、再びダッシュで門の中に戻っていく銀髪。嵐っていうか疾風みたいなやつだったな。


「悪いやつじゃないんだがな・・・俺たちに一切気づかないのは難点だな」


「ほんとよね。私たちにも挨拶ぐらいないのかしら?やっぱり、愛の力って凄いわね」


『ちょっと待て・・・つまり、あいつはレイラのことが好きなのか?』


「まあ、あの様子からしてそうだな」


『・・・よし殺す』


 影の中から尾を出し、魔力をこめる。ここからなら壁を貫通してあいつに気づかれることなく殺せる。

 

「ダメだよムーちゃん!私は、別にあの人と恋仲ってわけじゃないから!」


『ちっ、命拾いしたな』


「なんか、お前もレイラ馬鹿に磨きがかかってないか・・・?」


 気のせいだ。決して百年ぶりの再会による反動でない。


「まあ、いいか・・・俺たちも行くぞ」


「そうだね・・・それじゃあ!」


 三人は後ろへ振り返り、一人は苦笑しながら、一人は微笑みながら、一人は幼き笑顔で、百年ぶりの最大級の笑顔で告げた。


「「「―――おかえり、ムーちゃん!」」」


『―――ただいま、みんな』

ううう、昔のキャラだすとさっぱり設定を忘れてしまう・・・。

なんか矛盾でもあったら報告お願いしまう。

一応全話見直したんですけど、見落としがあるかもしれないんで。

キャラ設定表でも、作ろうかな・・・。

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