表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
38/79

三十二話 介入

番外編追加しました。

リクエストにあった神器図鑑です。

でも、微妙にネタバレらしきものも入っているので、見たくない人は見ないほうがいいです。

本編でも、説明はしますし。

 静寂が訪れた。

 繰り出されていた攻撃の手は止まり、その場にいる誰もが次の行動に移せないでいた。

 それもそのはずであろう。秘策として用意されていた催眠魔術が成功しそうな瞬間、突如上空から出現した謎の生物に潰されてしまったのだから。

 

「な、なんだ貴様!どこから現れた!?」


 使者は一人騒いでいるが、誰ひとり反応しない、いやできない。

 皇国最大の騎士団、精霊騎士団所属の騎士全員が、謎の生命体の覇気に飲まれているからだ。

 一騎士として武を納めているからの彼我との戦力差の把握、必然的に強くなれば強くなるほど理解できてしまう、絶望的な力という名の壁。

 平騎士、部隊長、百人長と階級が上がれば上がるほど顔は青ざめ、手の震えが大きくなっているのも、しょうがないことだ。それに気付くことのできていない使者は、たいそう滑稽な道化に映っているが。


 その様子を眺めていた俺は、未だ虚ろな目でナイフを突き出そうとしている青年を【罪滅の獄炎】で一気に燃やした。

 既にこいつの精神は魔術により死んでいる。体が生きていても、心が生きていなければただの人形、ネロの言っていた生きた死体でしかない。

 せめてもの、痛みもなくこの世から消してやるのが情けというものだろう。痛覚がいまだ生きているかどうかは知らないが。

 

「あ、あの・・・!」


『下がってろ』


 レイラが何かを聞きたそうにこちらを見てきているが、否定の言葉を発することもなく俺は頭を小さく撫でてから後ろに下がるよう背を押してやる。

 つまずくように後ろへ下がったレイラは、まだ何か聞きたそうな不満げな表情をしていたが、俺が何も語らないのを感じたのか、一度頭を下げた後城門の方へ走っていった。

 これで、舞台は整った。

 役者は天の理に逆らいし愚かな罪人と、断罪者。罪人が奴らで、断罪者が俺。

 さあ、断罪開始するとしよう。


『貴様らにはいくつか聞きたいことがある。戯言をぬかすようなら・・・』


「ふ、ふざけるな!精霊騎士団!あいつを殺せぇっ!」


 最後まで俺の言葉を聞くことなく、顔を真っ赤にした使者が後ろにいる騎士たちに怒鳴るように命令をし、騎士達が決死の表情で武器を構えていく。

 やはり、騎士であるからには上官の命令は絶対なのだろう。目に見えるほど手は震え、剣と籠手がぶつかりガチャガチャと騒々しい音を立てているが、誰ひとり逃げようとはしない。

 始まりは一人の騎士が放ったであろう矢であった。

 手が震えていたのかまともに狙いが定まっていなかったひょろひょろの矢であったが、それを機に関を切ったように騎士達は俺へと襲いかかった。

 自らの恐怖を隠すように雄叫びを上げる騎士達。その手に今まで頼ってきた武器(相棒)を携え、何かを振り払うように襲いかかってくる。

 剣が、矢が、魔術が、殺意を持って俺へと突き進んでくる。

 確かに、それは普通の相手ならば十分だったのだろう。これだけの戦力があれば龍は無理でも、並大抵の魔物ならばひとたまりもないはずだ。

 だが、しかし・・・


『考え方が甘いんだよ』


 俺は特に焦ることもなく、石橋に脚の爪を食い込ませ尾の針を橋に突き刺し、姿勢を低くする。

 口を小さく開き、周りの大気を吸い集め肺で圧縮し続ける。

 圧縮された大気により胸もとの装甲が唸り声を上げるように軋み、背中からは黒炎が立ち上る。

 黒き炎を背負う姿は、まるで阿修羅。その呼吸は命を啜る鬼のようであり、地面を這うように低い姿勢は今にも飛びかかってくる獣のよう。

 だが、騎士達は止まらない。本能が全力で警鐘を鳴らそうと、騎士として培ってきた洗脳に近い忠誠心がそれをねじ伏せる。


「死ねえぇぇぇぇぇ!化物ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 一番先頭の騎士がそう叫びながら剣を振り下ろした。

 おそらく渾身の一撃、体から漏れ出た金の光が剣へと集合し、まるで聖剣のように神々しい姿の剣は俺へと突き進んでくる。

 が、俺は恐れない、恐れる必要はない。この身を貫く刃など存在しないのだから。 


『失せろ、愚か者どもが』


 冷めた目でそれを見ながら、一気に圧縮された大気を開放し、さらに一つのスキル―――


『―――――□□□□□□□□□□□□!!!!』


 ―――【威嚇叫声】を発動した。



 その瞬間―――世界が啼いた。


 


          *




〈ジッダ王国騎士団長〉


「団長~もう野営の準備をしたほうがいいんじゃないですか~?」


「そうか?まだ、日は沈んでいないのだから・・・」


「いやいや、察してくださいよ~体力馬鹿な団長とそれに昔から付き合わされていた俺たちはともかく、新人どもにはキツイですよ~」


 幼き頃からの親友に忠告され、後ろを見れば確かに歩いているが顔には疲労が濃く見え、心なしか列も崩れている。

 しょうがない、本当ならもう少し歩く予定であったが、疲労困憊の状態では肝心の訓練も効果がないだろう。


「そうだな。ならお前が指揮を執って野営の準備だ。俺は周りに危険がないか確かめてくる」


「はいよ。―――おーい、新人ども!野営の準備だ!急がねえと飯食いっぱぐれるぞ!」


 そう命令が下されると、新人たちはほっとした表情をし、テントを張り始める。

 俺はそれを見ながら情けないと一つ溜息をつき、親友に告げた通り周りの探索を始めた。

 

 今回は、新人どもの初めての実戦という遠征だった。

 他と比べ比較的魔物被害が少ない王国内であっても、魔物が全くいないわけではない。

 定期的に魔物は狩らないと、どんどん増えてしまうのだ。

 ギルドと言った便利屋もどきも我が国には存在するが、彼らへの依頼は金銭が必要となる。

 難しいものでなければそこまで金がかかることもないが、それでも辺境の村などはそこまでの金銭を保有しておらず、日々魔物に怯える日々を過ごしている。

 そのため、国民を守るためにも我ら騎士団が動かなければいけないのだ。

 新人の初の遠征ということで王国内でも強大な魔物が出ず王都から離れていない場所を選んで遠征を行っているが、ただの移動というだけでこの体たらく、もう少し鍛えてからでた方が良かっただろうか?

 いや、実戦は兵士にとって最高の訓練という言葉があったはずだ。これを機に、新人たちに自分たちの錬度を見直させるのにもやはり実戦は欠かせない。 

 最近は、大陸内でも大規模な事件が多数発生している。

 数年前には我が国でも一つの村が独立したはずだし、それが原因で皇国との諍いも多い。 

 憎き侵略者から美しき王都を守るため、戦力増強は我らの義務だ。 


「・・・よし、特に危険はなさそうだな」


 一通り野営地の周囲の巡回も終わり、自分のテントに戻ろうとしたところ奇妙な音が耳についた。

 まるで金属を引っ掻くような耳に付く音。木霊してくるように遠くから聞こえるからには、山の奥の魔物(おそらく鳴き声からして蟲)が遠吠えでもしたのだろうか、そう私は軽く考えていた。

 その瞬間―――全身が金縛りにあったように硬直した。


「・・・っ!?」


 慌てて金縛りを振り払い、あたりを警戒する。

 今の硬直には騎士団長にも心当たりがあった、魔物の咆哮を浴びた時や不死種のスキルによってよくかかるバッドステータスの一つである【恐怖】だ。

 【恐怖】は、【麻痺】と【猛毒】に並ぶ凶悪なバッドステータスだ。対処方法も精神を鍛える、心を強くすると言った抽象的なものしか存在せず、他のものに比べ明確な答えがない。

 その効果は格の差があればあるほど高く、最低でも数秒の硬直、次にひどいのが全身のけいれんと恐怖による精神の一時的崩壊、そして最悪なのが失神だ。一秒一瞬をかけて戦う戦闘の中で、これほど恐ろしいものはない。

 騎士団長は昔経験して死にかけたこともあって、専用のアクセサリーで状態異常はある程度軽減できるようにしているが、無効ではないのだ。

 急ぎ周囲の気配を探るが、敵影は見えない。

 【敵意感知】で周りを確認しても特に異常は見当たらない、ならばあの遠吠えは意図したものではなく本当に気まぐれだったのだろうか?

 この場で考えていてもしょうがないと思い野営地に戻ろうと思うと、通信用の魔道具であるピアスから着信が届いた。震えのリズムからして、親友だろうか? 


「どうかしたのか?こちらは特に異常はなしで今そちらへ・・・」


『急いでくれ団長!こっちはさっきの魔物の遠吠えで新人どもは全滅、それに恐慌状態になった魔物たちが襲撃をかけてきやがる!なんとか食い止めているが、そんなに長く持たねえ!くそっ、寝ぼけてないでさっさと起きろよてめえらぁ!』


 ピアスからはめったに聞いたことのない親友の焦る声と、炎が燃え盛る音が聞こえてくる。

 これはいかん!


「今行くぞ!」


 私は野営地へ全速力で走り始めた。


〈side out〉




〈side 獣人の村長〉


 耳にさわるような、聞いていてもあまり心地よくない音が聞こえる。

 距離はかなり離れており、普通ならば風の音に紛れ聞こえるはずがないのだが、耳のいい彼にはしっかりと聞こえた。


「・・・っち、何が起きてやがる」


「お主も気づいたか」


 むくりと体を起こすと、視界に狼の顔をした老人がうつる。


「親父か・・・一体何だこりゃ?音からしてかなり距離が離れているのに、背筋が寒くなるほど魔力が篭ってやがる」


「竜ではない。あの御方ならともかく、これほどの咆哮を放てる竜はわしでも聞いたことがない」


「それなら、龍神様じゃねえのか?」


「あの御方は、無意味に我らを脅すことなどせん。あれは蟲の声であった」


「なんだ?新しく蟲の魔王でも現れたか?はは、馬鹿らしいなあ、おい」


「随分と余裕だな」


「蟲如きが、俺に勝てるわけねえ。踏みつぶせば問題ねえ。おら、俺はまだ寝るからさっさと自分の部屋に帰りな」


 息子に急かされ、老狼は不満そうな顔をして部屋を出ていく。


「魔王か・・・そんな生易しい存在であればいいのだが」


 そんな心配は、誰にも聞かれることなく風に消えていった。


〈side out〉




          *




 まるで世界が悲鳴を上げるような、名状し難い轟音が放たれた。

 それは、あくまで威嚇のための咆哮。だが、極限まで圧縮された大気の開放とそれを増幅させる【威嚇叫声】は威嚇などという生半可な結果は残さない。

 重火器の爆撃にも匹敵するほどの破壊力を内包した音の爆弾は、その場にいるすべてを蹂躙し尽くす。

 迫り来る魔術や矢は全て強引にかき消され、剣を手に襲いかかっていた前衛の騎士達は耳を抑えることも叶わず、全身を衝撃波で叩きつけられ爆散し絶命し、爆臓物や血が周囲に撒き散らされ、鼻をつまみたくなるような独特の臭気が漂う。

 例え衝撃波を耐えきり絶命を避けられたとしても失神は避けられず、それすら耐え切った猛者であっても【威嚇叫声】により付与され【恐怖】から逃げることは叶わない。

 たった一声。

 それだけで、精霊騎士団は壊滅した。

 前衛の八十人は死亡、もしくは柵を突き抜け湖に落下、そして未だ意識を保つことを出来ているのは千人中百人。その中で立つことの出来ている者は指で数えられるほどしかいない。

 比較的近いところにいたはずの使者は、何らかの魔道具を使ったのか生きてはいるが落下防止用の柵に叩きつけられ肋骨が折れて肺に刺さったのか口から血を吐きながら気絶している。あれでは長くないだろうな。

 

『・・・次は、これ以上地獄を味わってもらうとしよう』


 それだけ告げると、未だ立つことのできない騎士を合わせ、騎士達は一斉に武器を捨て始めた。

 降参ということなのだろうか、恐怖に押しつぶされてとの行動とは理解できるが、王に絶対的な忠誠を誓うはずの騎士が恐怖に負けるとはどうなのだろうか?

 神敵とか言ってたから、あれは神界でも噂に聞く神殿騎士団とかそんな感じなのだろうか?

 勝手に神の名前を語って、やりたい放題やる集団。

 見ている分には実に滑稽で面白いから、神界では人気なんだよな。オーディンがたまにテレビで見ていたりするが、俺的には正直微妙なんだよな。なんか勝手なこと言いまくってて腹立つ。

 でも、このまま帰らせるのも微妙だ。少々脅していくとしよう、聞きたいこともあるしな。

 橋に突き刺していた尾を引き抜き、死体を飛び越え、立つことのできている騎士の前に一瞬で移動する。

 驚きが顔に出る前に、息が止まらない程度に首を掴む。


『さあ、教えてもらおうか?なぜ貴様らはここに来た?』


「ひぃっ、いや、私たちは教皇様に命令を受けただけで・・・」


『そうか・・・』


 手を離し、騎士を地面に落とす。

 苦悶の表情を浮かべる騎士であったが、俺の手が首から離れていることに気づきほっとした顔をする。

 ・・・甘いな。

 騎士が立ち上がろうとした瞬間、何かが騎士の顔を掠めた。

 真っ黒な針、【鉄針生成】で飛ばした尾の針だ。


「・・・!?」


『ならばその教皇とやらに言っておけ。この地は、私の土地だ。次、貴様らがこの地に訪れるのならば、貴様の国を地獄の炎で燃やしにいくと』 


 そう俺が告げ、【罪滅の獄炎】で一気に死体を燃やし尽くす。

 石橋に染み込んだ血も撒き散らされた臓物も骨も、灰どころかチリすら残らず、騎士達は存在証明を何一つ残すことなく消えた。

 引きつった顔をする騎士に再び、針を飛ばし、今度は耳を吹き飛ばす。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!お、俺の耳がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


『これ以上私の機嫌が悪くなる前に、さっさと帰ることをおすすめしよう』


 それだけ告げると、騎士達は撤退を開始した。

 立つのことできていた騎士は悲鳴を上げながら走り、腰が抜けてしまった騎士は這いずるように必死に手を動かし、少しでも俺から距離をとろうする。

 それは、大陸最大である皇国の中でも最大と言われる精霊騎士団とは思えないほど、無様なものであった。

 

 そんな光景を眺めながら、俺は内心ホッとしていた。

 今回の大義名分は、一番最初に燃やした青年だ。

 察しての通り、催眠魔術。人間の中でも禁止されているが、実はあれは神々が禁止させたのだ。

 理由はいたって簡単。カルマ値(いわゆるどれだけ生前に罪を犯したか)の計算がとんでもなくめんどくさくなるのだ。

 例えば、一人の人間(以降Aと呼ぶ)が催眠魔術を使って一人の人間(以降Bと呼ぶ)を操り、Bが誰かを殺したとする。

 通常の場合は、結果だけ見れば殺したBのカルマ値が上がるのだが、過程を見ればAがBの分だけカルマ値を負わなければいけないはずだ。 

 しかし、これは意見が割れてしまったのだ。

 昔からの規則を守りBを罪とする派と、革新的にBではなくAを罪とする派、二つの派閥が争い、神界が闇に包まれ、仕事が捗っていなかったとき、一人の神が言ったのだ。


「もういっそ、禁止させたらどうなんだろうか?」


 こうして、催眠魔術の使用を発見した場合、神は警告という意味で介入を許されている。

 その際は、多少の殺傷も許されている。まあ、ただ私は神だから今すぐやめなさいって言っても聞くわけないからな、力を示すということで許されているのだ。

 だが、全員死んでしまえばその警告を伝えることもできない。それを俺は心配していたのだ。

 さっきは特に催眠魔術については警告しておかなかったが、まあ最終的に同じことだろう。

 二回目は、更正の余地なしとして関係するもの全ての殺害が許されているからな。

 手加減してやる義理もない、速やかに、徹底的に、この世界からリタイアしてもらおうとしよう。


 さてと、それでは先程からこちらを睨んできているレイラの説得にでもするか。

修正

さっさろ→さっさと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ