二十四話 終焉、そして別れ
黒き閃光が全てを薙ぎ払い、蹂躙する。
黒き焔が全てを包み込み、燃やし尽くす。
そこに一片の慈悲はなく、ありとあらゆるもの全て、そこに存在するものは等しく消滅していく。
地獄の炎よりも、なお熱き極熱の塊は、膨張を繰り返し拡大し、全てを焼失させていく。
その場にて原型を保てるものは無いに等しい。消し炭になるすら許されず、消滅していく。
そしてこの世界に存在したという証明すら残さず、世界から消滅する。
それの光景はまるで、世界に終わりを告げる、終焉の日のように。
*
大地は半球状に抉り消し飛ばされ、先ほどまであったはずの緑豊かな森はなくなり、灰色の大地が広がる。
抉られた大地の表面は驚くほど滑らかになっており、元はただの土のはずなのに今はガラスのように滑らかだ。
脚を突き立てれば砕ける程度の脆さではあるが、近くから見た限り鏡のように自分の姿が映っている。
そして、所々ではあるが空から射す太陽の光とぶつかり、輝く場所がある。
その一部を手で掬い、見てみるとそれは無色の宝石。
元の世界で見たものとはまるでちがうが、なんとなくわかる。これは、ダイヤモンドだ。
ダイヤモンドの生成方法は確か、超高温と超高圧をかけると炭素が固まってできるはずだ。
・・・太陽より熱ければ、いけるか・・・?これぞまさに人造・・・いや、神造ダイヤ?俺一応魔神だし。
『・・・嘘だろ・・・?』
思わず、口から心の声が漏れ出てしまう。
【終焉の黒太陽】は、唖然としてしまうほどの強力なスキルであった。
黒太陽という名前からして、太陽を作るスキルだとは思っていたが、これほどまでだとは思わなかった。
いくら太陽を作るといっても、小さければそこまでではないだろうと、かなり侮っていた。
生物というか、生命体は全て消滅。もちろん、中心にいたクズ二匹は言うまでもない。
大地も綺麗に消滅、というか焼失。断面が、すごく光り輝いています。
黒太陽ギリギリの場所にいた植物に燃え移っているということもない。燃え移るとかそれ以前に、炎が付いた時点で一瞬で燃え尽きる。
そのせいで連鎖が発生、木どころか草一本も残ってはいない。
・・・よく考えてみたら、太陽作ってこれだけの被害ですめばいいほうなのか?
ちなみにエレメル村は無事、とっさに絶盾を広げたのがよかった。マジで危なかった。
それにしても無事でよかった、いや~よかった。
そのせいで、なんか空中に浮いちゃってるけど。
・・・いやね・・・なんか某天空城みたいになっちゃてるんだよ。
絶盾は使用者を中心に、球体状に次元の断層をつくる神器だ。
普通の生物は次元の断層を超えることはできないから、中にいるものは守られる。
次元の断層は球体状・・・つまり全方面に展開されるから、隙はない。
これが絶盾《次元の拒絶》の能力。
全てのものをを拒絶する、絶対防御の盾。
しかも、次元断層の範囲は自分で決められる。いま設定された範囲は、村のふた回りぐらいの大きさだ。自分だけでなく、街ごと守るとか拠点防衛にも使えるのだ。
こんだけ聞けばとても便利な神器に聞こえるが、実は強力な分だけもちろんデメリットもある。
一度発動させたら、次元の断層を動かすことはできないのだ。
完璧に防ぐことはできる、だが移動中でうっかり使おうものならば自分が次元の壁にぶち当たることになる。
遠距離攻撃でも、次元の断層を突き抜けることなんてできないから、一方的に攻撃するとかも無理。
つまり何が言いたいかというと、敵の攻撃は喰らわないがこっちからも攻撃できないのだ。
攻撃するには解除するしかない、だけど解除したらこちらに攻撃が来る。
全くもって使いづらい。
その結果が、現在だ。
黒太陽の猛威からは避けることはできたが、あれ解除したら落ちるよね?
ギリギリ端っこの部分が地面と接しているから大丈夫とか、そういう問題じゃない。あれは、完璧に落ちる。
・・・まじで、どうしよう・・・。
俺は若干頭を悩ませながら、空中村みたいになっているエレメル村へと向かった。
*
次元の断層を超えて村に入る。
えっ?さっき入れないっていたばかりじゃないかって?
俺は一応持ち主であるし、魔神種であるせいか次元を超えるなんてそう難しいことじゃない。
すり抜ける感じで行けば、案外できるものだ。
あらためて見てみるとエレメル村はかなりひどい状況だった。
家は全部燃えてるし、残っている建物は石造りの教会だけだ。それも、ステンドガラスは何枚か破られてる。
畑も全滅、果樹はいくつか残っているみたいだが・・・。
広場に向かうと、そこには物のように重なり合う村人たち。
再びクズどもに怒りが沸くが、もういない奴らになにもすることはできないことに気がつき、怒りを収めて村人たちのところに向かう。
積み上げてある村人の山を崩し、地面に横たえていく。
手はもちろん、【鋼糸生成】でつくった鋼糸に巻かれている。爪とか鋭いし、刺さったら目も当てられない事態になる。
全員並べ終える頃には、既に夕方となっていた。
怪我をしている村人はゼロ。外傷は全員なく、心拍音と呼吸音が聞こえるからみんな生きている。
だが、一人として目を覚ます者はいない。
ネロの黒剣でやられたのだろう、体には全く異常が見つからないのに目を覚ます気配すらない。
悔しさに手を軋むほど握り締める、しかしこれだけはどうしようもない。
俺には魂どころか、通常医療の知識さえ疎いのだから。魂の治し方なんて、わからない。
若干鬱になりながら、村人とは離れた場所に倒れている村長たちのところに向かう。
村長は、村人たちと違って全身傷だらけであった。
顔にも土が付いているし、服も泥だらけ。森で戦ったからか、木の破片などもついている。
そんなひどい状態ではあるが、出血は止まっているし心拍音も問題ない。生きてはいる。
『・・・お疲れ・・・』
そう短い労いの声をかけ、なるべく汚れを払ってやり、肩に担ぐ。もちろん、担ぐ時も気をつけなければいけない。
返事は期待していない、ただ一方的に独り言をつぶやいただけだ。
虚しい気持ちを抑え、ミスラの場所へと向かう。
地面にうつ伏せに倒れるミスラの体も傷はない。ネロに後ろから一撃でやられたからだ。
『・・・約束・・・守ったぞ・・・』
土を払ってやり、担ぎ上げる。
最後に交わした約束、レイラを守ること、俺はやり遂げたのだ。
自分が最初、この村に来たことを拒まなかった人。俺の恩人とも言っても過言ではない。
村長も同じだ、最初の日は不安そうであったが次の日は難色を示すことなく朗らかに笑いかけてくれていた。
皆、俺を拒むことなんてしなかった。
『・・・・・・くっ・・・!』
胸が苦しくなる、どうして、守れなかったのか。
理由は既に理解している。それは、俺に力がなかったせいだ。
そのせいで、皆はもう帰らぬ人となってしまった。
生き残りは、ただ一人のみ。更に、生き残りである少女レイラにもトラウマに残るかもしれない恐怖をあたえてしまった。
涙をこらえ、後悔を押さえ込み二人を村人たちが並ぶ場所に運ぶ。
そして、広場に綺麗に並べた村人たちに一つのスキルを発動した。
『・・・・・・さようなら・・・【回帰する生命の白炎】・・・発動・・・』
別れの言葉を告げ【燃え盛る憎悪の太陽】固有能力の一つ、【回帰する生命の白炎】を発動する。
能力詳細は見えなくてわからなかったが、何故かこのスキルを使わなければいけないと心の奥底で感じたのだ。
地面から間欠泉のごとく吹き出る真っ白に光り輝く炎。
光り輝く白の炎は、抱きかかえるように皆を優しく包む。
先程までクズどもを焼き殺してきた悪意の黒い炎とは全く違う、温かみを備えた白い炎を。
せめて、魂は殺されようとも成仏ができるよう。
白炎は俺の意思に従い包み込み、皆を燃やしていく。
最後に見えた村人たちの顔は、笑っているような気がした。
黒い仮面のような兜に光る目。
その顔はもう喜怒哀楽を表現することはなくとも、中身は変わらない。
そこからは一筋の涙がこぼれ伝っていく。
*
白炎は、すべてを燃やしていった。
先程まで並んでいた村人たちはもういない。
白炎に包まれて、燃えていった。
頬に暖かい感触がする。どうやら自分でも気づかぬうちに涙が流れていたようだ。
涙をぬぐい、手を合わせ祈る。
―――どうか、皆が成仏できましたように。
人に仇なす魔物の神が、人のため神に祈るのはとても滑稽な話であろう。
それでも、俺は祈るのをやめることはできなかった。
本編終わったら、番外編でもやろうかな・・・?
何か見たい話とか、要望とかあったら教えてくれるとありがたいです。
後、ダイヤは素人知識。
間違ってたらごめんなさい。




