二十二話 黒剣ナイトメアホロウ
後、音変えました。流石に、貫く音でガシャァァァンはないかと思って。
今回の視点はネロです。
読まなくても、ストーリー的には関係ないかな・・・?
〈side ネロ〉
パキパキパキと静かな音を立てながら、黒剣が虫の口内を貫く。
閉じかけた牙と牙の間を掠るように、黒剣の刃は滑り込んでいた。
最初は自分の目を疑った、しかしその疑問をすぐに消え去り、喜びだけが心の中を渦巻いていく。
そう、やっと死んだのだ。
今まで自分を苦しめていた虫が。
「・・・ハハッハハハッ・・・アハハハ、ハハハハハハッッ!!!勝った!俺の勝ちだ!糞虫ごときが、俺に勝てるわけねえんだよ!ギャハハハハハハ!」
竜殺し達成時に手に入れたスキル【竜化】の下位のスキル、【部分竜化】を使い、背中に黒い竜翼を生やしたネロは、空中に滞空しながら高笑いを続ける。
なにせ、散々自分をコケにしてきたものが自分に殺されたのだ。ネロは今、最高の幸福感に満ち溢れていた。
最初見たときは、ただ存在進化しただけだと思った。
魔物も進化することは一応知っているし、何らかの特別な条件が合致すると存在進化することも知っている。
そして魔物の中でも、魔蟲種はその中でも一番存在進化しやすく、そしてしにくい種族だ。
言葉は矛盾しているかもしれないが、この表現が一番正しい。
魔蟲種は、その虫という性質上極めて存在進化しやすい種族なのだが、何せ頭が足らない。
下位の魔蟲種などは、ほかの魔物を殺すということも思い浮かばず、ただ植物をかじり、その植物の魔力を吸い取って何十年もかけて存在進化するか、もしくは偶然近くにいた魔物が寿命によって死ぬことで拡散される魔力を吸い存在進化するかしかない。
さらに言うと、一回存在進化しても頭がよくなるわけではない。はっきり言って存在進化前と大して変わらない。知能ができるのは、上位の『蟲人』になってからくらいだ。
効率のいい狩りのできない魔蟲種は、存在進化のための必要魔力は少なくても、その魔力を集めることさえできないのだ。
ただし、あの『混沌百足』は正確に人間種の言葉を理解していた。
言葉が理解できる、それはつまり知能を持っているということを証明する。
つまり、あの虫が存在進化する可能性は十分にあったのだ。
だから、あまり疑問に思わなかった。それが失敗だった。
その力は圧倒的であった。
その速さは目で捉えることはできず、斬撃も全て避けられてしまった。
【正夢】による予知も、既に今日の分は終了してしまっており、攻撃を事前に察知することもできない。
更に言うと・・・ナイトメアホロウの弱点も見破られてしまった。
この剣は、物体に干渉できない。
魔法などは剣で切り払うこともできるが、弓矢などで攻撃されてしまった場合、ほかの武器を持っていない俺には対処できないため避けるしかない。
もっとも、そういう遠距離攻撃タイプの奴に出会う場合は【正夢】などで事前にわかるし、一番最初に狙いをつけて殺すことにしている。
大抵の遠距離攻撃タイプは俺の剣速についてこれることはないので問題はなかったが、虫は違った。
あいつは、俺に対して全て近距離攻撃で攻めてきた。
弓などは狙いをつけるために少しだけ立ち止まる。そこを狙えば直ぐに首も狩れるが、常に動き続けることができる近距離攻撃タイプは狙いが付けづらい。
更に言うと、俺の斬撃も避けられてしまっては打つ手がない。
だから俺は、奥の手を実行した。
それは、最強スキルの一つである【竜化】だ。
昔であった偉そうな竜を殺した時に、【竜殺し】の称号と共に手に入ったスキルだ。
その効果は、自分が竜に変化することができること。
竜殺しが竜になっても、かえって弱体化してると普通は思うかもしれないがそれは違う。
竜の方が魔力も人間と比べても圧倒的、膂力も強い。
三柱の加護持ちの俺であっても、その魔力を超えることはできない。ましてや膂力などもってのほかだ。
竜へと変化したあとならば、その有り余る魔力を使い黒剣を大量に複製し、敵に降らせることができる。これが、俺の竜化後の戦術だ。
稀に飛ぶやつもいるが、だいたいの奴は空を飛ぶことなどできない。それゆえに高度を飛び続ける俺に攻撃は届かない。
弓も、例え直撃しても竜鱗を貫くことは不可能。神器ならば可能かもしれないが、神器を持っている奴は俺に立ち向かおうとしない。
理解しているからだ、自分には勝てないと。
このスキルを使ったのはこれで二回目、一回目のやつは二柱の加護持ちであったため使ったが、あまりにも呆気なかった。時間として、瞬きの間ぐらいしか。
【竜化】を使えば、戦いはすぐに終了してしまう。だが、その予想も裏切られた。
虫は背中の羽を使い追撃してきた。
まさかとは思っていたが、本当に飛べるとは思わなかった。しかし、虫は先ほど進化した身。
その体はまだ、馴染んではいないはずだ。飛行だって、フェイントをかかっている様子もなく真っ直ぐにしか飛べていない。
これならば、黒剣の雨で殺せる。そう内心で上がった喜びの感情も直ぐに消え去る。
こちらから見ても、黒剣は何本か掠っていた。気づいていなかったようだが、直撃しかけたものも何本かあった。
しかし、それら全ては虫の鎧のようなものにあたった瞬間霧散した。
この黒剣は、本物と同能力を持っているとは言え、所詮魔力で複製した偽物。本物のナイトメアホロウの黒剣には程遠い。
それでも黒剣と同じ能力は持っているのだ、若干とは言え防具を貫通し魂を切り裂くこともできるのだ。
偽物の黒剣が消え去った原因は、消え方から推測できる。虫の鎧にはおそらく、魔法無効化に類するスキルがついている。だが、一度だけ昔見たことがあるそれとは全く違っている。
昔見たのは、皇国の教皇が使った技だ。自分の魔力で相手の魔法を包み込み、自分の魔力で魔法式を圧壊させる。これが正しい魔法無効化のスキルだ。
このスキルの前提条件として、強力な魔力がある。当たり前だろう、相手の魔力より少ない魔力で魔法式を壊すことは不可能だ。
ただこのスキルを使用時、発動者から巨大な魔力が漏れ出るため、隠れてやることには向かない。
俺が魔法無効化に類するものと判断したのは、その漏れ出るはずの魔力が全く出ていなかったからだ。
ならば、どうやって黒剣を消したのか?
まさか・・・膨大な魔力に物を言わせて偽黒剣自体を打ち消したのか?
俺の背中にびっしりと冷や汗が浮かんだ。
本当にそれが正しいのであれば、虫は魔物なんてレベルじゃない。正真正銘の化物だ。
仮にも竜種の魔力、その強力な魔力の干渉を打ち破るほどの膨大な魔力があるとしたら、それは既に神のレベルまで到達している。
俺は必死に虫に一撃を入れる方法を考えた。
そこで俺は、偽物の黒剣では勝つことは叶わない、ならば本物のナイトメアホロウの黒剣ならば膨大な魔力による干渉拒絶も消せるはずだと思いついた。
偽物はあくまで魔力で固めたものだ、そのために虫の膨大な魔力でかき消されてしまう、だが本物の黒剣は神獣の素材で出来ているものだ、いくら魔力があってもかき消すことはできない。
しかし、鎧部分に黒剣の刃をいれることはできない、そう今まで頼ってきた直感がそう告げていた。
ならば狙う場所はどこか、俺が思いついた場所は口しかなかった。
そのため、わざと虫を懐に招き入れ、その一撃が炸裂する前に【竜化】を解除した。
【竜化】は、増幅された魔力を纏うような着ぐるみをきた感じのものだ。
それが故に、虫の初撃も躱すことができた。
そして俺が狙ったのは、拳を振り切った直後。あの虫は力は強大であったが、拳術や体術はあまりにも雑なものであった。
空振りした直後ならば俺の一撃が入る、そう俺は確信していた。
その確信は間違いではなかった。
口を閉じられかけたときは焦ったが、その刃は完全に口に滑り込んでいる。
手などならばまだ生きている可能性もあったが、入ったのは口。
どう考えても致命傷、この一撃から生き返ることは・・・不可能。
「くっくっく・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
再び、笑い声が口から漏れ出てくる。
笑いが止まらない、今の気分はナイトメアホロウを手に入れた時よりも高く、まさに人生の絶好調だ。
とてつもなくいい気分だ、今ならば道端で転んだ子供を助けるぐらいやってもいいと思えてくるぐらい最高の気分だ。
しばらく浮かれていた俺であったが、黒剣を刺したままであったことに気がついた。
かなりの時間しっかりと握りしめていたために、指は柄の形に硬直してしまっているため、左手で右手をほぐしながら黒剣を抜き取ろうとし―――抜けなかった。
黒剣は虫の口元にしっかりと固定されていて、どの方向に力をかけても全く動かない。
そこで俺は、気がついてしまった。
俺は今、【部分竜化】を使い竜翼を生成して、滞空している。
ならば死んだはずの虫は、なぜ落ちていない?
最悪の予想が脳裏を横切るが、それを振り切るように俺はさらに黒剣に力を入れて握り締める。
全く動かない、横に動かしても、縦に振っても、空間に固定されてしまっているように。
「どうして・・・!なんで動かねえんだよ・・・!」
必死に力をいれ、両手も使って引き抜こうとするも動かない。
焦る俺を急かすように、また一つ最悪なことに気がついてしまった。
俺は黒剣で、今まで様々なものを斬ってきた。
全身鎧を着込んだ人間も大量に狩ってきたし、堅牢な鎧のような鱗をもった魔物も狩ったこともあるし、針金のような毛並みの魔獣も狩ったことがある、だがそんな体中が鎧のように硬いもので覆われた敵を黒剣でさしても―――
―――果たして、パキパキなどと音が鳴ったことがあっただろうか?
その瞬間、黒剣はガシャァァァンッ!という音を立てて、噛み砕かれた。
〈side out〉
最初から読むと、なんか文章の雰囲気が変わりまくっている気がします。
気のせいですかね?




