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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第二章 エレメル村
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十六話 襲撃

「今日は、何を狩りに行くんだ?」


『そうだな・・・『緑鬼小僧(ゴブリン)』か、もしくは『好色豚(オーク)』だな。他に、薬草か新しい魔物でもいれば、そっちにするかもしれんが・・・』


「ゴブリンか・・・俺はまたあの、オークの直火焼きを食べたいなー」


 ナハルトと、のんびり獣道を歩く。

 この森の中でも、他の冒険者に見つかるといけないので、よほど森の奥に入らない限り、影から出ることはラムールから許されていない。

 もし破ったりすると、ナハルトから通信魔法でラムールに報告されるようになっている。

 ナハルト達が持っている、冒険者の身分証明書―――ギルドカードには、多数の便利機能がついていて、もはや異世界版携帯電話と言ってもいいほどだ。つまり、何かやらかすとタイムラグ無しでダイレクトにラムールが飛んでくる。

 ・・・なんでだろう。某海賊漫画の、バ○ターコールを思い出してしまう。

 それと食事に関してだが、最初の方はナハルトも、若干違うとは言え俺が人型の魔物を食べることに辟易していたが、慣れとはやはりすごいものである。今は全く気にしていないどころか、俺がうまそうに食べているのを見て少しだけ齧り、その美味さに目覚めて、今ではもう立派な魔物料理ファンだ。

 料理といっても、俺がこの体で調理できるわけでもないし、ナハルトも丸焼き以外料理を知らないので、実質は焼肉だけとなっている。調味料も、塩以外全くないしな・・・。


「ムー、あそこにいるのは、オークじゃ―――せいやッ!」


 ナハルトが、『緑鬼小僧(ゴブリン)』を見つけたのか走り出し、背負っていた水晶の槍を横に凪いだ。

 ゴウッ!と風切り音をたてながら水晶槍は、ナハルトの真横にあった木に衝突した。

 バキバキと巨木は折れ、ドミノのように連鎖的に倒れていく。


「ふう、危なかったな・・・」


『・・・自然破壊反対』


「は?いや別に、むしゃくしゃしてやったてわけじゃねえよ。ほら、木の上んとこ見てみろ」


 そう言われるがままに、葉で隠れていた部分を見ると、そこには一匹の迷彩柄の蠍が木によって潰れていた。まだ生きているのか少しピクピクしているが、どう見ても致命傷なので生き残ることはなさそうだ。

 それにしてもデカイ。正確に測ってはいないが、五十センチくらいありそうだ。


「そいつは『狙撃蠍(スナイピオン)』って言ってな。木の上に隠れて獲物を待つんだよ。そして、近づいてきた獲物を、尻尾にある鉄針を飛ばして仕留めるんだ。こいつが厄介でな、もし囲まれると―――」


 ナハルトがなんか語り始めたが、さっぱり無視して少しだけ本体を影から出して密かに捕食。


『 能力(スキル)【同属吸収】が、発動しました 』


『 能力(スキル)【絶対射程】を、獲得しました 』


『 能力(スキル)【鉄針生成】を、獲得しました 』


『 能力(スキル)【高性能複眼】を、獲得しました 』


『 能力(スキル)迷彩(カメレオン)】を、獲得しました 』

 

 結構久しぶりのアナウンスが頭の中で流れる。

 うん、やっぱりスキルが手に入ったみたいだ。蠍って、虫じゃなかった気がするけど。

 ・・・虫?いや、甲殻類?う~ん、【同属吸収】が発動したってことは、俺と同じ種族だから魔蟲種ってことでいいか。


「―――それでな、鉄針の威力も高くて、普通の木じゃ貫通するし鉄の盾で防いでも凹んじまって、何回も防ぎ続けるとやっぱり貫通しちまうんだって―――って、聞いてんのかムー?」


『ああ聞いてたぞ。鉄針が闘気を纏ってて、鋼鉄の盾をあっさり貫通するんだろ?』


「違えよ!?」


 怒鳴られてしまった・・・おかしいな、確かこう言ってた気がするんだが・・・。


「だいたい、この下位の魔物は闘気なんて使えねえよ。なんたって、加護や祝福を受けられないんだからな」


『そうなのか?じゃあ俺は加護はどうなんだ?受けられないのか?』


 でも、ステータスには加護とか祝福の欄があるんだよな。これで、加護が受けられないとか悲しすぎる。ファンタジー必須要素が・・・


「どうなんだろな、上位の魔物になってくると加護を受けてるやつがちらほらいるんだが・・・まあ、加護が受けられくても気にしなくていいだろ?そのままでも強いんだし」


『そういう問題じゃないんだが・・・』


「並みの冒険者には到底勝てねえぐらい硬えじゃねえか、お前の勝てると言ったら、せいぜいSランク冒険者ぐらいだ。それも数がすくねえし、会うことも滅多にね―――おらっ【彗星槍(メテオスピア)】っ!」


 ナハルトは、再び水晶槍を手に取り、一気に投げた。

 水晶槍は、ライフル弾のように回転がかかりながら、少し前にあった巨木に突き刺さり貫通し、その勢いは途切れることなく次々に木々を貫通し、なぎ倒していった。

 二回目なので、もう慌てることもない。


「ふう、セーフだな」


『今回は何が出たんだ?』


「今度は、木の幹の中を見てみろ」


 言われたとおり、木の中を覗いてみると、綺麗にくり抜かれた幹の中にイソギンチャクみたいなのが一匹入っていた。

 イソギンチャクらしきものは、ナハルトの槍で貫かれて、すでに絶命していた。てか見た目キモい。グニョグニョしてるし。


「そいつは、『破砲蟲』って言ってな。木々の中に寄生して幹の中から魔力を固めて作られた魔力弾を飛ばして近づいてきた獲物にぶつけて昏倒させ、根っこのところから少しだけ出てる触手で絞め殺し、栄養として寄生している木々に吸わせるんだよ。コイツの厄介なところは、木の中に隠れていることだな。駆け出しの冒険者は森に入ると大抵コイツに気づかないで・・・」


 ナハルトまた長そうな話をし始めたので、またまたこっそり食事。

 『破砲蟲』て名前からして、虫には違いねえだろ。


『 能力(スキル)【同属吸収】が、発動しました 』


『 能力(スキル)【寄生】を、獲得しました 』


『 能力(スキル)【魔力圧縮】を、獲得しました 』


『 能力(スキル)【魔力砲】を、獲得しました 』


 おお!ナハルトが言っていた通り、魔力砲が手に入った。

 どうやら『破砲蟲』は、一度自分の魔力を【魔力圧縮】で圧縮してから【魔力砲】で飛ばしているみたいだ。これ、結構魔物学的にすごい発見じゃない?魔物学があるか知らないけど。

 

「―――ちなみに、俺がこいつに気づけたのは」


『ああナハルト、聞いてないから言わなくていいぞ』


「言うなよ!薄々そう思ってたけど!なんとなくわかってたけど!」


 頭を抱えながら叫ぶナハルト。あ、『緑鬼小僧(ゴブリン)』がナハルトの叫び声に釣られて走ってくる。

 あんなけ大声で叫べばそりゃ寄ってくるよな。


「・・・あん?ゴブリンか・・・丁度いい!俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!」


『それはいいが、水晶槍はさっき投げちまったからどっか行っちまったぞ』


「・・・・・・あ」


 自分の手元を見て呆然とするナハルト、しかし、『緑鬼小僧(ゴブリン)』が待ってくれるはずもなく・・・。


「「「ギャアギャアギャア!」」」


「うわっ、ちょ、まっ、助け!」


 必死に『緑鬼小僧(ゴブリン)』の棍棒から逃げ続ける、すごいなあれ。木々を足場にして高立体三次元移動か・・・俺もやってみたいな。この体でやったら、木を足場にした瞬間折れるだろうけど。

 あ、避けそこねて棍棒くらった。

 あ~なんか滅多打ちにされてる。しょうがない、そろそろ助けるとしようか。ついでに、朝飯調達。

 先ほど手に入れたばかりの【鉄針生成】で一mくらいの鉄針をつくり、『緑鬼小僧(ゴブリン)』に向けて発射する。

 鉄針は、パンッと軽い音を立てて、『緑鬼小僧(ゴブリン)』の頭を弾けさせた。

 あ、やべ・・・一番旨い頭の部分飛ばしちゃったよ・・・。

 




          *




 あの後、ナハルトはしばらく気絶したままであったので、適当に魔物を狩りながら手に入れたばかりのスキルで実験をしてみた。

 簡単に説明すると【鉄針生成】は、鉄の針を作ることのできるスキル、耐久力は石を貫ける程度、それ以上のものはなかった。

 【絶対射程】は一日一回限定スキルで、自分の目の届く範囲内のものを必ず貫くことができるスキルであった。

 【高性能複眼】はなんとマルチロックオンシステムだった。視野が広がり、試しに森の中に狙いをつけてみたところ、森の中に隠れていた『緑鬼小僧(ゴブリン)』にロックオンがかかったのだ。ナニコレ便利。

 【迷彩(カメレオン)】は、周りの景色と自分の体の色を同じにするスキル。いわゆるカメレオンだな。名前通り。

 次に、『破砲蟲』から手に入ったスキル。

 【寄生】は、その名の通り何かに寄生することができる。試しに木に寄生してみたところ、なんかエネルギーが流れてくる感じがした。木は枯れたけど。

 【魔力圧縮】も、説明したとおりで【魔力砲】もそのままだ。

 発動してみたら、なんか体の中心というか奥底からよくわからないものが凝縮される感じがした。これが、魔力か。初めて感じたが、そんなに悪いものじゃないな。

 ただ、調子に乗って【魔力圧縮】を使いすぎて、体の奥底が熱くなりまくり、横っ腹が爆ぜた。

 めっちゃ痛かった。【不死不滅】で治ったけど、あんまり凝縮しすぎるのもダメだな。やりすぎはいけない。

 



          *




「いててててっ!全く、体中がいてえぜ・・・」


『治癒属性の精霊石を使ったんだから傷は治ってるはずだろ?嘘をつくな』


「この傷を負ったのも、お前が放置したからなんだがな・・・それにオークも・・・」


 ブツブツと不満をつぶやかれながら、村に向かう。

 朝飯は、気絶したナハルトを囮にして集まってきた『好色豚(オーク)』がいたので、それで済ませている。少ししか食べられなかったナハルトは不満そうだが。

 ちなみに、水晶槍も回収済み。かなりの勢いで飛んでいったので、結構遠かった。

 並んで歩いていると、ナハルトは周りの匂いを嗅ぐかのように顔を上げた。

 

「・・・うん?これは・・・」


『どうかしたのか?』


「いやなんか、何かが燃える臭いがしてな・・・方角は・・・エレメル村!?」


『なんだと!?』


 一瞬で影から出現し、ナハルトを背負って【疾風迅雷】も使い加速する。

 しばらく走ると、空に登る煙も見えてきた。明らかに、焚き火の量ではない。


「急げムー!敵襲だ!」


『わかってる!』


 【僻地蹂躙】も使い、曲がりくねった木々のあいだをすり抜けてエレメル村へと向かう。


「くそっ!なんで姉御がいない時に・・・!」


『ギルドカードはどうだ!それで連絡はできるんだろ!』


「さっきからやってる!ここら一帯に、ギルドカードの通信を制限する結界が貼られてるみたいだ!そのせいで俺たちの連絡も・・・!」


 マジで!?バス○ーコールが使えなきゃ、シグルにもラムールにも増援の希望は持てない。

 とにかく、今行けるのは俺たちだけ・・・!

 生き残っててくれよ皆・・・!

 そう願いながら、俺たちは走り続けた。


 

          *




 そこは地獄絵図であった。

 家は全て破壊され、炎が包み、畑は踏み荒らされ、時折落ちている剣などは冒険者のものだろうか、全て折られている。

 ただ不思議な点があった。血も確かに地面を濡らしているが、そこまで量はない。そして、死体が一つもない。


「どういうことだ・・・?なんで死体が一つもない?ここが襲われたなら、一人か二人は死んでいてもおかしくはないはずだ・・・襲撃者が片付けた?いや、そんな馬鹿なことをするわけない。ではなぜ・・・・」


『そんなことはどうでもいい!村人が無事が確認するぞ!』


「おお、そ、そうだな」


 体を垂直に伸ばし、村を一望できるように立つ。

 そして、教会の前で何かが積み上がっているのが見えた。

 それは・・・村人たちであった。

 皆、糸が切れてしまった人形のように、傷一つないのに倒れ伏し、身動き一つ取ることなく積み上がっている。

 何人かの村人はまだ逃げているが、それを金や銀で装飾された華美な鎧をまとった騎士が追いかけている。

 必死に逃げる村人を、騎士たちは愉悦に顔を歪ませ、まるで遊んでいるかのように追いかける。


 そこまで見て、俺はキレた。


『貴様らぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!』

 

 怒りを込めた絶叫を上げ、騎士たちにその体を突っ込んだ。

 【首狩り】を発動し、突然現れた俺に呆気に取られた騎士はなすすべもなく首を落とされていく。

 村の中にいた騎士は十人。その全ての首を切り落とすまで、三分とかからなかった。

 生き残っていた村人は二人、ミスラとレイラであった。


『大丈夫かレイラっ!ミスラっ!』


「ええ、私たちには怪我などは特にありません・・・しかし、私の夫が騎士たちを引きつけて森に・・・」


『村長がか?ちっ、ここにいてもまた狙われる!逃げるぞ!』


「ま、待ってムーちゃん!お父さんがまだ帰ってきてないよ!ここで待ってないと・・・!」


『ダメだ!村長は時間を稼ぐために敵を引きつけてくれたんだ!ここで待っていたら、敵の増援来て、村長が身を張って稼いでくれた時間が無駄になる!諦めろ!』


「でも・・・!」


「レイラ、ムーさんの言うとおりです。フラウも、私たちのために行ってくれたのです。フラウのことが心配なら、まずは私たちが逃げなくては彼は満足に戦えません!」


「・・・・・・わかった」


 レイラが、納得いかなさそうながらもうなづいてくれた。

 ミスラは、レイラに微笑みながら手のひらをレイラの額にかざした。


「強く生きてね・・・レイラ・・・」


「・・・?お母さん?」


「『かの者に、安らかなる眠りを、”眠りの霧”』」


 ミスラは、レイラに魔法をかけて眠らせる。

 信じられないとばかりにレイラは目を見開くが、すぐに眠りの魔法の効果は現れ、倒れこむように眠る。

 ミスラはレイラを抱きかかえ、額にキスをした後俺に手渡すかのように手を伸ばした。


「娘をお願いします。ムーさん」


『・・・あんたな逃げないのか?ここであんたが死んじまうと、傷つくのはレイラなんだぞ?』


「わかってます。しかし、フラウが引き付けた敵の中に、気になる人物がいました。真っ黒な剣に水色の髪と鎧・・・あれは、大陸指名手犯の”悪夢のネロ”です。おそらくフラウだけでは勝てません。ですが、村人たちも彼の剣にかかって眠り込んでしまっています。なので、彼を倒せば解けるはずです」


『だが、あんたが行ってもしょうがないんじゃないのか?あくまで元Sランク冒険者の妻といっても、一般人なんだろ?』


「うふふ、私を甘く見ちゃいけませんよ。私もその昔、”毒霧のミスラ”と言われたほどの元Aランク冒険者なんですから」


『・・・随分と物騒な二つ名だな』


「ええ、自分でもわかっています。しかし、フラウはそんな私でも愛してくれた。だから、彼を置いて逃げるわけにはいかないんですよ」


 ムーはレイラのためにも、彼女も一緒に逃げてほしかった。

 何故なら、レイラとミスラは自分をこの村に置いてくれるように頼みこんでくれた、一種の恩人だからだ。もちろん、村のみんなを嫌ってるわけではないし、最初はいろいろと大変だったが今では慣れ親しんでくれた村人も助けたいと思っていた。

 しかし、レイラとミスラはムーの中でそれ以上に大事であったのだ。

 ムーはしばらく考え込み、そして告げた。


『止めてもいっちまうんだろ?最後に約束してくれ―――絶対に生きて帰ってくるって』


「・・・ありがとうございます。娘を頼みま」


 ミスラは、最後までその言葉を紡ぐことができなかった。

 何故なら、その胸から真っ黒な剣が突き出していたから。

 ミスラは、目を見開き、口を震わせ意識を閉ざした。

 ムーは、その瞳を森へと向ける。ミスラを貫いた黒の刃が伸びる森へと。


「―――いいねいいね、その親の愛。そういうのを見ると、どうにも柄にもなく感動を覚えてしまうよ」


 ミスラの背後、森の中から伸びる黒の刃の持ち主は、その姿を現す。

 その手には、闇を凝縮したような黒剣を持ち、水色の髪と瞳に合わせた鎧が涼やかな青年。

 一見するとどこにでもいそうな好青年に見えるが、その眼は欲望に汚れた眼をしている。


「自己紹介がまだだったね、『混沌百足(カオスセンチビートル)』。僕の名前はネロ。先ほどそちらの方が言った通り”悪夢のネロ”っていったほうがいいかな?」


 ネロはどこか照れくさげに、そう告げた。

ついに登場、”悪夢のネロ”!さあどうなる、ムー!



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