十五話 兆し
「では、留守はよろしくお願いしますよ」
そう言い、シグルと共に馬車に乗るラムール。
この前の王都主門破壊事件で、どうやらギルドのお偉い方たちから召喚状が来てしまったらしい。
派手にやったみたいだしね、門前の石畳の街道に大穴あけまくったり、含有率は低いとはいえ陽陽色金というとんでもなく重くて頑丈な魔法鉱石が使われた門を溶かしたり。
犯人曰く、『そこらへんの地下でも潜れば、ザクザク取れるから問題なし』とのこと。
・・・あのレベルの魔法を普通に使っているところから、お前らが言っている地下はとんでもなく深そうなんだよ・・・もしくは超がつくほどの危険地帯とか。
シグルは付き添いで行くらしい、暴走のストッパーかと思ったが、どうやらお偉い方達が所望らしい。
呼ばれた理由はわからないが、シグル優秀な冒険者でありギルドにも結構貢献してるらしいので、多分お褒めの言葉じゃないかと思うとのこと。
今までにも三回ぐらい呼ばれて、その度に同じ内容だったので今回もそうじゃないかという見解だそうだ。
それにしても・・・ラムールもシグルも重要な戦力なので、あまりエレメル村から離れて欲しくないのだが、正直にお偉い方に全部ぶっちゃけるわけにはいかないので、招待を断るわけにもいかない。
お偉い方の中には貴族も入っていて、もしも漏らせば確実に奪いにかかってくるとのこと。
そもそも、シグルはともかくラムールは断ることはできないからな。自業自得というか、悪いのはラムールだから。
そのため、今日から一週間この村の防衛はシグルの部隊の冒険者が十二人に『混沌百足』の俺となっている。
「ムーも、よろしくお願いします。最悪守りきれないと判断した場合は、村人を連れての撤退も考えておいてください」
『いいのか?神域は、かなり貴重で強力なんだろ?』
「ええ、確かに神域を奪われるのは痛いですが、土地は私が加わればすぐにでも奪い返せます。ですが、死んでしまった人の命は私でも蘇らせることはできません。殺されなかったとしても、奴隷にされるところがやまでしょう。奴隷を開放することもまた、とんでもなく面倒くさいですから」
『・・・奴隷なんてあるのか?』
初めて聞く言葉だ。ファンタジー世界だけにあるかなとは思っていたが・・・。
「ムーは知りませんでしたね。人間の中では奴隷と呼ばれる、いわゆる平民より下の人間として扱われない者がいまして、たいていは犯罪者や借金や身売りをしたものですが、たまに誘拐されて奴隷に落とされるものもあとを絶たないんですよ。もちろん、正当な理由ではない奴隷化は、立派な犯罪です」
『犯罪者も奴隷なのか・・・反乱とか起こさないのか?』
「奴隷は、隷属魔法が付与された首輪を付けるのが習わしです。逆らうことは絶対にありません。それに、犯罪奴隷は国が買い取ることが主なので、一般にはあまり流通しないんですよ。もっとも、この首輪が厄介なので、逃げて欲しいんですが・・・」
『何かあるのか?』
「無理やり外そうとすると爆発、主人の命令は強制、正式に外そうにも国に頼み、多額の付け届けをしなければいけない、しかも確実に外される可能性は低い・・・挙げればキリがないですよ?」
『と、とんでもない代物なんだな・・・』
思わずテンプレと叫びたくなるような内容だった。どこの世界も人間が考えることは一緒だってことだろうか。
「本当にですよね。・・・そういうことで、無理だと思ったらならば直ぐに逃げてください。わかりましたか?」
『イエッサー!』
「・・・返事の意味はわかりませんが、了承したということで良さそうですね」
ラムールは一度微笑むと、火の竜に飛び乗り、空の彼方に消えていく。
「留守は任せてください姉御!!!」「ねずみ一匹通しませんよ!!!」「悪魔だろうが竜がこようが、勝って生き残ってみせます!!!」
ラムールに向かい叫ぶ冒険者たち。いやいや、悪魔とか竜は来ないで欲しいんだけど。出来れば相手は人間がいい。弱いから。
・・・あれ?でも俺っていろんなスキルあるし、頑張れば倒せないこともないか?
う~ん、実物とは会ったこともないし、もしこの一件が終わったら探しに行くのもいいかもな。
「ほらほら、見送りは終わりだ!さっさと仕事に戻るぞ!」
村長が手をパンパンと叩いて、皆を促す。
村人は、渋々、自分たちの仕事へと戻っていく。
ある程度村人たちが去った後、村長がこちらに歩いてきた。
「おいムー、おまえはどうする?飯でも捕りに行くのか?」
『そうだな・・・確かに飯はほしいが、ここの防衛も離れるわけにはいかないんじゃないか?』
「腹が減って力が出ないとか言うなよ」
『すまんな、俺も生物である以上栄養は摂取しないと死んでしまうんだ』
「エイヨウ・・・?まあいい、一応シグル達のチームもいるし大丈夫だろう。俺もいるしな」
・・・?どういう意味だろう。確かにこの厳つい顔と筋骨隆々といった肉体からして、只者ではないと思っていたが・・・。
「俺は昔な、冒険者だったんだよ。ランクも元Sランクで、”豪腕フラウ”って、それなりに名も知れてたんだぞ。今はもう引退しちまって力も落ちてるかもしれないが、そんじょそこらの兵士や盗賊に負けることはねえ。ここの村は、モンスターもでるからこれくらいの実力がないと務まらないんだよ」
『なるほどな・・・それでどうして辞めちまったんだ?引退しなければいけないほどの怪我とか?』
「いやそりゃ・・・ミスラに惚れちまったからな―――って言わせんじゃねえ、コノヤロウ!」
『いやいや勝手に言ったのは、お前じゃあ―――へぶらッ!』
その痛々しい二つ名に相応しき豪腕が、顔の横にぶちかまされた。
ゴシャッと、硬いものが割る音を立てながら、俺の顔の甲殻は破壊された。
・・・う、嘘だろ?この体、現役冒険者たちが総がかりでも壊れなかったはずだぞ?それがただの村の村長の拳で一撃・・・元Sランクは伊達じゃないか。
「おっとすまねえ、つい拳に闘気が乗っちまった」
『いや別に傷を治すスキルがあるからいいんだけどさ・・・』
時間がもどるように、亀裂の入った甲殻が治っていく。流石能力【不死不滅】、治るスピードも半端じゃない。
というか・・・。
『よくこのやたらと硬い甲殻にヒビを入れられるな・・・流石元Sランクっていう感じか、いちおうシグル達でも傷一つつかなかったんだがな』
「まあ、Sランクぐらい行けばそれぐらいできる奴は・・・チラホラぐらいだな。魔法職は、そんなに筋力高くないしな。それに、つい闘気も使っちまったし」
『闘気?身体能力でも上がるのか?』
「ああ格段とな。まさに桁が違うレベルで上昇する。その代わりといえば、使えるやつが滅多にいないってことか」
『そんなにいないのか?百人ぐらい?』
「いや、もっと少ない、三十人ぐらいだ。闘気は使用条件に、【戦士】系統の神の加護がいるからな。後は、やたらと難しい魔力感知と制御」
『ああ、ラムールが言っていた魔力感知か・・・村長もできるのか?後、加護もってんのか?』
「俺の加護は、剛力神ヘラクレスだ。効果は、絶大な膂力だな。魔力感知と制御は・・・思い出したくないな・・・もう無理、師匠、もう無理だっていやああああああああ!!」
村長が、気持ち悪い悲鳴を上げながらどこかへ走り去ってしまった。
師匠がどうとか叫んでたけど、トラウマだろうか?もしかして、えぐり返しちゃった?望むところだ!
「とりあえず、飯でも獲りに行かないのか?」
ナハルトが呆れ顔で聞いてくる。
・・・そろそろふざけてないで行くか。流石に体がでかいせいでエネルギー消費が激しいし。(つまり、腹のヘリが早い)
ナハルトと共にシムル大森林に向かう、しかし俺は気がつくことができなかった。
どこかへ連絡を取っている、冒険者の姿を。
*
〈side ???〉
「”蒼焔”は行った~?じゃあ、虫は?は?朝飯を獲りに行った?残っているのは何人ぐらい?」
水色の髪とよく似た色の鎧を纏った、”死体屋”が四角い希少金属をふんだんに使われたのカード状の通信魔法機―――ギルドカードを使い、現地に放った駒に話しかける。
”死体屋”の周りには、金や銀で装飾された豪奢な剣や鎧をまとった騎士が佇む。
神話の軍隊を思わせるような雰囲気だが、 騎士の顔にはその雰囲気に相応しくない、下種な微笑みをする。
「は~い、ちゅうもぉーく」
死体屋が、妙に間延びした声で騎士たちに呼び掛ける。
ガチャッと、一瞬鎧が鳴り響き、一糸乱れぬ整列をみせる。
「いちおう一番厄介だった”蒼焔”の排除は終わったみたい。残っているのは雑魚だけ。みんな準備はいい~?」
「ええ、我が部隊は精鋭ぞろい。既に準備は完りょ―――」
「そう、じゃあ、さっさと行くとしようか」
騎士の隊長らしき男の言葉を最後まで待たず、”死体屋”は興味なさげに一人歩き始める。
随分と傍若無人な態度だが、騎士たちが腹を立てることはない。
理由の一つは、この男が自分たちの上司に当たること。
本来は、まったく関係のない男だが、教皇から直々にそう裁定が下ったのだ。
天上の存在とも言われる教皇が直々に命令したことに反論するなど、狂信者とも言うべき彼らには思いつくはずもない。
そしてもう一つは・・・
「久しぶりだね~ナイトメア?今日は、存分に喰っていいよ」
”死体屋”が持つ、一本の闇を凝縮したように真っ黒な両刃剣。神獣『ナイトメアホロウ』を材料に作られた、神格を持つ武器だ。
神獣『ナイトメアホロウ』―――黒夜神アラルスの眷属とも言われる、黒い骸骨の狼だ。
骨しかないスカスカの体だが、一般的にスケルトン種に効果的な打撃が全く効かず、その硬度は最高級の魔法金属にも匹敵する。
唯一、魔法を乗せた攻撃などが効果を示すが、それもあくまで他と比べれば、だ。
更に、牙や爪には常に悪夢の魔法がかかっており、カスリでもすれば即座に気を失い、永遠の悪夢に囚われ食い殺される。
しかし、この神獣は常闇の神殿と言われる高難易度ダンジョンにしかおらず、また、そこから出てくることは決してなかったため、あまり危険視はされてこなかった。
しかし、三年前その神獣が討伐されたとの報告が、アラルスの加護を受けしものから通達された。
ギルドや各国は、即座にその神獣討伐者の捜索を始めたが、犯人はあっさりと捕まった。
自ら、ギルドに神獣を討伐してきたことを報告してきたからだ。
アラルスは、人間にその者の処罰求めるようなことはしなかった。わかっていたからだ。男が、既に神の域まで力を持っていたことを。
それこそこの男、ギルドランク元SSにして、現在大陸指名手配犯―――”悪夢のネロ”だ。
騎士たちは、実力でもかなわないとはっきりとわかっているために、逆らうなどと無様なことはしない。勝てないとわかってていて、喧嘩を売る奴はいないのだ。
「あんまりうまそうな奴がいないかもしれないけど、我慢してよ?」
ネロの声に反応し、ナイトメアは黒く、薄く光る。
まるで、久しぶりの食事に、喜び表すように。
守り手がいなくなってしまったエレメル村!
忍び寄る影に、気づくことなく、ムーは闇へと飲まれていく!
いつも自分が影に忍びこんでいるのに!




