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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第二章 エレメル村
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十四話 エレメル村のある一日

「・・・どうかしたんっすかね?」


『とりあえず、すぐ帰って来るって言ってたしほっといていいんじゃないか?』


「それもそうだな」


 静かな怒りを目に宿したラムールを、シグル達冒険者と共に見送る。

 乗り物は、赤い火の竜。全身が火に包まれていて、普通に背中に座ってたんだけど、ラムールは熱くないんだろうか?鞍とかとかもなしにすごいスピード出してたけど、振り落とされないんだろうか?

 とか、いろいろと疑問に思ったことはあったが、気にしないでおこう。

 どうせ、召喚者は召喚獣のバッドステータス的なことは全部カットとか、かかってるんだろう。

 鞍も、サーフィンみたいな感じで乗りこなすことができるとかそんなことで、必要なしとか?

 果たして座ったままでもサーフィンはできるのだろうか?

 謎だ。


 現在、俺はこのエレメル村にお世話になっている。

 もっとも、食料は自分持ちだし、寝る場所も家の中ではないがお世話になっている。

 果物とかはもらえるしな。今日も、大苺が美味い。

 神様からもらえるはずのスキルも貰ってないが、そのうち貰えるだろうと気長に待つことにしている。

 〈神域〉は、ラムールによるともうなっているみたいだが、はっきり言って変化がない。

 特殊な能力が覚醒した村人もいないし、作物にも影響は出てない。

 ついでに言うと、警戒していた他国からの侵略軍も盗賊もない。魔物も来ない。

 平和そのものだ。戦わなくていいのはいいことだ。ご飯のためには戦わなくちゃいけないけど。

 気をつけることといったら、他の都市から〈シムル大森林〉を目指してやってきた冒険者から隠れることぐらいだろうな。

 見つかったらかなりやばい、ラムールもほかの人間には教えてないって言ってるので、いちいち影の中に隠れないければいけない。もともと、村の大きさ的にサイズオーバーだったので、影の中に入りっぱなしだが。まさか、ここまで役に立つとは思ってもいなかったよ、【影忍び】。

 あ、後俺の名前も決まった。俺の名前は『ムー』だ。別に、伝説の大陸は関係ないぞ。

 村人と冒険者の多数決で決まったもので、発案者はレイラだ。

 名前が無いのも不便だし、お世話になるのでつけてあげようということで、いろんな案が出た。

 ラムール『ムシさん』、シグル『ダーク』、村長『ジャイアントブラック』、レイラ『チュウちゃん』。

 ・・・どれも甲乙つけがたいといいたいが、意味としては全部良すぎる方じゃなくて悪い方にだがな。

 もめにももめた名前付け合戦だったが、最期は種族名の『混沌百足』の百足をムカデに変え、頭文字をとってムーにした。

 もちろん、この世界の人間には日本語なんてわからないから、付けたのは俺だ。

 レイラらへんが、よほど自信があったのか不満そうだったが気にしないでおいた。

 村長もレイラとおんなじ感じの雰囲気を漂わせていたが、はっきり無視した。男がやっても気持ち悪いだけだって。もしかして、レイラの仕草も遺伝なのか?・・・恐ろしい。


 そんなこんなあって、俺は守護者に就くために契約した農作業の手伝いをしたり、【森羅万象辞典(アカシックレコード)】を読み解くため文字の勉強をしたりして過ごしている。

 農作業に関しては、最初は恐る恐るといった感じで皆話しかけてきたが、今は割と慣れた感じ。

 スタミナも魔物だけあって人以上あるし、力だって半端なく強い。あとは、便利なスキルを使ったりか?【大鎌生成】は、畑を耕すのに使えるし、【従体生成】は、荷物運びに使える。俺が命令しないと動かないのがたまにキズだけどな。

 えっ?スキルに関して怪しまれないのかって?

 どうやら、俺の種族は異常種ということで、何があってもおかしくないからということらしい。

 村人たちは、単に『混沌百足(カオスセンチビートル)』のことを知らないだけだけど。


 【森羅万象辞典(アカシックレコード)】のための勉強に関しては、相当厄介と言わざるおえない。

 なんていったって、【森羅万象辞典(アカシックレコード)】に使われている文字と文法は、この世界の一般的な言語ではないのだ。

 通称《神呪語》と呼ばれる元の世界の象形文字みたいな言葉と、《神解》と呼ばれる独特の文法が使われている。

 しかも、《神呪語》が使われているのは過去の遺産に書かれているもののみで、あまり例も多くなく、はっきり言って全部は解明されていない。

 《神解》に関しても《神呪語》と同じ、いやそれ以上に分かっておらず、この前聞かれた古代回復薬エンシェントポーションの製造方法も、知恵深いと名高いエルフの賢者が十年の歳月を重ねて解明したもの。

 つまり、現状で使うことはほぼ不可能。【万能翻訳】も文字には効果は表さないし、【高速理解】も元の物がなくては理解なんてできっこない。文字通り、宝の持ち腐れだった。

 ・・・あまりの現実の厳しさに言葉が出ない。人生そんなうまくいかんよね、人じゃないけど。

 ラムールは、意地でも読もうと試みていたが、どうしても俺の手から離れると消えてしまう。

 知識を無闇に奪われないようにするための防衛システム(セキュリティー)なのだろう。解除なんてできないって言ってるのに、何回も脅すように聞いてくるのはやめて欲しかった。熱い、熱いから火の玉を出さないで。

 俺の現状はこんな感じだ。

 今日も、何事もなく日々は過ぎていく。

 あ、もちろん、一般的な言語も勉強中だ。むしろ、言葉はそれしか勉強するのがないからな。




          *




「ムー、今日の予定はなんだっけ?」


『今日は、メルさんの畑耕しだな。てか、それくらい覚えておけよ。昨日聞いてただろう』


「そんなこと言ったて、お前の方が頭いいじゃねえか。モンスターのほうが頭がいいってのも納得できないが、お前は姉御が認めたやつだ。頭のいいやつは、悪い奴のためにも頭脳労働をしなくちゃいけねえんだよ」


『俺の方が、肉体労働も量が多いだろう』


「・・・痛いとこつくなオメエ」


 アロハシャツみたいな服を身にまとう男―――ナハルトと共にメルさんの家に向かう。

 青色のさかだった髪に、ちょっときつめの紫色のつり目が特徴の男だ。

 見た目だけ見れば、盗賊の後ろにいる小悪党にしか見えないが、これでも頼れる男らしく、俺の監視役を任されている。

 ちなみに武器は水晶の両手槍で、長さはナハルト少し超すくらいだが、材料が特殊らしくとんでもなく重いらしい。俺も持ってみたが、この体はいろいろとスペックが桁違いらしく、全く差がわからなかった。

 感じ方で言えば、どちらの方が豆が一粒多いでしょうかみたいな。

 (はかり)でもないと、絶対そんなのわからないしな。

 二人でのんびり話しながら歩いていると、レイラが走ってきた。


「ムーちゃん!乗ってもいい?」


 そんな風に、可愛らしく尋ねるレイラ。

 レイラは俺に乗るのが楽しいらしく、暇があれば乗ろうとしてくる。

 最近は、ほかの子供もレイラを見て乗ろうとしてくるから、(しもべ)一号の『鋼装巨蟲アイアントキャタピロス』がいつ過労で潰れないか心配になってくる。

 餌はちょくちょく二号三号と交代してとってるから大丈夫だけど、休暇は俺が影の中に入って操作してるせいかほとんどないんだよな。感覚つないでも、五感はつながるが一号の疲労は感じられないみたいだし。

 まあ、もともと『混沌百足(カオスセンチビートル)』の【従体生成】で作られる(しもべ)は使い捨てらしいけど、長く使ってるとなんか愛着がわくんだよね。

 あくまで他よりは、だけど。


『いいぞ。ただメルさんのところに向かうが、いいのか?』


「いいよ!・・・あ、あとなんだけど・・・」


 急にもじもじしだすレイラ。一挙一動が可愛いな、こいつ。


『・・・?どうかしたのか?』


「こっちのムーさんじゃなくて、おっきい方に乗ってみたいの・・・」


 ・・・返答に困る提案が来てしまった。

 乗せても重くないから別にいいんだけど、本体はでかいから落ちるかもしれないと考えると、賛成できないんだよな・・・。


「いいんじゃねえの?俺も付いてるし、いざとなったら何とかするし」


『いいのかナハルト?』


「安心しろ、俺もいつか乗ってみたいとは思ってたからな。高い景色なんて、山の上にでも登らないと見えねえからな」


 ナハルトの賛成ももらえたので、二人に(しもべ)の影の上に移動してもらう。


『少しずつ上がるが、危なそうだったら言ってくれ』


「わかった!」


 レイラの元気な返事を聞き、半分くらい身体を影から出す。

 いつも仕事をするときの三倍ぐらいだ。


「お~高い、高いよ!」


「ホント、絶景だな~。村が一望できるぞ」


 興奮した様子で、二人が声を上げる。確かに、中々の絶景だな。見渡す限り、森しかないが。

 どんだけあの森広いんだよ、山が少し見えるくらいじゃねえか。

 地平線まで木でギッシリの光景を眺め、ちょうどいい頃だと思い、体を下げてゆく。

 二人が落ちないようにゆっくり影に体を戻ってゆくと、レイラが頭の部分をペタペタ触りながら言ってきた。


「ムーちゃん、この頭の模様は何?」


『模様?俺は体の構造上見えんから、ナハルト、ちょっと見てくれ』


「はいはいっと。・・・黒みがかった紅色の円から、線が体中に走ってるって感じの模様だな。それに、少しばかり光ってるみたいだ。こんな模様は混沌百足(カオスセンチビートル)にはないはずだが・・・ムーは異常種だからな、何かあるんだろう」


『・・・あんまりにもいい加減すぎるんじゃないか?』


「そんなこと言ったて俺は学者じゃねえ、頭の悪い冒険者だ。魔物の弱点ならともかく、魔物の生態なんて詳しいこと、覚えてるはずねんだろう。詳しく知りたきゃ学者のところにでもいけ」


『行けるは行けるだろうが、門前払いだろうな・・・』


「むしろ、戦争が発生しそうだな。実は言うと、お前って結構危険な種族だし」


『なんとなくわかってるよ』


 話していると、もう地面が目前だったので、慎重に影の中に潜る。


「おっとっと・・・乗せてくれてありがとな、ムー」


「また今度やってね!ムーちゃん、ありがとう!」


 レイラが、微笑みながら抱きついてくる。

 ほのかな花の匂いが・・・しないな。俺、そこまで嗅覚鋭くないし、抱きついてるところ頭じゃないからわかんねえ。別に嗅ぎたいっていうわけじゃないけど。


「よし、休憩も終わったところで、メルさんのところに行くか」


『休憩もなにも、まだ何もやってないがな・・・』


「私も行く!」


 冒険者、少女、魔物が、微笑みながら歩く。

 魔物と人間、そこには結ばれるはずのない友情ができていた。

 

 

 



「馬鹿なんですか?死ぬんですか?あんな目立つことやって、人に見つかったらどうなると思ってるんですか?」


「すんません・・・」


「ごめんなしゃい・・・」


『反省しています・・・』


「そもそもですね。あなたの立場も色々と厄介なもので(ブツブツ)」


 正座で反省中。ラムールに怒られました。

 結局説教はレイラのお母さんが止めに来る夕方まで続いた。




          *




〈side 秘密の会談〉


 薄暗い部屋の中、二人の男が密談をする。

 一人は、豪奢な金と銀の飾りをつけた、壮年の男。

 もうひとりは、軽薄そうな雰囲気を漂わせる、淡い水色の髪をした若者であった。


「例の件だが・・・調査隊により、真実と確認された」


「俺の駒が確認済みだって言ってるのに、疑心暗鬼すぎるんじゃないの?」


「お前が言うことは、どれだけ探っても安心できないのでな」


「ひどいねえ」


 真正面から信用できないと言われるが、若者はケラケラと笑う。


「それで?どうするの?」


「もちろん、奪還するに決まっている。だが、二つほど異分子がいてな・・・。調査隊によると、”蒼焔”と、何故か『混沌百足(カオスセンチビートル)』が居座っているらしい」


「マジで!?”蒼焔”に、特殊災害指定固体!?超豪華な顔ぶれじゃん!?」


「ああ、”蒼焔”のほうは、我らのほうから圧力をかければどうにかなる。だが、『混沌百足(カオスセンチビートル)』が問題だ」


「そこで、俺の出番ってわけね?村の住民に関してはどうするの?」


 わかりきった答えを、男に問う青年。


「無論、貴様にくれてやる。好きにしろ」


「ヤッホー!これでまた仕事が再開できるぜ!ありがとよ旦那!」


 無邪気に笑う青年。しかし、その瞳には狂気が宿っている。

 男は、青年をまるで汚物を見るかの様な目で見る。実質、この青年がやろうとしていることは、そう見られても仕方がないことだ。


「じゃあ、さっそく出かけてくるよ。そっちの方から、駒はどれだけ出せる?」


「三十いればよかろう。しくじるなよ―――”死体屋”」

怪しき影・・・って、影に関すること多いですね。

このキャラの出番は、次次回ぐらいですかね。

ラムールの苦労が絶えないです。

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