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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第二章 エレメル村
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十話 少女の祈り

なんとか投稿!

そして、ちょっと長いかもしれません。


お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!

 なんとか相手に敵意がないことを伝えることに成功し、村にやっと到着―――することは叶わなかった。

 だって村だもん。そんなに大きな規模とは言えないし、この体じゃあ半分も入ることはできなかった。

 村を破壊して進むわけにはいかず、結局【従体生成】で作った下僕(しもべ)に行かせることにした。

 実は【従体生成】には、遠隔操作に五感共有という機能が付いていて、カメラ付きラジコンの感覚で操作することができるのだ。

 ちなみに、それをできるのは一体まで。

 能力上の限界というより、何個もいきなり視点が増えた感じでかなり気持ち悪かった。

 はっきり言って、酔った。

 それ以来、遠隔操作をする時は一体までと決めている。

 少女を女に渡し、下僕(しもべ)に同行させる。ちなみに、本体である俺は影の中に。

 あの戦闘集団が戻ってくるかもしれないし、見つかると面倒だし。

 女はそれを見て唖然としていたが、気にすることなんていない。無いったら無い。

 硬直してしまった女を下僕(しもべ)を使って起こし(別名弱タックル)、村の中に入らせてもらった。

 村の中は木で作った(ログハウスみたいなの)が建っており、中央には石造りの大きな家があった。

 人っ気は全く無く、見える限りでは誰もいなかった。

 女は中央の石造りの家に真っすぐ向かっていき、大きな木の扉を足で開け、中に入って行った。


 その中は、まるで教会だった。


 奥に鎮座するおおきな十字架、光り輝くステンドグラス、中央で祈りをささげる女神像。

 誰もいない教会に女は入っていき、さらに奥にある扉をあける。

 やや広い扉を抜けた先には、六つのベットが置いてあり、一つだけカーテンで遮られていた。

 そんな部屋の奥から二番目のベットに女は少女を寝かせた。

 

「・・・子供は無邪気なのはいいんですが、時々とんでもないことをしだすのが難点ですね」


 全くもって同意です。

 なんて言えないのが残念だ。なんで言葉が通じないんだよ、転生補正で翻訳でもつけておけよ。

 女は、少女をなでていると少女が何かを大事に握りしめていることに気がついた。

 ゆっくり指をといていくと、そこから出てきたのは治癒属性の精霊石だった。 


「これは・・・なるほど。これを取りに行くために村から飛び出していったってわけですね」


 どちらかというと、薬草を取りに行ったわけで、精霊石じゃないんだけどね。


「この子を守ってくれて、ありがとうございますね。えっと・・・虫さん?」


 ひどく安直だ。しかし、俺の名前は言うどころか忘れてるし、しょうがないか。

 一応鳴き声を出して答えておく。無視するのはコミュニケーションの破壊だからね。


「・・・すいません。わかりません」


 まあそうだよね。それにしても、見た目は怖そうな秘書系だけど、結構優しい人みたいだ。いや、秘書系だからこそか?

 女は、精霊石を少女に返し、静かに扉を閉めていった。

 俺も、ここにいても暇だし目を覚ました時に騒がれるのも嫌なのででていく。

 教会から出ると、女はすぐそばに立っていた。待ち伏せしていたのだろう。

 

「さて、いろいろと聞きたいことはあるのですが・・・先にお礼ですね。何が欲しいのでしょうか?」

 

 女は、そう問いかけてきた。

 うーん、何が欲しいかか・・・何がいいだろうか?

 人脈作り?姿がアレだしな・・・。

 ・・・食いもんでももらっておくか。

 俺は、しばらく歩いたところにある果物の木に近づき、取ってもらえるように全身でジェスチャーをする。

 かなり難しいな、後めっちゃ疲れる。俺の体じゃないけど。

 

「・・・確か肉食種でしたよね?普通は肉類では・・・まさか、別種?いやでも異常種はそんない頻繁に出るものではないし色も目撃情報と一緒ですし・・・」


 ダメだ、伝わらなかったらしい。しかたないので木に向かって突進をし、木をなぎ倒す。

 それにより、上の方にあった実でも食べられるようになる。

 今回取ったのは、苺をオレンジぐらいでかくした感じの実。

 女はほおっておいて、早速採れたてを食べる。

 あっ、五感を共有していても本体でだよ。下僕(しもべ)には毒類を無効化する【絶対捕食】がないからね。村に植えてあるし、毒実なんてないと思うけど。いちおうね。

 少しだけ影からでてきて食べる。


 シャクシャク、モグモグ。


 ・・・うまい!

 『大苺(ジャイアントベリー)』は、その見た目を裏切らないイチゴ味であり、ちょっと硬い感じが残念だが、それさえ目をつぶれば完璧な苺だった。

 酸味も甘味も、完璧な分配だ。

 この世界は、本当に食いもんがうまいな。

 その様子を不思議そうに見ていた女が、話しかけてきた。

 

「・・・果物が好きなんですか?」


 頭を縦に降って肯定を示す。

 肉類も好きだけど、果物もなかなかうまいんだよね。肉は人間以外ね。


「・・・これならいけるかも?いや、あいつがどういうか・・・では、こうすれば・・・(ブツブツ)」

 

 女はまた思案モードに入ってしまった。

 てか、モンスターを前にこの人も隙だらけだな。俺じゃなかったら食ってるぞ、多分相手の方が瞬殺されるかもしれないけど。

 しばらく待っていると、大量の足音が聞こえてきた。

 あの戦闘集団が目を覚まして、戻ってきたのだろう。

 逃げる準備を始めていると、女はいきなり手を前に伸ばし、入口に向かって―――


「『その焔は、意思を持つ者”蒼炎の蛇竜”』」


 ―――明らかにやばいレベルの魔法を解き放った。

 女の手から出てきた蒼炎の東洋龍は、その巨体を入口まで伸ばし一気に―――爆ぜた。

 ドカーンと目の前で起きた爆発に驚いていると、女は下僕(しもべ)をいきなり持ち上げ、空いている家の中に隠した。

 いちおう本体は影の中にいるとはいえ、下僕(しもべ)だけでも七十キロは超えてるんだけどな・・・。

 何をしているのかさっぱりわからないが、とりあえず動かずじっとしておく。

 そうしていると、先ほどの戦闘集団が帰ってきたようだ。

 一番先頭にいた赤髪の男が大声をだして女に駆け寄っていく。


「―――姉御ッ!大丈夫ですか!?」


「何がですか?」

 

「えっ、いや、確かこっちに『混沌百足(カオスセンチビートル)』が行った気がしたんです・・・」

 

「それは、あなたの足元にいるものですか?」


「・・・えっ?」


 女が指し示した場所は、先ほど炎の龍で焼いた場所だった。

なるほど、先ほど地面を焼いたのは、俺を燃やしたかのように見せるためだったのか。

 

「これはまさか・・・姉御がやっつけたんですか!?」


「そういうことです。突破されたとはいえ、あそこまで弱っていたのはあなたたちのおかげです。報酬は弾んでおきますよ」


「いや、俺たちは守りきれなかった上に姉御の手も借りてしまったので、失敗な気がするんですが・・・」


「何を言ってやがる隊長!姉御がいいって言ってるんだ!もらえるもんは貰っておけよ!」


「そうそう、特に今回は損害がひどいしな!」


「まったく、あの糞虫が!一体何本剣を折りやがったんだよ」


 全部自滅だろ。


「・・・確かに、今回はワガママいってられねえか。ありがたく受け取らせてもらいます。姉御」


「冒険者の方が報酬の受け取り拒否ってのも、なかなかない光景ですね・・・」


 女は苦笑しながら、男の肩を叩く。


「大丈夫です、あなたたちのおかげで私一人でも倒せたんです。それは、充分依頼達成ですよ」


「あ、姉御!」


 肩を震わせ男泣きをする男。リアルに見ると、正直キモいな。


「ここで休んで、と言いたいところですが、まだ残党が集まってくるかもしれません。先に帰っておいてください」

 

「そんな!じゃあ姉御は!」


「あなたたちは、もう武器がないでしょう?大丈夫です。私一人で十分です」


「・・・そうだな。姉御は魔術師だ。俺たちが前をうろちょろすると逆に本気が出せない。わかりました!すぐに本部に応援を頼みに行ってきます!」

 

「た、隊長!待ってください隊長!」


 男はそこまで言うと、走って行ってしまった。

 なんかスポコンみたいな展開だな。太陽の向きに走っているだけにそう見える。夕方じゃないけど。

 それにしても姉御って・・・ハマリ役だな。面倒見よさそうだし。

 女は戦闘集団が全員去ったことを確認してから、俺が隠れている場所に向かってきた。

 ―――薄く微笑みながら。


「さて・・・では、事情聴取と行きましょうか」


 楽しそうですね!でもその笑顔は怖いからやめて。


 


          *




「・・・つまり、あなたは人間を襲う気はなく、あの戦いでもシグルたちには一切危害を加えてないと?」


 あの後、女(名前はラムールというらしい)の笑顔の中、先ほどの戦いでなにをしたのかの事情聴取(別名尋問)が始まった。ちなみに一番最初に声をかけてきた男はシグルというらしい。


「そういえば怪我人、明らかに少ないとは思ってましたけど・・・手加減してくれたのですか?」


「キューー!(コクコク)」


 頭を縦に振って肯定。

 それにしても、意思表示が二つしかないと話が通じにくい。

 言葉って大事なものだったんだな・・・。

 

「本当に・・・あなたはなにものなんでしょうか?モンスター(人類の敵)でありながら、言葉を理解し、餌というべき者が目の前にいても襲おうとしない・・・実はモンスターに変身してる魔術師、なんて言いませんよね?」


 首を横に振って否定を示す。人間に戻れるなら戻りたいわ!

 そんな意思を感じてくれたのか、ラムールはしばし思考したところで、言った。


「いちおう聞きますが・・・あなたはこれからどうしますか?」


 これからか・・・多分いつもどうりに洞窟に引きこもって―――って、洞窟にはもう入れないか。

 じゃあ、どこかに遠出でも―――も、この姿じゃあ騒ぎになるか。最悪、討伐隊が作られかねない。

 いや、もう来たか。

 ・・・本当にどうしよう?

 反応を返さない俺を見て、ラムールは言った。


「特になさそうですね。ならどうでしょう?この場所で―――」


『―――お母さん!』


 ラムールの言葉は遮られ、代わりに年若い少女の声が響き渡る。

 声は、先ほど出てきた教会から響いてきた。つまり、あの少女の声であろう。


「・・・何かあったようですね。行きましょう」


 ラムールと俺は、急ぎ教会に向かうことにした。




          *




「あ、ぐっ・・・はっぐ!」


「お母さん!お母さん!お母さん!」


 教会の奥にあった病室では、奥のカーテンがしまっていたベットの前で一人の少女が泣き叫び、開かれたカーテンの中には、少女と同じ金色の髪を持った女性が苦しみながら寝ていた。


「・・・病が悪化したのでしょう。すいませんが先ほどの話は後にしてもらいます。今は、こちらが優先です」


 コクコクと頭を振り、早く治療するよう勧める。

 幼い少女が泣いているのって、なんか心が痛いんだよね。

 あ、男は別ね。

 ラムールは少女のもとに行き、治療を始めた。


「・・・!誰!―――お姉ちゃん!」

 

「そうです。少しどいてもらえますか?そこでは魔術がかけにくいので」


「は、はい!」


 ラムールは少女がどいたのを見て、ベットの前に立ち、呪文のようなものを紡ぎ始めた。


「『慈悲と癒しの光をここに。女神よ、かの者に嘆きを聞き、癒しの光を。”治癒の緑光”』」


 ラムールが全てを唱え終わると、少女の母親を覆うように幾何学な紋章があらわれ、次第に緑色の光を放ち始めた。

 その光を浴びた少女の母親は、少し楽になったように見えるが、まだ足りないようだ。


「・・・ダメですね。私は、治癒系の魔法は苦手分野なんですよ」


「そんな!じゃあお母さんは!」


 少女がラムールに向かって泣きながら言うと、ラムールは微笑みながら少女の手の中にあるものを指し示した。

 それは―――精霊石だ。


「私は無理ですが、あなたならいけるでしょう。早くその石を使ってあげてください」


「石・・・?あ、精霊石!これを使えばいいの!?」


「そうです。ほら自分の額にくっつけて、石に向かって願ってみてください。それでいけるはずです」


「うん!やってみる!」


 ラムールに言われた通り、少女は自分の額に精霊石をくっつけてお祈りをし始めた。


「お願いです!お母さんを・・・助けて!」


 そう少女が叫んだ瞬間、精霊石から―――光が爆ぜた。

 まばゆい光は、収束していきあっというまに少女の母親に吸い込まれていった。


「う、うん・・・ここは・・・教会・・・?」


 少女はその光景に呆然としていたが、母親の声を聞き、再び目に涙を浮かべ、母親に飛びついた。


「―――お母さん!」


「この声は・・・レイラ・・・?」


「そうだよ!もう大丈夫?痛いところはない?」


「いや・・・もう大丈夫よ。心配かけて・・・ごめんね・・・」


「・・・お母さん!」


 少女は母親の胸に顔を押し付け、再び大声で泣き始めた。

 ・・・感動的だった。映画だったらアカデミー賞が狙えるだろう。いや、それは言いすぎか?

 しばらく(心のなかで)感涙していると、ラムールが話しかけてきた。


「これで、こっちは一段落ですね。それで先ほどの話に戻りますが・・・何もすることがないなら―――」


 ラムールは、微笑みながら告げた。




「―――この村の守護者になりませんか?」


 

ラムールの突然の提案。

主人公の選択とはいかに!

そして、クエスト達成したけど報酬はあるのか!?

どうなる!




感想をいつもくれてありがとうございます。

なるべく返信するよう頑張りたいと思います。


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