九話 あるーひ、もりのなーか、むしさーんに、であーた。
「こっちだ!急げ!」
「ひるむな!相手は所詮虫けらだ!俺たちが勝てないわけねえ!」
たくさんの人間が森の前を走り回る。
皆が皆、手に武器を持ち、あるものは身の丈ほどある剣を、あるものは分厚い盾を、あるものは宝石で装飾された杖を、あるものは弓を構えている。
「あいつは《特殊災害指定個体》だが、本体自体は弱い!俺たちの敵じゃねえ!」
「魔術師!一発でかいのをお見舞いしてやれ!」
「おうよ!」
武器を持ったものは、『それ』に向かって駆け出し、杖を持ったものは呪文を紡ぎ始め、弓の弦が引き絞られる。
剣が打ち込まれ、燃え盛る火の玉や矢が飛び交い、斧が振り下ろされる。
しかし、その体には一筋も傷は残らず、逆に剣は折れ、斧は砕け散り、杖は酷使に耐え切れず破裂し、矢ははじき飛ばされた。
「クソッ!武器がやられた!一旦本部に戻る!頼んだぞ!」
「おっしゃ!B部隊戦闘準備開始だ!」
「「「「「おお!!!」」」」」
武器が壊された者は撤退をし、代わりの者がまた戦場に乱入を開始する。
「シャァアアァアア!!」
『それ』は高らかに雄叫びを上げ、戦いは再び始まる。
しかし、その戦場には二つおかしなところがあった。
『それ』の体に傷がないのは当然だが、人間のほうに重傷者も出てはいないのだ。
人間の損害は武器だけ、極まれに転倒などによる軽傷者が出るだけであった。
それもそのはず、『それ』は戦っているように見えてまったくもって攻撃をしていないのだから。
そしてもうひとつは、『それ』の背には人間の女の子が眠っていた。
『それ』は、世界でも有名なほど凶暴なものであるのに。
「シャアアァアアアアァアア!!」
『それ』は再び雄叫びを上げる。
(早く終わらねえかな・・・。あ、転んだ)
割と呑気なことを考えながら。
*
折角速く走れることになったのだし、今日はもっと遠くに行くことにした。
てか、ぶっちゃけ家(洞窟)に体が入らなくなってしまったので、もうどこで寝ても大丈夫だろうってことで決定されたのだ。
えっ?雨はどうするのか?
どうやら俺にもあの雨の耐性ができたみたいで、どれだけ降られようがまったくもって問題なし!
・・・まあ、『緑鬼小僧』とか『好色豚』も普通に歩いてたときは凹んだけど・・・。
まさかこの世界の生物は皆あの雨に耐性を持っているとか?
・・・じゃあ俺が最初雨に降られた時も、あんなに怯なくてもよかったとか?
・・・虚しくなるから考えるのはやめておこう。
とりあえず、気分をなおして出発する。
荷物は、旅人らしきものが持っていたカバンと中身。
いちおう中身(主に精霊石)は貴重なものらしいので、しっかり尻尾(?)みたいな部分にかけておく。
さあ!出発だ!
しばらく走り続けていると、鬱蒼とした森のちょっとした広場に出た。
広場にはいろいろな植物が生えており、色とりどりの花が美しい場所であった。
・・・もちろん、『ドクレシア』もあったが。
なんなのあの花?なんでいつも行くとこ行くとこにあるの?てか、あの花の周りだけ他の植物が一切生えてないのはなぜ?
いろんな疑問が出てくるのをこらえ、何か朝食になりそうな植物はないか探す。
竹のような葉っぱの草、白と黒の花びら交互に重なっていてとても特徴的な花、蕾のような葉に包まれていた果実、いろんな植物を見つけることができた。
一本ずつ鎌の手で摘み取って・・・試食開始。まず第一『竹草』(仮)。
これは・・・ちょっとした苦さの中にある旨み、抹茶みたいだ。煎じて飲んだらもっとおいしくなるかな?
次、『白黒薔薇』(仮)。
この花は、中々独創的な味で、白い部分が甘く、黒い部分は辛かった。
黒い方はともかく、白い方はいろいろ使えそうかな?粉にして乾燥させれば砂糖みたいになるかも。
あ、それなら黒い方はちょっとしたスパイスかな?
次、『蕾実』(仮)。
シャクシャクした食感がりんごにとても似ていて、味はパイナップルみたいな。
まあ、生え方もパイナップルそっくりだったからそのせいか?
疑問は尽きることはないが、とりあえず全部二十束ずつ取ってカバンの中に入れておく。
次は山に移動して森を抜けるか、村か何か探すか迷っていると、ドンッという音が周りに響いた。
急いで音のなった方に振り返ると、そこには尻餅をついた一人の少女がいた。
金色の髪に少し汚れたワンピースのような服を着ている少女。ちなみに目も金色。
どこからか迷い込んだのかな?そう思って近づくと・・・。
「ひっ・・・!モンスター・・・!」
うん、完璧に恐れられてるね。
どうしよう、コミュニケーションを取ろうにも、こっちは言葉すら話せない状況だし、そもそもこの外見のせいで話すらする前に恐怖で気絶しそうな感じだし。
ここは・・・おとなしく離れたほうがいいか?
そうしていると、またあのアナウンスが頭の中に流れた。
『 クエスト《母の病と少女の愛》が、発注されました 』
『 このクエストを、受けますか? 』
【YES】or【NO】
『 ****により、強制的に【YES】が、選択されました 』
『 クエストを開始してください 』
・・・待てやコラ。
何やっちゃてるの!?****!
進化は百歩讓るとして、クエストぐらい自分で選ばせろよ!名前が見えないことをいいことに好き勝手やってんじゃねえぞごら!
と言っても何も変わらないし、逆にその怒気に少女が気絶しそうなので、心を沈めてクエストとやらを確認する。
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クエスト《母の病と少女の愛》
・内容
長年病に苦しんでいた少女の母の病が悪化した。
このままでは母はもうもたないということを悟った少女は、村の近くにある森の奥にその病に効く薬草があることを聞き、母を助けるため走り出した。
しかし、その場所はモンスターが跋扈する人外魔境。
モンスターの手から少女を守り、少女の母の病を癒せ。
・期間
三日間
・失敗条件
少女の一定以上の負傷、もしくは少女の母の死亡。
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・・・泣ける話やわ~!
めっちゃいい子やんこの子!自分のお母さんを助けるために怖くても森の中に行くなんて。
この子を手伝うことは確定したとして、問題はその薬草だな。
こっちから聞くこともできないし、どうやって探すものか・・・。
文字は通じるか?
早速、地面に文字を書いてみる。
『薬草って何?』
さあ、届けこの思い!
「・・・・・・」
しまった!こっちを警戒して近づいてこないから、見ようにも見えない!
うーん、本当にどうしよう・・・そうだ!
俺が思い出したのは、カバン。正しくはその中身。
今までとってきた薬草らしきものはいろいろ入ってるし、もしかしたらこの中にあるかもしれない。
少女に近づき、指の間に挟んで見せる。
ナイフで襲いかかってきたけど、『好色豚』よりも力の弱い人間の子供じゃあ、文字通り歯が立たない。
やがて、こちらの意図を察したのか薬草の方に注目した。
「・・・?・・・それ、くれるの?」
どちらかというと、この中にないかという感じなんだけどな。
少女は恐る恐る近づいてきて薬草を見るが、雰囲気からして見つからなかったようだ。
これ以上の薬草は・・・あ。
カバンの中を探っていると、硬い感触が手に伝わる。
これも確かそうだと思うけど・・・反則かな?
そうして俺が出したのは・・・緑色の石。つまり治癒属性の精霊石。
「・・・!それはもしかして・・・精霊石!?」
少女もこれの価値を知っているようで、目を見開いて驚いている。
そして少女いきなりその場に―――土下座!?
まさか、異世界でもその文化が!?
「お願いっ!その精霊石を譲ってっ!なんでもするから・・・」
おっと、なんか少女がおかしなことを話し始めたが、これでもオッケーみたいだ。
ちょっとインチキくさいけど、まあ成功は成功だよね。
しかし、クエストの失敗条件には、少女の負傷も入っている。
このまま渡してサヨナラでは、帰り道にモンスターに襲われて死んでしまう。
それでは折角あげた精霊石も無駄になってしまうし、クエストも失敗になってしまう。
俺は少女の服の襟を慎重に掴み、背中に乗せて走る。精霊石も渡しておく。
ポカーンとしていた少女だが、その手の中に精霊石があるとわかると、静かに泣き始めた。
「・・・ありがとうっ!」
ちっちゃな子にお礼を言われるってのもいいね。
べ、別にロリコンてわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!
*
しばらくすると、泣いて疲れたのか少女は眠ってしまった。
お、落とさないようにしないと。
ちょうどの少女に当たりそうな高さにある枝を切りながら進み、ようやく光が見えてきた。
森から出たと思った瞬間、そこで待っていてくれたのは沢山の人間だった。
皆、手に手に武器を持っていたり、鎧を着ていたりする。
*
そして、最初に戻る。
なんか部隊を分けて攻撃してくるせいで、逃げれる隙がないし、強行突破しようにも俺は無事なんだけど、魔術が背中にいる少女当たったら目も当てられない事態になる。
・・・えっ、詰んだ?
ええい!何かこの事態を突破できる能力はないか!
ステータスオープン!
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《種族》 混沌百足・異常種
《能力》 【絶対捕食】【同属吸収】【麻痺耐性】【粘糸生成】【鋼糸生成】【猛毒耐性】【鋼装強化】【超突猛進】【疾風怒濤】【覇激連突】【電子操作】【万象発炎】【水流操作】【瞬間治癒】【大鎌生成】【首狩り】【四刃乱舞】【高速移動】【強靭なる生命力】【威嚇叫声】【無音殺害】【僻地蹂躙】【毒液生成】【狂気の奇叫】【異常なる生命力】【従体生成】【堅牢なる無傷鎧】【疾風迅雷】【不死不滅】
《称号》 【輪廻異常者】 【不釣り合いな魂】 【罪を背負う者】 【屍喰い】【鬼殺し】【罠師】【下克上】【卑怯者】【森の王】
《加護》 無し
《祝福》 無し
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ええい!何かないか!
【粘糸生成】は、魔術で燃やされる。
【電子操作】、強すぎ論外。
【水流操作】、近くに水ないし、空気中のを集めるには湿度が足らない。あれは近くに水場がある時しか使えないんだ。
【万象発炎】、以下同文。
【威嚇叫声】、少女が近すぎて鼓膜が破れかねん。下手すると心臓止まるかも。
【毒液生成】、遅すぎよけられる。
【従体生成】、壁にすらならねえ!
【疾風迅雷】、速すぎ、多分少女が風圧に耐え切れず落ちる。
・・・役たたずばっかりじゃねえか!
どうする、どうする。このままじゃ千日手になって、少女の母親が・・・。
・・・そうだ!これならいける!
俺は少女の周りに【大鎌生成】でドーム状にし、何本か自分の足を切断する。
くう~、なんか小指をタンスにぶつけた時のような痛みが・・・泣いてなんかいないんだからね!
しばらく血みたいな体液が噴出したあと、【不死不滅】を発動して完全治癒。
そして、その噴出した血を【水流操作】で、帯状にして大鎌のドームを囲って・・完成。
耐物、耐炎のドームの完成だ!
これなら、突っ切っても魔法が当たる危険性もないし、振り落とされることもない。
ちなみに、大鎌は刃の方が少女に向いてしまっているが、限りなく切れ味を落して、刃の部分を太くして『ちょっと角のついた壁』みたいな感じになっているので、怪我の心配はない。
さあ、強行突破開始!
「虫が動き出した!行かせるんじゃねえぞテメエら!」
「くそっ!俺たちじゃ止められねえ・・・。伝令!全部隊を投入するぞ!」
「イエスッサ!」
あれ、なんかやばい事態になってるような・・・。
まあいい、先にここを超えてしまえばこっちのものだ。
そう思って走っていると、なんか後ろの方に衝撃が・・・―――って大鎌ドームが攻撃されている!?
なんで!?
「見ろ!あそこにおかしな場所がある!あれが弱点だ!」
「魔術師部隊!あそこを狙え!」
ちげえよ!いや、確かに弱点だけど俺が死ぬわけでもないよ!
そう言っても俺の思いは伝わらず、攻撃は激しくなるばかり。
急いで体で囲って、防御する。
「やっぱりだ!あれが弱点だぞ!」
お前いい加減黙れよバッカやろー!
こうなったらいっそ、こいつら全滅させるか?
これ以上守り続けて少女が目覚めてもいけない。子どもの教育に悪いということで。
そう思って殺気を巡らすと、急に攻撃がやんだ。
はて、何が起こ―――全員気絶?まさか、あの殺気だけで?
・・・なんか拍子抜けだな。
なんとか戦場をくぐり抜け、先へ急ぐ。
*
村に到着・・・と行きたかった。
村の前に仁王立ちする茶髪碧眼の女性。
傍目から見れば自殺志願者にしか見えないが、あきらかに強者の雰囲気を纏っている。
『紅鎌蟷螂』の倍ぐらいの。
ボス戦?まさかのボス戦なのか?
見た目的には、こっちのほうがボスだけど。
「・・・おかしいですね。襲いかかってこないんですか?」
何言ってるんすか。勝てる確率零の相手に挑むなんてバカのすることですよ。
攻撃してこないので、話が通じることを願って地面に文字を描く。
女は、何もしない。
『少女をひとり預かっている。村に返しに来た』
さあ、届けこの思い!
「・・・モンスターの言葉は私にはわかりませんよ」
オウノォ!まさかの事態、これなら少女下ろして逃げるか?最後まで見届けたかったんだがな・・・。
しかし、女は攻撃せず何かを思案しているようだ。
しばらくたち、女は話しかけてきた。
「もしかして・・・私の話している言葉が理解できているんですか?」
頭を縦に振る。この世は強者が絶対だからな。
「・・・珍しいモンスターもいたものですね。よく見たら、体も黒いですし。異常種ですからそれもあるかもしれませんし・・・」
女は何事かつぶやき始めた。今一体どうなっているんだ・・・?
「・・・ここにはどんな御用で?」
ドームを解除し、背中にいた少女を掴んで差し出す。これでいいのか?
「・・・どうやら、敵意はなさそうですね。いいですよ、村に入ってください」
どうやら助かったみたいだ。ゆっくり歩いて村に入っていく女を追いかける。
俺、生き残れるかな・・・?
ちなみに、村の前に立っていた女は、ラムールです。
ラムールも詳しい描写とか入れたほうがいいかな?
さて、次回は!
・・・・・・まだ決まってません。
訂正
・女の『襲いかかってくない』の『く』を『こ』
・少女の口調をもっとロリっぽく




