96 ユーキと樹の出会い
タイトル通り、ユーキと樹の出会いです。
話は5年前。プロローグのあとに繋がっていますので、そちらからどうぞ。
最終回に向けて、どんどん隠してあった秘密が浮き出てきます。恋愛はちょっとお休みですね(汗)
【注】設定上、ユーキは「光姫」の名前で描かれています。
午後7時。ビジネスホテルから窓を覗くと、昨夜見た、あの機械的なネオンたちが光っていた。光姫は、あぁ、昨日の景色は夢じゃなかったのか、と、溜め息をつく。
ベッドに腰を下ろして、昼間買って来たハイヒールを履く。立ち上がって足を踏みしめてみると、重心がよろよろとして縺れ、ベッドに倒れ込んでしまった。
「こんなんで歩かなきゃいけないの?」
片足をブン、と振り上げると、自分の足に不似合いな8センチのヒールの踵が浮いている。
「もう行かなきゃ」
光姫はもう一度立ち上がり、背筋を伸ばす。やけに内股気味になって絨毯の上を進み、全身鏡の前に立つ。
血の色をした真紅のワンピースに、シルバーのハイヒール。濡れた唇を演出する、ぷっくりと腫れたみたいなローズ色のルージュに、グロス。全部、昼間のうちに買っておいたものだ。どれを買えばいいのか分からなかったが、デパートに行けばブランド店がいくつもあったので、そこで揃えた。化粧品ひとつにもお金をかけて、総額は50万円ほど。持っていたお金のほとんどがなくなって、ビジネスホテルにも、明日までしかいられない。
――失敗は許されない。だからこそ、自分をここまで作り上げたんだ。
窓に反射する街のネオンを見つめて、光姫は、ぼそっと呟く。
「今からそこへ行くよ」
乱暴にカーテンを閉めると、光姫は夜の歌舞伎町へと向かった。
ホテルの部屋からは遠く感じたのに、歌舞伎町はずいぶん近く、ホテルを出ると、信号を渡るだけだった。
赤信号で立ち止まると、周囲が横目でちらちらと、光姫を見ていた。やっぱり少し派手だったのだろうか。所詮、田舎者の浅知恵。イメージしていたキャバクラ嬢は、現実とはかけ離れたものだったのかもしれない。
信号は青に変わり、光姫は一瞬すくんでしまったが、きゅっと唇をきつく噛むと、再び歩き出した。やはり周囲は光姫のほうを気にしていたようだったが、しばらくその姿でいると、光姫自身が慣れて、気にならなくなった。
歌舞伎町のゲートは思ったよりもあっさりと潜れた。チカチカと目に飛び込んでくるネオンはうっとおしいいほど輝き、あの夜明けをすぐに忘れさせた。
光姫が歌舞伎町に来たのは初めてのはずなのに、周囲は光姫を敬遠し、カツカツとヒールを鳴らして歩くその姿を、離れたところから見ていた。呼び込みのホストたちは静まり、自分の前を光姫が過ぎていくのを目で追う。男たちの目には、ネオンよりもチカチカと輝いた光姫の姿が映っていた。
そんなことを知らずに、光姫は、あるホストクラブの前に立った。
「ここにいる」
見上げた看板には「トワイライト」の文字。覚えていた名と、同じ表記がしてあった。
光姫は煌びやかに装飾された扉を開く。と、左右に寄ったホストたちが「いらっしゃいませ」と、一斉に挨拶をした。初めてのことに驚きながらも、光姫は、言った。
「ナンバーワンの人に会いたいんだけど」
すると、マネージャーが「樹ですね」と返す。
「名前は知らない。とりあえずナンバーワンの人」
マネージャーは少し怪訝そうな顔をして、それでも光姫を席へと案内した。
「少々お待ちください」
そう言って離れていくと、マネージャーは、樹のもとへ向かう。
光姫は、フロアを見回した。あまりきょろきょろと目移りさせていたら、いかにも田舎から出てきたばかりに見える。そう思い、ゆっくりと首を捻りながら。
――何が楽しいんだろう。
光姫はひとり、冷めた視線を辺りへ投げつける。男は女を抱き寄せ、女は男に体を寄り添わせている。甘い空気と引き換えに、大金が男を纏っていく姿が見えたような気がした。
――何でこんなのに嵌ってしまうんだろう。
光姫は、小さく舌を打つ。
すると、マネージャーとともに、ナンバーワンの樹が、やって来た。
「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます、樹です」
顔を上げた樹と、目が合う。
ユーキと樹が出会った瞬間。




