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90 別れの言葉

「俺だけが嫌だなんて言ったって、もうどうしようもないんだね」

 海からの帰り道、朱葵はとうとう諦めた。ユーキの決意は変わらない。ならば自分も覚悟を決めるしかないのだと、悟った。

「ありがとう」

 ユーキは、笑っていた。




 午前9時にチェックアウトして、車は来た道を引き返した。高速を進むユーキの運転は随分慣れたもので、行きは券を取るのにも体をよじっていたのが、スムーズに引き抜くことができた。

「うん、昔の感覚が戻ってきたわ」

 ユーキはリズムを刻むように前後に体を揺らしながら、明るい声で言う。

「俺はまだ恐いよ。油断したら事故りそうで」

 朱葵は不安を露にする。

「本当に失礼よね、朱葵くんて」

 むすぅっとした声で、ユーキは返した。

「でも、ドライブは楽しいな」

 朱葵がそう言うのを、ユーキも同じ気持ちで笑った。


 ――あとどれくらい、こんな風に笑い合っていられるんだろう。


 そんな気持ちも、2人、同時に生まれていた。

「・・・・・・ねぇ、朱葵くん」

「何?」

「あのね、東堂さんが、言ってたんだけど・・・・・・」

「ちょっと待って」

 ユーキが言いかけたところ、朱葵が口を挟んだ。

「何よ」

「ユーキさん、自分の癖、知ってる?」

 朱葵はユーキを見て、言った。

「癖?」

「今までの経験上、ユーキさんは何か言うとき、“間”が増えるんだよね。しかもそれって、必ず俺にとって嫌な情報」

 ユーキはドキリとする。ちょうど今、自分は朱葵にとっては嫌な話をしようとしていたのだ。

「そ・・・・・・うだっ・・・・・・た?」

「当たり、でしょ」

 朱葵は溜め息をついた。

「あ〜あ。聞きたくないなぁ、そんな話」

 そう言って、座席のシートを後ろに下げた。聞きたくない、聞く気がない、という、朱葵の、最後の抵抗だった。

「朱葵くん、聞いてね」

 ユーキは横目でチラリと朱葵を見やると、言った。

「東堂さんが言ったの。これが最後の休みになるって。朱葵くんも、分かってたのよね」

 今日、午後からはドラマの撮影。明日はクランクアップの予定。明後日からは、映画のために京都へ向かう、と、朱葵は昨日、東堂に言われていた。

「何だか永遠の別れみたいになったけど、3か月後にはまた今まで通り、会えるんだもの。仕事、頑張ってきてね」

 そう。3か月経てば、またこんな風に2人であの夜明けの瞬間を見ることだってできる。


 ――これで最後じゃない。3か月なんて、すぐ来る。


 ユーキが前向きでいられるのは、そう信じているからだ。

「俺はまだ、そんな風には考えられない。だって、もうユーキさんなしの生活には戻れないよ」

 朱葵は起き上がると、眩しさに、サングラスを掛けた。見えない瞳からは、朱葵の気持ちが探れない。だけどユーキは、朱葵の心の内に、気づく。

「朱葵くんは、恐いんだ」

 と、ユーキは言った。

「恐いよ」

 朱葵は、サングラスの下から、ユーキを覗いた。ユーキは余裕の面持ちで、ハンドルを握っている。

「大丈夫よ。会えなくても、メールはできるんだから。まったく連絡が取れないわけじゃない」

 

 ――違うんだ。俺が恐いのは・・・・・・。


 恐いのは、映画のことじゃない。会えないことでもない。一番恐いのは、今、東京に戻って、別れることだ。

 語られたユーキの過去も、思いがけない宿泊も、2人で見た夜明けの瞬間も、みんな、永遠の別れを示唆しているように、思えたから。

「じゃあね」という言葉が、2人の最後になりそうで、恐い。





次回からはついに、最終章に突入します。(いつの間に!!と思うかもしれませんが)

出し惜しみしてきたあの人たちも登場します。

ラストまでの構想もだいぶ固まってきました。ここからどれだけ長くなるかは分かりませんが、どうぞ最後までお付き合いください。

直せるところは直していくので、ご意見、感想もお待ちしています。

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