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80 別れのデート

 2日後、東堂の言う、「最後の休み」が来てしまった。

 午後1時。ユーキは朱葵に、電話を掛ける。

「もしもし」

「朱葵くん、あたしよ」

「ユーキさん?!」

 番号を消したきりだった朱葵は、見覚えのあったその番号の持ち主にようやく気づいた。

「仕事、終わった?」

「え、うん。今ちょうど家に着いたところだけど」

 すると、ユーキは明るい声で、言った。

「じゃあ、これからあたしとデートしない?」



 *  *  *



「30分後にマンションの下に出てて」

 と言われた朱葵は、エントランスでユーキを待っていた。1時30分、40分、そしてとうとう50分になると、朱葵は不安に思い、携帯を取り出した。

 電話の待機音が鳴る。トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、と、何度繰り返しても、一向にユーキは出ない。


 ――どうしたんだろう。


 朱葵はマンションの自動ドアを抜けた。

「朱葵くん」

 自分を呼ぶ声のほうに振り向いた朱葵は、ユーキが、車に乗っている姿を見つけた。助手席にいるのかと思ったら、よく見ると左ハンドルで、ユーキは運転席にいる。

「ユーキさん?!」

 朱葵が車の側まで行くと、ユーキが助手席に乗り出して、言った。

「ごめんね、大遅刻。とりあえず出るから、乗って」

 交通量の激しい青山通りには、路上駐車できるスペースがないのだ。

 朱葵が助手席に座ると、ユーキはエンジンを吹かし、青山通りを飛び出した。

「この車、ユーキさんの?」

 ユーキの乗ってきた赤いポルシェは、朱葵の車によく似た、コンパクトなサイズだ。

「まぁね。でも普段はあんまり乗らないから、専用駐車場に置いてあるの」

 実はこのポルシェ、去年の誕生日に、お客からプレゼントされたものなのだ。

 ユーキは高校卒業時に免許を取って、20歳までは結構乗り回していた。その後、東京に来て、キャバクラに勤め出してからは、車は男が運転するものになっていた。

「あてもなく、ひとりでどこかに行きたくなるときがあって、休みの日に車を走らせてたわ。でも今日は本当に久しぶりで、案の定、なかなか感覚が掴めなかった。余裕を持って家を出たつもりだったのに、ずいぶん時間がかかっちゃった」

 ユーキはそう言って笑い、高速に向けて車を走らせた。

「高速に乗るの? 大丈夫? 俺、運転替わろうか」

「左ハンドルは運転したことないでしょ」

 確かにそう言われると、朱葵は、外車は未経験だ。けれど、さっきからどこか危ないユーキの運転を見ると、朱葵は、身の危険さえ感じてしまっていた。

「大丈夫よ。こう見えても、今まで無事故無違反なんだから」

 不安がる朱葵に、ユーキはあくまで余裕の姿勢をとる。

「とりあえず安全運転でお願いします」

「分かった。100キロ以上は出さないわ」

「ちょ、ちょっと、ユーキさん」

 ユーキはくすくすと笑っている。

「任せてよ。5年前まではほとんど毎日のように運転してたんだから。あ、券取って」

 高速に入るところ、朱葵は腕を精一杯伸ばして、何とか通行券を引き抜いた。


 ――本当に大丈夫なのかな。


「ユーキさん、どこ行くの?」

「あたしの行きたいところ」

 まだ午後2時を過ぎたばかり。一緒にいられる時間はたっぷりある。とりあえず朱葵は、久々のデートを楽しむことを考えた。

 少しだけ開けた窓からは、風がひゅうっと入り込んでくる。

 ユーキは、ポツリと呟いた。

「このまま風になりたいわね」

「……」


 こうしてユーキと朱葵の、先行き不安なドライブが始まった。






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