78 新たな道へ
「見つかるって・・・・・・東堂さんにバラすってこと?」
「そうよ」
ユーキは尚も冷静に、言った。
「こんなこと繰り返しても、仕方ないもの」
「でも、もし別れさせられたら――」
「別れなければいいじゃない」
ユーキの答えに、朱葵は思わず言葉を詰まらせる。
「本気で付き合ってるって、知ってもらいましょう。東堂さんだって分かってくれるかもしれないわ」
“あの”東堂が、分かってくれるだろうか。朱葵は不安を抱えながらも、突然のユーキの提案に驚くあまり、何も反論ができない。
「ユーキさん、何か考えがあるの?」
溜め息交じりに、朱葵は言った。
「特にこうしようってことはないわよ。ただ、東堂さんにはバレてもいいんじゃないかなって、思っただけ」
「ユーキさん、何で・・・・・・」
そのとき、インターフォンが鳴った。
「ほら、東堂さんが迎えに来たんでしょ。行きましょう」
ユーキは、朱葵をエレベーターへと押し込む。
エレベーターが下に向かう間、朱葵は、もう何も聞かなかった。ユーキの凛とした落ち着いた姿に、朱葵は、すべてを任せるしかないと悟ったのだった。
まもなくエレベーターは1階に到着する。階数ボタンが2を表示したとき、ユーキは、朱葵の左手を取って、ぎゅっと握った。思わず振り向いた朱葵に、ユーキは笑顔で、言った。
「さぁ、行きましょうか」
そしてエレベーターは止まり、扉が開く。
「東堂さん、おはようございます」
手を繋いで2人、新たな道へと歩き出した。
* * *
車での移動中、朱葵は後部座席に寝転んで、アイマスクを目に当てていた。行き先は都内のホテルで、取材陣を前にした製作発表があるらしい。
「何の製作発表? またドラマにでも出るの?」
「行けば分かる。20分ほどで着くから、それ、どうにかしとけよ」
と言って、東堂は朱葵の目を指差した。
車内はいつものように音楽がかかっていて、だけどそれが、重たい空気を作っているように思えた。
すると、車は赤信号に差し掛かり、一時停止した。
「・・・・・・お前が言ったのか」
洋楽のヴォリュームが次第に弱まって、音が完全に止まったあと、東堂は切り出した。
「・・・・・・違うよ」
と、朱葵は返す。
「そうか」
車が再び動き出すと、東堂はそれ以上、何も言わなかった。洋楽はまた大きな音を出して、車内に流れた。
朱葵は、ユーキの行動を思い返す。
手を繋いで現れた2人に驚く東堂。ユーキは「そういうことです」と言って、朱葵の腕に自分の体を抱き寄せた。そして、唖然としている東堂に一礼すると、帰っていった。
その行動の意味するものは何だったのだろうか、と、朱葵は考える。
「しばらく会わないようにしよう」と言い出したのは、ユーキだった。それが急に、どうしてバラすことにしたのだろうか。
分からないユーキの考え。だけど、これでもう東堂に遠慮せずにユーキと会うことができるのだと、朱葵は、漠然と心の中で喜んでいた。