74 対面と対策
「・・・・・・どうかされましたか? わざわざこんなところにいらっしゃるなんて」
と、ユーキは切り出した。
「僕がここに来るのは、想像できませんでしたか?」
「ええ・・・・・・」
店に、しかも自分に会いに来るなんて、いくら警戒しているといっても、そこまで考えたことはなかった。
けれど、ユーキは平静を保って、あくまでナンバーワンキャバクラ嬢として接する。
「お店で私を指名しに来た――のではないんでしょう? 店の外に呼び出すくらいですから」
東堂もまた、淡々と話す。
「すぐに局に戻らなければならないので、お店にお邪魔している時間がありませんでした。朱葵は今仕事中です。僕がいないのを気づかれる前に戻らないといけません」
ユーキは、直感した。
東堂が“ここ”に来た理由。それは、朱葵との関係を勘付かれてしまったせいだ、と。
「急ぎの用事ですか?」
「はい。一刻も早く」
「どんな話でしょう」
「それは、あなたも分かっているんじゃないですか?」
と、東堂の目が光る。
――あのときと同じ目をしている。
初めて会ったときと、同じ視線。優しそうな物腰で、だけど心の中では、常に探っているような。ただひとつ、今ユーキの目の前に立っている東堂は、あのときとは違い、確実に疑いの心を持っているのだと、分かる。
少しでも隙を見せてはいけない、と、ユーキは唇を固く結び直す。
「そんな風に言われる覚えはありません」
そう言ったユーキの目を、東堂はじっと見つめる。探るようなものではなく、まるで、愛しいものを見るような目をしていたと思ったのは、ユーキの気のせいだろうか。
「・・・・・・今は、そういうことにしておきます」
東堂は、クルッとユーキに背を向けた。
「けれど、たぶんまたここに来る時がくるでしょう」
そう言って、東堂は振り返ることなく、ピカピカ通りに停めていた車に乗り込むと、その姿を見送っていたユーキに軽く一礼し、帰っていった。
* * *
「えっ、東堂さんが?!」
「うん。昨日の夜、あたしのところに来たわ」
次の朝、珍しくユーキから朱葵のもとに電話があった。仕事が午後からだった朱葵は、まだ眠りの中、騒がしく鳴った携帯電話に起こされた。
擦れた声で挨拶を交わしたあと、ユーキのひとことに、朱葵は全神経が一気に震えるほどの驚きで、目を覚ました。
「何で突然疑われたりしたのかしら。ロケで朱葵くんが来たときも、少ししか話さなかったわよね」
と、ユーキは不思議そうに言う。
「ユーキさん。実は昨日の昼、青山で2人でいたところを見られてたんだ」
「えっ?」
「それで俺も言われた。シラ切り通したし、たぶん完璧にはばれてないけど。でも、疑いは持ってる」
「うん。あたしもそう思うわ」
疑っている、というよりも、むしろ、東堂の中では決まっている。ユーキは、そう確信していた。
「とりあえず、疑いが薄れるまで会うのは控えたほうがいいわね。つけられる可能性もあるし」
ユーキの提案に、朱葵も、納得せざるを得なかった。
「そうだね」
「じゃあ、あたしのアドレスは消しておいてね」
「えっ?!」
朱葵は驚く。
「だって、朱葵くんの仕事中に携帯見られちゃうかもしれないでしょ」
「まさか・・・・・・そこまでは・・・・・・」
「念には念を、よ」
朱葵は、深い溜い息を漏らす。
「連絡はあたしからするわ。しばらくしたらまた話し合いましょう。会えないのは辛いけど、ホスト姿でお店に来るなんて無茶はしないでね」
「・・・・・・分かった」
「じゃあ、またね」
電話を切ったユーキは、しばらく携帯電話の発信履歴に新しく載った、朱葵の名前を見つめていた。
そして、思い出す。前に朱葵が言っていた、あの言葉。
「あの人、俺のことになると何するか分からないから」
開け放したベランダから、寒風が入ってくる。
ブルッと身悶えする身体。ゾワッと流れ立つ鳥肌。
3月だというのに、風は肌を刺すほど冷たく、まだ冬の猛威を奮っている。




