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53 心の扉

明日は作者誕生日なのでお休みです(笑)

個人的なことですいません。


 次の夜、ユーキはいつもより早く家を出た。

 休み明けの日はいつもそうだ。前日に休んでしまった分を取り戻そうと、早い時間に来て仕事をする。いつも午後8時過ぎの出勤が、店が開店する午後7時くらいになる。

 マンションの前からタクシーを使って、メイクもセットも、すべて完璧にして行く。キャバ嬢の中には店で支度をする子も少なくない。そんな子たちは、午後6時には出勤している。

 ユーキは、胸元にファーが舞った白いワンピースを着た。裾の部分には細かなラインアートが施されていて、揺れるたび、キラキラと輝くのだ。

 テーマは「雪」だった。暖冬の今年は、雪もまだ1度しか降っていない。ユーキがテレビ局の前で朱葵を待った、あの夜のことだ。だから、自分を雪に見立て、お客の心を掴もうと考えていたのだ。

 朱葵と付き合うことになっても、ユーキの接客は変わらない。恋をしたくらいで仕事が疎かになるほど、ユーキは“夢見る少女”ではない。

 朱葵にとって仕事より大切なものはあるのだろうか、と、不安に思う気持ちがあるのとは裏腹に、ユーキの心には、もうひとつ、仕事を一番に考えてほしいという思いがある。

 

 ――自分だって、仕事が一番大切なんだ。朱葵くんのために仕事を辞めるなんて、そんなことできやしない。


 そういう確固たるものが、ユーキの中にはあった。

 だからこそ、朱葵にだってそう思っていてほしい。そうでなければ、自分は朱葵の想いについていけなくなる。いつかきっと、朱葵を見捨ててしまう。


 

 ユーキはピカピカ通りでタクシーを降りると、六本木ナンバーワンキャバクラ嬢の肩書きを背負って、「フルムーン」へと歩いた。



 *  *  *



 午後3時。昨日より少しだけ早くスタジオでの撮影を終えた朱葵たちは、「フルムーン」に来ていた。

 結局昨日は場当たりからリハーサルまでをざっと合わせたところで開店時間となり、撮影はできなかった。今日明日でやるには誰もが無理じゃないかと思っていたところ、朱葵だけは、自信を持って「できる」と言った。

「できますよ。明日も頑張りましょう」

 打ち合わせの席で、不穏な空気の中、朱葵が言った。それをきっかけに、スタッフも共演者もみんなやる気を取り戻していったのだ。

「よし!! じゃあ今日は早速リハーサルから本番行くぞ」

 という監督の言葉に、みんなが「はい!!」と返事をした。

 ナンバーワン第5話。朱葵演じる新人ホストは着実に人気を増やしているが、どうしてもナンバーワンには敵わないということを自覚し、女のツボを知るためにキャバクラへと向かう、というのが、メインで描かれる。さらにそこで会った店のナンバーワンキャバ嬢に気に入られ、「ナンバーワンにしてあげる」と言われ、肉体関係を迫られる、というところまで発展する。

 第5話の放送日は1週間後。スタジオでの撮影とロケを同時進行で行い、それでもギリギリだと言われている。

 もちろん主役の朱葵は出番も多い。それに、昨日の午前中で、朱葵の出番がない部分の撮影はだいたい終わってしまった。

 つまり、朱葵はこれからほぼ休みなしの状態で撮影をしなければいけないのだ。


 ――もしかしたら今日明日しかユーキさんに会えるチャンスがないかもしれない。


 その間に、朱葵はなんとかしてユーキの連絡先を聞こうと考えていた。



 *  *  *



 午後6時半を過ぎて、巻きで行われていた撮影は、予定していた今日の分を撮り終えた。「フルムーン」の開店に向けて、スタッフは急いで片付けに入った。とはいっても、セットはフロアをそのまま使っていたので、あとは小道具と、撮影機材のみだった。

「とりあえず間に合いそうだな」

 と、心が朱葵の肩をポン、と叩く。

 朱葵はその言葉に安心して、肩の力を下ろす。

「そういえば、プロデューサー、今日は別の番組の打ち合わせがどうしても外せないんだって。さっき局の廊下ですれ違ったとき、言ってたよ」

 心はケラケラと笑う。

「ユーキさんって、まだ来ないのかな」

 と、続けて言うと、朱葵はそれに反応し、ちらっと扉のほうを盗み見た。

 開く気配のない煌びやかな扉は、堅く閉ざされたままだった。

「心、ユーキさんを気に入ってるのか?」

 と、朱葵はさり気なく問う。昨日から感じていた不安が、未だ朱葵にまとわりついていたのだ。

「・・・・・・なんで?」

 心は朱葵の心の中を読もうとする。が、そこは「フルムーン」の扉のように、堅く閉ざされていて、入れない。

「俺がユーキさんを気に入ってたら、どうする?」

 と、聞き方を変えてみる。だが、それでも扉は開きそうにない。

「どうって、俺は別に・・・・・・」

 

 そのときだった。ギィと、音を立てて、扉が開いたのは。


「ユーキさん、おはようございます」

 と、ボーイたちはユーキに挨拶をしている。

「なんか人、多くない?」

 という、ユーキの声が聞こえる。


 

 

 扉が開いた。あの、堅く閉じられた、朱葵の守りの壁が。

 


 

 朱葵が、開かれた扉のほうを、愛しそうな目で、見ていた。




 それを、心が、見ていた。





「フルムーン」の扉が開くのと、朱葵の心の扉が開くのを掛けてます。

扉が開いてユーキの姿を見つけた朱葵が、思わず愛しい目で見てしまった、という感じです。

また伝わりにくい表現ですいません。

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