表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/172

45 車内にて

 車内ではずっと音楽がかかっていて、それのほとんどは洋楽だった。

「洋楽が好きなの?」

「うん。ロックとかR&Bとか、何でも。邦楽も聞くよ。ミュージシャンの友達が結構多くてさ。よくCDもらうんだ」

「ふうん」

 ユーキは、ダッシュボードの中に入っているCDを取り出し、1枚1枚に目を通していく。

「これもそのうちの1人から?」

「え?」

 ユーキが持っていたのは、ある10代の女の子アイドルのCDだった。

「わ〜!!ちょっ・・・・・・」

 朱葵はそれを慌ててユーキから奪い取ると、運転席ドアのサイドポケットに滑り込ませた。

「『朱葵くんへ』だって」

「見たの?!」

「見えたのよ」

 ユーキが言うそれは、CDのジャケットに書かれた朱葵あてのサインだった。

「へぇ〜」

 ユーキは口を緩めて意味ありげに言う。

「うわ。何か嫌な予感」

「ふふふ。朱葵くんって、ああいう子が好きだったのね」

「違うよ。あれは無理矢理・・・・・・」

 そう、以前、朱葵が雑誌の取材を受けていたスタジオに彼女がやって来て、いきなり「好きなんです!!」と言って、「これ貰ってください!!」と、目の前にサイン入りのCDを突き出してきたのだ。人の目もある手前、朱葵は受け取ることはしたのだが、1度聞いてみて以来、ダッシュボードに入れっぱなしになっていた。

 ひどい男だ、と、思わないでほしい。彼女のその新曲は、小学生向けのアニメの主題歌だったのだから。

 後にこの出来事は、様子を見ていた誰かから広まった噂が、週刊誌に載ってしまうほどの事に発展してしまったのだった。

 もちろん東堂の働きのおかげで、大事にはならなかったけれど。

「もしかして、前の彼女とか?」

「それも違うよ。ファンだからって言われて、渡されただけ」

「どうだか」

 ユーキはふぅっと溜め息を漏らして、言った。怒ったような口調でユーキが言ったので、朱葵は不安げにちらっと顔を覗くと、ユーキは開け放した窓の枠に頬づえをついて、顔を背けていた。

「ユーキさん、何か怒ってる?」

 ユーキは返事をしない。ひゅんひゅんと通り過ぎていく車の音のせいか、聞こえなかったのかもしれない。

「ユーキさん」

 もう一度、朱葵はその名前を呼んだ。するとユーキは窓をびっちりと閉めて、静かになったその空間で、自分に呆れてしまったように、もう一度大きな溜め息をついた。

「・・・・・・だめね。ひとりで変なことばっかり考えちゃって」

「え?」

 運転に集中しなければならないとは思いながらも、ユーキの言葉にしっかりと耳を傾ける。

「さっきの女の子のこと。関係ないとは思っても、気にならずにいられないわ」

「だからあの子は本当に・・・・・・」 

「ううん」

 言いかけた言葉をユーキがぴしゃっと遮って、言葉を被せる。

「違うの、そうじゃなくて・・・・・・あたしが気にしているのは、その子のことじゃなくて、あたしたちのほう」

「俺らの?」

 ユーキはほんの少しだけ首を傾げて、何か考え込むようにしたあと、言った。

「あたしも朱葵くんと同じくらいの歳だったらとか、アイドルだったら、とか・・・・・・ね」

 ユーキは、もし自分がアイドルだったら、そんな風に朱葵にアタックもできたのだろう、と、漠然に思った。そしてその想いは、そのうち羨望になっていた。

「なんだ、そんなこと」

 朱葵は安心したように息を漏らす。

「だから、だめだなって。自分に愛想が尽きそう」

 ユーキは疲れたように、息を漏らす。

「でもそれ、俺は嬉しいな」

「え?」

 ユーキは朱葵を見た。

「言っとくけど、俺のほうが不安だったんだからね」

「え?」

「ユーキさんの隣にいるのに相応しい男にならなきゃなって、胸の中でもやもやしてた。俺たち、2人して同じこと考えてたんだね」

 朱葵が柔らかく笑い、運転するその横顔を、ユーキは今日初めて見たことに気づいた。

 狭い車内。朱葵の顔がすごく近くにあるのを意識すると、ユーキは気づかれないように、そっと視線を景色に戻した。

 それからはもう朱葵のほうを向くことさえできずに、コンクリートの壁をぼーっと眺めていると、夕暮れに染められた街が、見えてきた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ