43 「一緒にいたい」
また抽象的な描写です。読みづらくてすいません。
作者はこんな書きかたが好きなんですね。
山を登っている。
一向に先が見えてこない山を、登り続けている。
もう何年も、そうすることで自分の存在価値を証明し、必死に生きてきた。
ひとりぼっちで。何も持たないで。
後ろを振り返ったことなんてなかった。
前だけを見て歩いていけば、きっと、そこには求めているものがあるんだと、思っていた。
頂上を目指すつもりはなくて、いつも、今より一歩、昨日より一歩、進むことを目標にして。
ただ、歩いていた。
鋭い角度で襲い掛かる、目の前の坂を。
すると、誰かが言った。
「一緒に山を登りたいな。2人だったら、山を越えられるよ。ひとりぼっちは寂しいでしょ」
この山を越えるなんて、考えたこともなかった。
だけど、越えた先には何かあるのだと、不思議な予感がした。
2人なら、それができるのなら。
「本当は、ずっと、寂しかった。でも、ひとりしかいなかったから、そんなこと言えなかった。ひとりでも登っていけるって、そう思い続けるしかなかった」
「ひとりじゃないよ。側にいるよ」
2人なら、この先にあるものを、見ることができるなら。
「うん。一緒に行きたい」
ひとりより、2人がいい。
* * *
「あたしは・・・・・・朱葵くんと、一緒にいたい」
ユーキは、ゆっくりと言葉を押し出した。今まで溜めていたものを吐き出すように、ひとつひとつ、確かめながら、ゆっくりと。
「楽な道じゃない。ひとりより2人のほうが、道は困難で、大変なことばかりだと思う」
この先、何が起こるか分からない。でも、必ず何かが起こる。
「それでも、2人のほうが、きっとあたしは幸せなんだ」
乗り越えていける。乗り越えてみせる。
「だからあたしは、朱葵くんと、一緒に生きていきたい」
これが、ユーキの覚悟。ユーキの、本音だった。
朱葵は、ユーキの言葉に、飛ぶように驚いたり、大声で喜んだりはしなかった。
そのかわりに、強く握り締められた手を、ぎゅっと、握り返した。
そして、初めてユーキに少年のような笑顔を見せたときのように、
「そんなの、大歓迎」
と、言って、同じように笑った。
* * *
「あ、雪がまだ降ってる」
2人は外に出ると、真っ暗闇だったはずの世界が、雪に覆われて、白く、光っていた。
「どうする? やっぱり泊まっていく?」
「ううん。駅でタクシー拾うから」
駅はまっすぐ先に見えるほどの距離で、その短い間を、2人は惜しむように、ゆっくりと歩いた。
「ユーキさんって、ちゃんと休んでるの?」
「まぁ適度に」
本当は、今日で20連勤。そろそろオーナーに注意を受けるころだ。
「次の休みっていつ?」
「特に決まってないけど。でも近いうちに休み入れなきゃ」
「じゃあさ、明日、休める?」
「え?」
「俺、明日の午後はオフだからさ。けど、やっぱり突然は無理?」
明日は日曜日。会社が休みなこともあり、比較的、店も空いているほうだ。突然だけど、いつも休み返上で店に貢献しているのだから、少しくらいのワガママなら大丈夫だろう。
ユーキは一瞬で考えた。
「ううん。休みにする」
「本当?! じゃあ、仕事が終わったらそのままユーキさんの家に迎えに行くから」
「うん」
ゆっくり歩いても10分とかからなかった駅に着くと、ユーキはタクシーに乗り込んだ。
「じゃあね。今日はいろいろと・・・・・・その、ありがとう」
ユーキは照れたように言う。雪の中を歩いたせいか、頬が赤く染まっていて、その様子を朱葵はとても愛しく感じた。
「俺のほうこそ、ありがとう。じゃあまた明日ね、えっと・・・・・・ミキさん」
えっ、と声を上げたときには、タクシーは走り出していて、ユーキの驚きも、朱葵の照れも、お互いには見えていなかった。
だけど2人、それぞれの帰り道は、幸せを噛みしめていた。
ようやく結ばれた運命の糸は、これから強く、太く、なっていく。
ついにくっつきました!!
まだまだ引っ張ろうか悩んだんですが、これ以上いたちごっこを続けても・・・・・・とさんざん悩んだ結果、こうなりました。
物語も3分の1くらいは進んだんじゃないでしょうか。
これからもどうぞよろしくお願いします。