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27 ユーキの願い

次回は1月8日の夜に更新です。

 午前4時。暖冬のせいか雪こそ降っていないが、明け方の陽が見えないこの時間はとても寒い。

 それを見越して、キャバ嬢たちは普段の薄いドレスとはかけ離れた防寒重視の服を着ている。

 ユーキも、細身のストレートデニムに黒のニット、その上にベージュのダウンを羽織っていた。

 ユーキがキャバ嬢たちの前でこんな格好をするのは、1年に1度、このときだけだ。

 4人ずつタクシーに乗って、ユーキたちは明治神宮に向かった。

「ユーキさんって、そんなラフな格好もするんですね」

 と、入店したばかりのキャバ嬢が言う。

「あたしだって、休みの日までドレスなんて疲れちゃうわよ」

 普段のユーキは、女の子らしい格好もするが、今日のようにシンプルな服装も多い。どんな服を着てもお洒落に見えてしまうのは、ユーキの華やかさのひとつだ。

「あたし、ユーキさんってもっと恐い人なのかと思ってました」

「えぇ?!」

 ユーキは意外そうに笑う。

「前勤めてたとこ、池袋なんですけど、ユーキさんのことすごい聞いてて。それで勝手に、きっと自信に溢れてて周りにも厳しくて自己中な人なんだろうなぁって」

「確かに恐いわね、そんな人いたら」

「でも、実際のユーキさんは全然違ってて。あたし、ユーキさんが憧れなんです」

「ありがとう。嬉しい」

 ユーキはにっこりと笑って言った。


 ――嬉しくないの?


 どこからか、そう聞こえたような気がして、ユーキははっとした。

「どうしたんですか? ユーキさん」

 急に顔色が変わったユーキを、キャバ嬢たちが心配そうに覗き込む。

「あ・・・・・・ううん。なんでもない」

「お客さん。着きましたよ」

 運転手の声で、みんなの意識が神社へと移った。


 忘れたはずの、朱葵の声がした。


 初めて会ったときに言われた、2人を繋ぐ言葉が、聞こえた。




 


 本堂でのお参りの列で30分ほど並び、賽銭をすっと投げ入れて鐘を振った。

 そして、手を併せると、ゆっくりと目を閉じた。


 ――今年もいい年でありますように。そして・・・・・・。


 本堂からの帰り道。

「ユーキさんは、なんてお参りしたんですか?」

 と、尋ねられたユーキは、こう答えた。

「『今年もいい年でありますように』って。毎年これなの」

 

 

 神社の前でキャバ嬢たちはタクシーを待ったが、ユーキはそれには乗らず、駅へと歩いた。

 だんだんと色づいていくブルーの空を見上げながら、思い返していたのは、本堂で、自分が願ったこと。

 ユーキの願い。

 それは、朱葵に伝えられない、ユーキの本心。


 ――今年もいい年でありますように。そして・・・・・・幸せに、なりたい。


 


 


 雲の隙間から差し込んできた陽を眩しそうに受けながら、ユーキは、思った。

 

 賽銭で入れた1万円は、願いを叶えるのに、十分な金額だっただろうか。

 そして、お参りのあとにみんなで引いたおみくじの、「大吉」が示すものは?


 

 答えなんてきっと、誰にも分からない。


  

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