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24 素顔の告白

やっと1つの展開が迎えられました!!

まだまだ続くのでよろしくお願いします。


 案内された席には、ホストの姿をした朱葵が、座っていた。

「え?! 朱葵くん?!」

 ユーキは驚き、朱葵を見下ろしたまま立ち尽くしていた。

「ユーキさん、ヘルプはどうされますか?」

 そこへ、ボーイが声をかけてきたことで、ユーキははっとなった。

 「フルムーン」では、お客が1人でくる場合は、指名されたキャバ嬢だけがつくか、そこにヘルプが1人つくかである。特に新規のお客の場合は、ヘルプがつくことも多い。

「いいわ。ヘルプはいらない」

 ユーキはそう言ってボーイを下げると、朱葵の隣にゆっくりと、恐る恐る腰を下ろした。

「朱葵くん。その格好どうしたの?」

「そのままで来たらさすがにばれるかなって、思ったから」

「なんでここに来たの?」

 ユーキがそう言うと、朱葵はユーキから視線を外し、考え込むようにして俯いた。

 そして、言った。

「今日、お礼を言えてなかったから」

「お礼?」

「来てくれて、ありがとう」

 朱葵は再びユーキを見た。

「そんな、お礼を言われることなんて、してないわ。それに、愛ちゃんのクリスマスプレゼントとして行っただけだもの」

 と、ユーキはそっけなく言った。

 けれど、心の中では、動揺していた。

 演技をしているときとはまた違った、真剣な眼差しをしていた朱葵に。


 ――演技の顔じゃない。これは、素の朱葵くんの、顔だ。


 ユーキはこれまでに何度か、素の朱葵の表情を見たことがある。

 少年のような顔で無邪気に笑う、普段のクールさを思わせない、素顔を。

 けれど、今目の前にいるのは、少年なんかではない。1人の男としての、素顔の朱葵だったのだ。

「朱葵くん、こんなところに来ちゃダメよ。業界関係者も多いのよ。誰かに気づかれてしまう前に、早く帰って」

 ユーキは動揺を隠すように、思いきり立ち上がると、朱葵の腕を引いて強引に立たせた。

 そのまま店の外へ連れ出すと、ピカピカ通りの前でタクシーを待った。

「ちょっと待って。すぐにタクシー通ると思うから」

 しかし、タクシーはなかなか思い通りにつかまらない。

 さっきから何台も通り過ぎてはいくのだが、「空車」のランプが見えないのだ。


 ――そうだった。今日はクリスマスか。


 クリスマスが稼ぎ時なのは、タクシーも同じだった。

「朱葵くん、もうちょっと待っててくれる?」

「ユーキさん」

 朱葵はユーキの言葉を遮るようにして、呼びかけた。

「俺がなんでここまでおとなしく連れてこられたか、分かる?」

 ユーキは言葉を詰まらせる。

 分からなかった。その行動の意味することが。朱葵の、心の中が。

「ユーキさんと、2人きりになりたかったからだよ」

 朱葵の眼差しを、ユーキは一心に受けていた。

 動揺も、なかった。

 ただ、瞳を、朱葵から離すことができずに、見つめていた。

「こんなにも誰かで心が埋めつくされたことなんてなかったから、ずっと、分からなかったけど」

 肌を刺すような冷たい風は、2人を避けるみたいにして。

 お互いの存在だけを感じられる空間が、そこにあった。

「俺は、ユーキさんが、好きなんだ」


 


 2人の心の中に流れていた穏やかな風が、いま、びゅうっと轟音を乗せて強く吹き荒れた。


 まるで、これから始まる2人の運命を、示唆しているかのように。




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