表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/172

23 衝動

次回はいよいよ話が盛り上がる予定です!!


「あれ、ユーキさんと愛ちゃんは?」

 撮影がひと段落して戻ってきた朱葵は、いつの間にか片付けられていた椅子に気づいた。

「仕事があるからって帰ったよ。ありがとうって伝えてくれって」

「そうなんだ」

 朱葵が少しだけ表情を落として言ったのを、東堂は見逃さなかった。

「おまえ、あんまりのめり込むなよ」

 と、忠告する。

 朱葵は、東堂の真剣な眼差しに、思わず息を呑んだ。

 

 ――気づかれている?


 朱葵は、2人の関係が疑われているのではないかという不安に襲われていた。

「キャバクラ嬢なんだろ? お前はクールさを売りにしているんだから、キャバクラに通っているなんて噂が立ったら、とんでもないことになるんだぞ」

 東堂はさらに釘を差す。

 これからの可能性も、今潰しておこうと考えたのだ。

「分かってるよ。キャバクラにはドラマの役作りのために一度行っただけ。もう行かない。それでいいんだろ」

 と、朱葵は言い放つ。

 とりあえず今はまだ、東堂は2人を疑ってはいない。

 そう気づいた朱葵は、“店に行かなければいい”と、考えていた。

「あぁ、それでいい。彼女も、おまえが店に来ない限り会うこともないって言ってたしな」


 ――え?


 朱葵は、言葉が出なかった。

 もう行かない、と言ったのも、店に行かなければいい、と考えたのも、ユーキの家を訪れればいくらでも会えると思っていたからだ。

 けれど、ユーキはそれさえ考えていなかった。あくまで、朱葵を“お客”としてしか見ていない、ということだった。


 このとき、朱葵の中で、何かがはじけた。「パンッ」と、何かが潰れたような、もしくは割れたような、音がした。

 朱葵の中に眠っていたもうひとりの朱葵が、呼び覚まされたみたいに、心がはじけた。


 ――俺は、ユーキさんを、どう思っている?


 問いかける。目覚めたばかりの、自分に。

 演技をしながら。

 監督の指示を受けながら。

 東堂と会話しながら。

 そして、午後11時。撮影が終了してすぐに、一向に返ってこない答えを求めて、衝動的に走り出しながら。

「おい、朱葵!! どこへ行くんだ?!」

 そんな東堂の制止も聞かずに、朱葵は、走った。

 

 ――ユーキさんに、会いたい。


 そこに答えがあるのだと、信じて。



 *  *  *



 クリスマスの夜はまだまだこれからだ。

 午後7時。ユーキはいつもより早い時間に出勤した。

 クリスマスの今日は、ピカピカ通りに施されたイルミネーションにも勝るほど、「フルムーン」はネオンを華やかに着飾っている。

「いらっしゃいませ、河野様」

 ユーキのお客はあとを絶えずにやって来た。

「はい、ユーキちゃん。クリスマスプレゼント」

「ありがとうございます」

 ユーキはにこやかに見ている河野の目の前で、包みを開けた。

「わぁ、フランクミューラーの時計じゃないですか」

「すごい!! さすがユーキさん」

 ヘルプについた2人が、先に声を上げた。

「こら。すごいのは私じゃなくて、河野様でしょ」

 と、ユーキは言う。

 その言葉に、2人ははっとして、言った。

「そうでした!! さすが河野様です」

「次期会社社長なだけあります!!」

 この仕事では、まずお客を立てることが第一である。

 しかし2人は、ユーキへの憧れが強いあまりに、ついユーキを褒めてしまったのだった。

 そのせいで、そこの空間に、少しだけ不穏な空気が流れた。

「でも、そんな素晴らしい河野様にプレゼントを頂けるなんて、2人の言うとおり、私ってすごいわね」

 と、ユーキが言うと、

「ははは。そうだ、俺から貰えるユーキちゃんはすごいな」

 と、河野が笑った。

 そしてユーキは、なんとか河野の機嫌を損ねることなく、見送ったのだった。


 そのあとは問題なく、ユーキは常連客からシャンパンやプレゼントをいくつも貰っていった。

 



 


 午後12時、10分前。もうすぐクリスマスが終わる時間になっていた。

 けれど、夜が更けていくにつれて賑わいを見せていく「フルムーン」には、12時を過ぎても、「メリークリスマス!!」という声が絶えないのだろう。

 ユーキは、お客を見送ったあと、少しだけ時間が空いたので、化粧室で急いでメイクを直した。

 そのあとフロアに戻ると、「ユーキさんに新規のお客様が来られています」とボーイに告げられ、席へと案内されていった。


 ――クリスマスに新規のお客様なんて、珍しいな。


 そんなことを思いながら。


「お待たせしました。ユーキです」

 顔を上げると、確かに見覚えのある顔で、そこにいたのは。

 忘れることのできない“彼”だった。


 

 ホスト朱葵、復活。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ