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樹と有紗5 〈完〉

次回はあとがきになります。

書ききれなかった他の登場人物たちの「その後」と、ひとりひとりに考えていた設定などの裏話を書こうかなと。

あと、ユーキと朱葵の「その後」をコメディタッチで書いたものも一緒に掲載したいと思います。

そして!!ようやく「たと愛」は次回で完結します!!

最後まで楽しんでもらえるように頑張ります。

 午前0時をまわったころ、樹は「トワイライト」に戻った。有紗はもういなくなっていて、ユウタは指名客の相手をしていた。

「オーナー。さっき有紗さんが・・・・・・」

「悪い、ちょっとひとりにしてくれ」

 樹はボーイの言葉を遮って、上着を脱ぎながらバックルームへと向かった。

 誰とも話をしたくない。自分を輝かせ続けてきたこの夜の街も、華やかなフロアも、今はただ、鬱陶しく思えるものばかり。


 ――何だか、疲れた。


 今、マンションに戻れたら、ベッドに倒れ込んで、何時間も眠ることができるだろう。普段は眠ることなんてどうでもいいほど、仕事に時間を費やしているというのに。

 けれどそれは、できない。自覚がある。自分はこの店のオーナーだ、という、覚悟が。




 2年前、前オーナーに「店を任せたい」と言われたとき、樹は、迷っていた。不動の地位を手に入れた自分。本当に欲しいものは何だっただろうか、と、考える。やむを得ず、夜の世界に踏み込まなければならなかったユーキ。自分はそれと違う。自ら飛び込んで、頂点を目指そうと、決めたのだ。だけどその先にあるものを、樹はその頃まだ、知らなかった。

 オーナーになったら、「トワイライト」をかけて競争し、守らなければならない。それは後ろ盾の何もない自分ひとりを生かすことより、難しい。

 そんなとき、ユーキとともに稜に会いに行って、誰かのために命を懸けることを知った。結姫も稜も、ユーキも、自分じゃない他の誰かのために、人生を懸けて、生きていた。

 樹はずっと、自分のためだけに生きていた。自分だけを信じて、自分だけを守ってきた。

 

 だけどこれからは、人の、店のための人生になるのも悪くないのかもしれない。

 だって3人とも、その人生を後悔していなかったから。


「俺は、ここで生きていく。今さら迷ってないさ」

 警察病院をあとにして、樹の心には、答えが見つかっていた。




 そして2年後の今。「トワイライト」の経営は、樹の力によって、歌舞伎町ナンバーワンを維持している。過去に樹の指名客だった女が、樹に会いたくて訪れる――なんてこともある。

 樹にとって、「トワイライト」が今の自分のすべて。自分の都合だけで、さっさと家に帰ることなど、できないのだ。


 ――何だ。俺はもう、とっくに結姫以外の何かを、大切に思っていたんじゃないか。


 樹はネクタイを緩めながら、ふっと、呆れたように笑った。

 

 結姫がすべてだと思い込んでいた自分が、やっと、真実を見つけられたような気がした。



 





「OWNER’S」に入るとそこには、有紗が待っていた。さっきボーイが伝えようとしたのは、このことだったらしい。「有紗さんが奥で待ってます」と。

「おかえりなさい。樹さん」

「有紗ちゃん、来てたの」

 樹はバサッと上着をソファに投げると、自分は奥のチェアに座った。有紗と向き合うつもりはない、と、いっているかのように。

「樹さん、さっきも一度来たって。でもすぐに出て行ったって、どこに行ってたんですか?」

 有紗の口調はいつになく厳しく、表情も、険しい。

「俺の勝手でしょ。有紗ちゃんにいちいち言わなきゃいけない? そんな関係じゃない」

 だって2人は、恋人同士ではない。それに――。

「それに、ユウタと楽しそうに話してたから、別にそこを邪魔する必要もないかと思って」

 何だって、胸がムカムカする。ユウタと話しているのを見つけたときと、同じ。胸の奥からこみ上げてくる感情は、投げやりな言葉とは裏腹に、有紗を抱きしめたくて仕方がない、と、言っている。

「ユウタはずっとユーキさんに憧れてたらしくて、樹さんを待ってて暇そうにしてたあたしから、話を聞きたかったって、言ってて。それで意気投合してただけです」

 そう言って有紗は、樹の前に立つ。

「樹さん。こんなにも傍にいるのに、あたしの気持ちを分かってくれないんですか? あたしはもうずっと、樹さんだけしか見えていないのに。樹さんに好きな人がいるのも知ってるあたしが、なんで何も聞かないか、分かりますか?」

 有紗の瞳から、ぽたっ、と、一筋の涙が流れる。

「恐いからです。樹さんがその人のことを話すのも、あたしがそれを知るのも。ううん、何も知らなくても、あたしは毎日、恐かった。いつか樹さんが、その女性と結ばれるんじゃないかって。そうしたらあたしは、この気持ちをどうすればいいんだろうって。樹さんを好きなだけ、あたしは、辛いんです」

 有紗は思い詰めた顔をして、くるっと、樹に背を向けた。そのまま走り出してガラス扉に手を掛けたのを、樹が呼び止める。

「有紗ちゃん!!」

 樹が立ち上がると、チェアが反動でギシギシ揺れた。小さく小刻みになった音が止むのを待って、樹は、言った。

「今、有紗ちゃんが出て行っても、俺は、追いかけない。俺は君のために何かしたいと思わないし、これからだって、気持ちは変わらないかもしれない」

 有紗はまだ、ガラス扉に手の平をついたままだった。

「だけど、今まで通り、君が、俺を追いかけてくれるのなら、俺も、変わるかもしれない。少しだけ君のこと、大切に思い始めてるんだ。このまま俺の傍にいてくれたら、いつか、俺は君のために生きたいと、そう、思う日がくるかもしれない」

 待っててほしい、とは、言えない。だってまだ、確かな気持ちではない。自分の人生はまだ、有紗との未来に確信を持つことは、できない。

「ユウタに嫉妬するほど、独占欲が強いのに、気持ちはこんなにも不確かで、愛してるなんて、とても言えない。だけど――」

 だけど、予感がする。この先も、2人は、一緒にいる。


 有紗はとうとうガラス扉から手を離すと、樹のもとへ駆け寄った。

「樹さん。嫉妬してたなんて、あたしはそれだけで、本当はもう充分。でももし、この先があるんなら、あたしは樹さんを追い続けます。だからいつか、あたしを愛してください」





 樹は、頷かなかった。

 

 かわりにいつもの余裕そうな笑みをして、有紗の気持ちに応えた。






何だか中途半端な感じではありますが、この2人の「その後」も次回書く予定です。

というか、樹には恋に走って欲しくなかったんです。結姫は別として・・・

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