153 ユーキと愛
パソコンぶっ壊れ騒動により、更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。
さて!!何話振りでしょうか?ようやくユーキの登場です。15話振りみたいです。作者も描きたくて仕方がなかった2年後の愛ちゃん。実はだいぶ大人になりました。そんな成長も踏まえて読んでいただけると嬉しいです。
夕方になって特別病棟のガラス扉が、キィ、と、音を立てた。
「愛ちゃん、そぉっとね」
「光姫ちゃんたら、毎週同じこと言うんだから。愛はもう6年生なんだからね」
呆れたように溜め息をつきながら、愛は扉をそうっと閉めた。
「お母さん、今日はどうかな?」
先週よりも笑顔になってるかな、と、愛は胸を弾ませる。
2年前、愛はユーキと一緒に、この町から電車で30分ほどのところにある街に移り住んだ。それは愛の望んだことで、なぜなら、“ママ”である結姫の近くにいたいからだった。
「友だちとバイバイするのはかなしいけど、アイは、ママのそばにいたい」
そして愛は転校し、今、小学6年生になっていた。
2人で病院を訪れるのは、毎週日曜日の日課だった。ユーキの都合で、夕方近くになってしまっても、愛はひとりで来ることをしない。それは、2人で来ると決めたからだ。
「早くママに会いたいけど、みきちゃんといっしょに来るの。だって、みきちゃんとそう、決めたんだもん」
お見舞いは患者の回復にも良いことだから、と、面会時間が遅くなってしまうことは、担当医が特別に許可してくれた。そのせいもあって、結姫は特別病棟の、一番奥の部屋に移ったのだった。
「あれ、光姫ちゃん。お花があるよ」
「え?」
結姫の隣で、花瓶から溢れるくらいに、我よ我よと咲いている色とりどりの花たちを、愛は指差した。
「誰かおみまいに来たの?」
「樹? ・・・・・・ううん、でも・・・・・・・」
樹はもうここへは来ない、気がする。2年前、稜の気持ちを知ったときから。結姫の、結姫と稜のために、樹は自分の気持ちを殺すだろう、と。
「樹じゃない、お姉ちゃんを知っている誰かが・・・・・・」
――もしかして・・・・・・。
決して有り得ないはずのことが、ユーキの頭の中をかすめ、飛んでいく。
「ううん。そんなこと、あるはずない」
――だって“彼”は、この場所を知らないじゃない。
それどころか、結姫が眠り続けていることも、もちろん、稜のことも。
知っているはずがない。
「ばかみたい。また・・・・・・」
「光姫ちゃん、どうしたの?」
ユーキは愛をそこに残して、ひとり、考え込んでいた。
「愛ちゃん、ごめんね。あたしったらまた、いつもの癖で」
いつもの癖で、朱葵かもしれないという期待を、してしまっていた。
2年前、別れて、離れて、ふっと、いつもと違う何かが起こる度に、してしまっていた期待。
――もしかして、朱葵くんが会いに来てくれたのかもしれない。
――もしかして、朱葵くんもそう思っているかもしれない。
――もしかして、彼はあたしを覚えているかもしれない。
もしかして・・・・・・。
朱葵はまだ、自分を好きなのかもしれない。
「ほんと、いっつも考えすぎちゃうんだから。だめね、あたし。いい加減大人なのに」
ユーキは髪をくしゃっと掻くと、目を閉じて、笑った。
「お父さんたち、じゃ、ないわよね。お姉ちゃんのこと、許してないんだから」
すべて放り出したまま、眠り続けている結姫を、両親は、許していない。もちろんそれは愛に対しても同じで、ユーキにも、結姫にぶつけられない感情を吐き出して、ここには、まだ一度も訪れたことがない。
「まあ、いっか。綺麗なお花はたくさんあっても困らないわ」
と、ユーキは持ってきた花束を、花瓶の横に並べた。当たり前のように、花瓶は、ひとつしかないのだった。
小さなサイドテーブルからだらん、と垂れた花は、結姫の頬をくすぐる。初夏の夕方、涼しくなった爽やかな風が、半分だけ開けた窓から入り込んで、花を揺らしている。花は軽やかに踊り、結姫の頬をくすぐっているすずらんの花房が、さわさわと肌を撫でる。
ピクン、と結姫の指先が動いたのに、2人は、気がつかなかった。
そのあと、ゆっくりと薄くまぶたを開いた結姫が、「ん・・・・・・」と声を漏らして、ユーキと愛は、気がつくのだった。
結姫が目を、覚ましていたことに。