149 電話
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルルルル
ガチャ
「朱葵か? どうした、こんな夜遅くに」
「東堂さん。俺、明日、いや、今日、休める?」
「は? 何言ってるんだ。無理に決まってるだろそんなの、急に」
「俺、今まで以上に仕事頑張るから。文句だって言わないし、辞めたいなんて、絶対に言わない。だから、今日だけお願い」
「・・・・・・今日、何があるんだ」
「・・・・・・仕事よりも、大切なこと」
「・・・・・・分かった。明日と明後日、2日間休みにしてやる」
「え?」
「そのかわり、必ず取り戻して来い。お前の一番大切なものを」
「・・・・・・うん。ありがとう、東堂さん」
ガチャ
ツー ツー ツー ツー ツー ・・・・・・
* * *
真夜中の、午前2時。ためしに、電話を掛けてみる。
「この電話番号は、現在使われておりません――」
いつから、か。2年間一度も掛けることのできなかった、ユーキに繋がる番号。一体、いつから、使われなくなったのだろうか。
2年前、別れた、すぐあと?
もしくは、最近、なのかもしれない。勘の良いユーキだから、朱葵がこうやって自分に電話を掛けてくることを、察知して。
それかもしかしたら、もっと、もっと、ずっと前。ユーキが京都に来たときには、すでに、携帯電話を解約していたのかも――。
「ユーキさん、潔すぎるよ」
朱葵はそう呟くと、溜め息とともに、小さな笑みを漏らした。携帯を閉じ、久しぶりに電源を切って、それを、リビングのテーブルの上に置く。
ユーキに繋がらない携帯を持っていく意味がない。
ユーキと会うのに、誰にも邪魔させられたくない。
樹に貰った、ユーキがいるかもしれない場所のメモと、財布、そして、言うべき言葉と、ずっと心にしまっておいた、言いたい言葉を、持って。
この夜が明けたら、ユーキに会いに行く。