表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/172

147 ユーキであって、ユーキでない

「それは直接、本人に言え。でもユーキはお前と付き合ってから、変わったと思う。ユーキは『ユーキ』であって、そうじゃなかった」

「そうであって、そうではない?」

 朱葵は、樹の言葉の意味が分からなかった。

「お前はユーキを、どんな女だと思う?」

「え?」

「初めて会ったときから今まで、お前の見てきたユーキは、どんな女だった?」

 朱葵は目を丸くさせる。


 ――どんな女か、なんて、考えたことなかった。


 初めから、ユーキは、ユーキだった。どうあるべきかを分かっていて、他人の期待を裏切らない。その完璧さの中に違和感を見つけたのは、偶然だった。都合良く、自分が演じる仕事をしていて、人を観察する癖があったからだ。

「気づいたのは俺だけ、って、ユーキさんは言ってたけど、でも樹さんは最初から、ユーキさんを理解していたんですよね。今だって、樹さんはユーキさんがどんなひとかを知っているのに、俺は――」

「お前は、いつまでそんなこと言ってるつもりだ?」

 樹は朱葵を遮り、言った。

「お前といるときのユーキなんて、俺は知らない。知ってるのは、お前とのことで悩んだり喜んだりしてる女。ユーキじゃない。あれは、光姫だ。ユーキの、本当の素顔」

「本当の・・・・・・」

 そう言って樹は、シャンパンを手に取った。トクトクトク、と、声を鳴らしながら、シャンパンはグラスに注がれる。まるで、樹から見たユーキのようだ。瓶に詰められたシャンパンは、空気と触れ合って、グラスに美しさを放つ。シュワシュワと、喜びながら。

「お前はユーキの空気だ。お前といると、ユーキはユーキでいられない。お前のことで一喜一憂する、ただの恋する女だった」

 朱葵のことで何かある度に、樹を頼ってきたユーキ。それは樹も初めて見る、ユーキの姿だった。


「見かけと違って夢見る少女ちゃんだもんな」


 かつて、そんな風にユーキを茶化したことがあった。そこで樹の指す夢見る少女とは、光姫のことだった。ユーキは、ユーキであって、ユーキではなかったのだ。

 そもそも、ユーキは朱葵と出会ったときから、光姫だった。朱葵に本性を見抜かれた日、樹のもとに泣きついてきた、あの夜から。

「いい加減、分かってやれ。ユーキがお前を、どう想ってたか。俺と自分を比べるな。俺は、同じ位置にだって立ってないんだ」

 朱葵はその言葉をじっと聞き入れ、噛みしめた。


 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ