132 別れは短く
考えてみたら、もうすぐ完結なんですね。あと10話もあれば、考えていたものすべてが書き切れるんじゃないかと思います。
「それ、どういうこと?」
「分からない?」
「分かるよ。でも・・・・・・」
ユーキの突然の別れに、朱葵は、対応できなかった。ユーキの言っている言葉の意味は分かる。だけど、なぜユーキがそれを言っているのかが、分からない。
「何で急にそんなこと言うの?」
と、朱葵は言った。
ユーキは再びベッドに腰を下ろすと、ふぅっと、溜め息を吐く。
「急なことじゃない。あたしはもう前から、そう考えてた」
「何で?」
ユーキは駄々をこねる小さな子供を見るように、呆れた顔をして、もうひとつ、息を吐いた。
「ねえ、本当に分からない? あたしが何でこんなことを言っているか、朱葵くんは、本当に何も分かってないの?」
駄目だ、と思っていても、言葉が勝手に飛び出してしまう。だって朱葵は、何も分かっていない。離れていた間のユーキの不安を、分かろうともしてくれない。
「え・・・・・・」
朱葵は、思わず考え込む。自分は何をしてしまったのか、記憶を手繰り寄せ、ひとつひとつ、解いていく。
「あ・・・・・・!!もしかして、真咲さんとのスキャンダルのこと?」
朱葵は、あるひとつの出来事に当たった。
それしかない、とさえ、思い込んでいる。
「そうね。そんなこともあった」
「も?」
まだあるのか、とでも言いたいような、妙に気の抜けた返事をする朱葵に、ユーキは諦めを感じた。これ以上話していても、朱葵はユーキの胸の苦しさを分かってはくれないし、どんな想いを抱えていて、また、この決断をするのがどんな辛いことなのか、きっと、理解できないだろう。
そう。別れに、時間は費やすべきではない。まだ、心のシーソーが傾いているうちに、話を終わらせるべきだ。
別れは短く、だけど、言うべきことは、言わなければならない。
それが、どれだけ残酷なものであったとしても。
ユーキは、感情的になりかけた気持ちを制すと、言った。
「ううん・・・・・・。もういいの」
「よくないよ。ねぇユーキさん、言ってくれなきゃ、分からない」
「そうね。でも、言わない」
「何で?」
だって、朱葵の幸せのために別れる、なんて、きっと朱葵は、許してくれない。
「・・・・・・朱葵くんは、あたしのこと、好き?」
と、ユーキは尋ねる。
「好きだよ。ユーキさんが、好きだ」
――じゃあ、あたしと仕事、どっちが大切?
という言葉は心の中で問いて、自分で答えを出した。
――朱葵くんは、仕事を大切にするべき。
「朱葵くんがそうでも、あたしは違う。あたしは、気持ちが変わってしまったの。離れてる間、あたしは、他の人の支えで生きてきた。朱葵くんじゃない、他の人の傍で」
ずっと、言おうと決めていた。
だけどそれを言ったら、すべてが終わってしまう。
だから、なかなか言葉にできなかったのだけど。
「朱葵くん。あたし、樹と結婚することにしたの」
と、ユーキは、言った。
展開は思いもよらぬ方向へ・・・・・・?