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118 有紗

 樹は駐車場から車を走らせて、ピカピカ通りで待つユーキの元へやって来た。

「ここであたしが見送るのも、もう最後ね」

 と、ユーキは笑う。

「俺がここに来るのも最後だな」

「あら、樹はこれからも『フルムーン』に遊びに来て。有紗ちゃんが待ってるわ」

 ユーキは堪えきれずに、ふふふ、と声を漏らして言った。

「やめてくれよ。ただでさえ困ってるんだ」

「有紗ちゃんは明日から『フルムーン』のナンバーワンよ。きっと、あたしよりも凄いキャバクラ嬢になるわ」

 


 *  *  *


 

 有紗が「フルムーン」に面接に来たときを、ユーキは、今でも覚えている。

 ちょうど1年前だった。開店前の午後5時。静かなフロアの端で、オーナーと3人の女の子はどこかぎこちない空気の中、向かい合っていた。

 ユーキはそれを知らずに、前の夜控え室に忘れてしまっていたブレスレットを取りに「フルムーン」へやって来た。午後6時に、そのブレスレットをプレゼントしてくれたお客と、食事の約束をしていたのだ。

 ユーキは控え室に入る前、ぼそぼそと話し声のするフロアに目をやった。オーナーの後ろ姿を見つけて、ユーキはフロアへと向かう。

「オーナー? 来るの早くない?」

 すると、オーナーは振り向き、俯き気味に座っていた女の子たちが、一斉にユーキを見た。

「あ、ごめんなさい。面接中?」

「ユーキ、どうした?」

「忘れ物したの」

 と、ユーキが引き返すところ、女の子の1人が立ち上がった。

「えっ、ユーキさんて、ナンバーワンのユーキさんですか?!」

 それを聞いたもう1人も、思わず声を上げる。

「えっ、“あの”?! うそ〜、噂通りめっちゃキレイなんやけど」

 緊張感が漂っていたフロアは、一瞬にして明るさを増す。

「フルムーンのユーキ」の噂を聞いていたらしい女の子たちは、ユーキを見てきゃあきゃあと騒いでいる。ブレスレットをつけてそのまま待ち合わせ場所に向かおうとしていたユーキは、すでに夜の華やかさを身に纏い、完璧な格好だったのだ。

「あはは。“あの”って、どの?」

 ユーキが笑いながら問いかけるのを、女の子たちは「え」「あ」と漏らすばかりで、目の前にユーキがいることに驚いていた。

 その中でただ1人、事の展開についていけずに座り込んでいた女の子。それが、有紗だった。

「おいユーキ。せっかくだから自己紹介しとけ。3人とも明日から来てもらうことにしたから」

 控え室から戻ったユーキを、オーナーは呼び止めた。

「うちのナンバーワンのユーキ。うちはトップの子たちが新人指導するんだけど、3人のうち誰かもユーキが直接指導するから」

「よろしくね」

 ユーキが握手を求めると、女の子たちは両手でユーキの手を包み込むようにして、喜んで店をあとにした。

 3人目、有紗は、ユーキが差し出した手をじっと見つめたかと思うと、ぱっと、顔を上げた。

「あ、あの・・・・・・」

「ん?」

 有紗は恐る恐る手を伸ばし、言った。

「ユーキさん、あたしの指導をしてください」


 そしてユーキが自らオーナーに言って、有紗の指導をすることになったのだけれど――。



 *  *  *



「理由は聞いたことないんだけどね、有紗ちゃん、自分からこの世界に入ってきたのよ。あたしや樹が思ってるよりも、ずっと強い子だと思うわ」

「だから恐いんだよ。俺がここに来なくても、向こうから俺のトコに来るんだから」

「そういえばあたし、有紗ちゃんに『樹の片想いだから頑張って』って、言っちゃったのよね」

 樹は不満そうに声を上げ、「もういい」と、力なく手を振った。

「じゃあ、あたしの『お願い』、よろしくね」

「ああ。稜のところは明日――。あと、朱葵のことは・・・・・・」

 車の窓枠に肘をかけて、樹は、言った。

「ユーキ。本当に、それでいいのか? 俺は結姫の分も、お前に幸せになってほしい。お前がそれで幸せになるんなら、俺はお前の『お願い』も聞くよ。だけど、」

「樹」

 今まで交わした会話がすべて場違いだったかのように思えるほど、冷たくて鋭い口調で、ユーキは樹を遮る。

「あたしはもう、それに向かって動き出してるの」


 


 車の中と外。2人の空気は今、少しだけ温度が下がっている。

 だけど遠目から見れば、それは恋人同士の話し合いに見える。

 

 ピカピカ通りにもうひとつ、人影が浮かぶ。ユーキに会いに、ユリが「フルムーン」へ向かっていたのだ。

 遠くから、ユリは、2人の姿を見つけていた。




 

あれ、過去を振り返ってます(汗)

これで最後ですから!!

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