115 夢
明日も2回更新になります。
分かりにくい回が続きますが、いずれユーキが朱葵に別れを告げるところで、この部分はちゃんと書きたいと思っています。
「朱葵くんとは別れる。それでいいわ。あたしには、それしかできない」
と、ユーキは言った。
「別れる必要があるのか?」
「え?」
樹は、強い眼差しでユーキを見る。
「別れるなんて判断、俺には理解できないけどな。あいつがそれを望むとは限らないし」
朱葵は、ユーキのことが好きじゃなくなったわけじゃない。ただ、他に大切なものを見つけてしまっただけだ、と、樹は言った。
けれどユーキは、首を小さく振って、言う。
「ううん。あたしは、自分のために別れるの」
ユーキは、ゆっくりと瞬きをする。それは、目を閉じて、すべてを忘れようとしているみたいにも見えた。
「ねぇ樹? あたし・・・・・・。あたしは、医者になりたかった。医大に入って、一生懸命勉強してたわ。あたしの一番大切なものは、『夢』だった」
理由は分からない。だけど、ずっと、医者になることだけを夢見ていた。それが辛いと感じたことは、ない。
「だけどあたしは夢を捨てて、お姉ちゃんのために復讐するって決めたの。そのときあたしは、一番大切なものを、自分から、放してしまった」
――過去を恨んでなんかいない。だけど、できることなら、夢を追い続けていたかった。
「だから朱葵くんには、今のまま、頑張ってほしい。あたしの分まで、っていうわけじゃないけど、そう願ってる」
ユーキは最後に、「あたしはあたしの願いを叶えるために別れるのよ」と、笑った。
* * *
午後11時を回って、ユーキは樹を外で見送っていた。
「ごめん。いろいろ聞いてもらって」
「今さらだろ」
ユーキはふふ、と笑みを零す。
ピカピカ通りは先月まで、満開の桜が咲いていた。出勤するころ、桜はライトアップされていて、ユーキはよく、朱葵が電話で言っていた「すごく綺麗な桜」を、思い浮かべていた。
5月。桜はとうに散って、枝がもの欲しそうに、風を受けていた。
「ねぇ、樹」
ユーキはそう呟いて、ピカピカ通りで歩みを止めた。
「どうした?」
樹は振り返り、ユーキに問う。
「お姉ちゃんは、元気?」
通りには車がなく、わずかに生き残った桜の葉が、静かに風に揺られていた。