114 ユーキの決断
何とも分かりにくい回でして・・・2つに分けることにしました。
ネタバレするので詳細はあとがきにて。
次回は夜に更新です。
樹はくっ、と唇を吊り上げて、言った。
「姉妹して馬鹿だよな」
笑っているのではない――ことは、ユーキにも分かっていた。樹は、呆れていた。守れなかった結姫と、守ってあげられないユーキ、そして、そんな姉妹を見守ることしかできない、自分に。
「あたし、お姉ちゃんと似てるところなんてひとつもないって思ってた」
ユーキは髪をくしゃっと撫でて、懐かしく昔を思い出す。
そう。いつだって、自分と姉は、違っていた。
「東京に行きたい」と、夢も行き先もないのに、親の反対を頑なに聞き入れず、勘当同然に家を飛び出した結姫。
「――になりたいから、大学に行く。願書も出した」と、地元の一流大学を受験し、夢に向かって正当な道を歩んでいた、ユーキ。
「初めて、あたしはお姉ちゃんと同じなんだって、思った。皮肉よね。それが、一番似たくなかったところなんて」
ユーキは過去を振り切るように、溜め息を吐き出す。
「結姫と同じ結末にいくのか? 裏切られて、死ぬ――。空しいだけだろ、そんなの」
「そんなこと、しないわ」
ありえない、といった様子で、ユーキは笑いながら、言った。
「あたしとお姉ちゃんは同じかもしれないけど、稜と朱葵くんは違うわ。朱葵くんは稜みたいに、あたしを弄んだりしていない。ちゃんと、本気で愛してくれたもの」
「じゃあ何で、朱葵にはユーキが必要じゃない?」
「演技があるからよ」
ユーキの目は、悲しくも事実を悟っているようだった。
「ひとりぼっちだった朱葵くんを救ったのは、演技だった。あたしと出会う前から、朱葵くんには演技があった。あたしと出会っても、朱葵くんには演技があった。あたしと離れても、朱葵くんには演技がある」
それが、今。あれだけ離れることを躊躇っていた朱葵が、ユーキの存在を忘れていることを、示している。
「あたしね、朱葵くんが、あたしよりも大切なものを見つけてしまったことを悲しんでるんじゃないのよ」
ユーキはもう、決めていた。自分がどうするべきなのか。
「離れる前に、約束したんだけど。『あたしはここで待ってる』って。でも、朱葵くんを待っているのは、演技だったのよね」
――朱葵くんを待つのは、あたしの役目じゃなかった。
「あたしにできることがひとつしかないなんて、悲しくて、情けないのよ」
「もう決めたのか」
ユーキはゆっくりと1回、瞬きをした。
朱葵とは、別れる。ユーキは、そう決めた。
【つけたし】
孤児だった朱葵にひとりで生きていける強さをくれたのは、演じるという仕事でした。ユーキと出会って、ユーキの大切さを知りましたが、今の朱葵は演技の深みに嵌ってしまったのです。
だけど、「朱葵には演技が一番大切」と思っているのは、あくまでユーキの考えです。
「ユーキと再会したとき、朱葵は一体どちらを選ぶのか」というのが、これからの焦点になってきます。
同時に稜の存在もありますし、結姫についてもまだ明らかにしていない部分が・・・!!
ユリも次回らへんに登場する予定です。