99 別れのために
第100話です!!
100話を迎えたと思ったら一気に106話まで進みますが、あらすじを挟んで次回は「100」から始めます。
あと少しになりましたがこれからもよろしくお願いします。
次の朝、愛は早々から友達の家に行くと出かけていった。春休みの宿題をとっくに済ませ、最近は遊んでばかりいるらしい。
「お姉ちゃん。愛ちゃんは優秀だね」
ユーキは写真たてを手に取り、ふっと笑みを零す。
昨日は、結局朱葵に電話を折り返すこともできず、出勤してからは携帯も開いていない。今の今まで、ユーキは、朱葵を避け続けている。
――朱葵くんは何も悪くないのに。
そんな罪悪感がユーキを襲って、それに太刀打ちできるものを持たないユーキは、酷く、憔悴しきっていた。
いつものようにベランダの窓を開放すると、空気が変わっているのを感じる。冬はもう終わりなのだ、と、ユーキは改めて言い聞かせた。
そういえば朱葵と出会ったのは冬だったことを、ユーキは思い出す。
12月の半ばに、常連客に連れてこられた朱葵。今思うと、あのころの朱葵は、周りを警戒していたような気がする。ユーキとは違って、それを隠そうとはせずに、むしろ、そのクールさを売りにして。
たった4か月。だけど、朱葵はずいぶん表情を変えた。テレビの中ではどうなのか、また芸能人として朱葵を見ている人からはどうなのか知らないけど、ユーキに向けられる顔は、柔らかくなった。
「あぁ、でも少年ぽさはあったかな」
思い出していくうちに、ユーキは楽しくなっていく。
あのころユーキはまだ愛を信じてはいなくて、それは、朱葵に対しても同じで。
ユーキにとって朱葵は、“違う世界の人間”だった。
決して交わることのない世界。でも、それを壊したのは、朱葵だった。
「俺は、ユーキさんが、好きなんだ」
そこからユーキが必死になって守っていたものが、少しずつ朱葵によって崩され、新たな世界が生まれたのだ。
“2人だけの世界”
お互いを引き離していたはずの肩書きが、まさかお互いを繋げるなんて、思いもせずに。
だけど、それはゆっくりと2人の距離を縮め、2人に「愛」という名の肩書きを与えたのだった。
「そうだ・・・・・・」
ユーキは、はっとする。
――周囲のことなんて、頭になかったじゃない。
朱葵を受け入れるまで、さんざん周囲を気にしていたユーキ。朱葵を愛し始めて、周囲を意識しなくなったことに気づく。
確か、自分でも言っていた。「こんなことで別れるくらいなら、初めから付き合ってやしないわ」と。
東堂に知られて反対されるなんて、分かっていた。一度信頼を得て、もう一度それが失われつつあるからといって、知られてしまったころに戻っただけだ。
――もう一度、信頼を得ればいいだけじゃない。
心の痞えが、サァーっと消えていくみたいだった。この晴れの空のように、鳥がすいすいと飛んでいられる気持ち良さが、ユーキに戻ってきた。
「朱葵くんに会いに行かなきゃ」
見送りに行かなければいけない。しばらく会えないというのに、最後に会わない必要なんてどこにもない。
「朱葵くん。お願いだから、電話に出て」
ユーキは携帯を手に取った。
だけど、着信履歴には、午後5時に一度着信があったあと、何も、残されていなかった。
メールさえ、1件も。