プロローグ
2009年12月現在、ケータイからのアクセスも多く頂いているため、読みやすいように行間をあけて加筆・修正をちょこちょこと行っています。途中から読みづらくなってしまうかもしれませんが、ご了承ください。
長い、長~い物語ですが、いくつもどんでん返しがあります!!
みなさまに楽しんでいただけますように…
夜の世界に踏みこむ決意をしたのは、20歳のときだった。
“私を見逃してください”
両親が寝静まった深夜、そんなようなことを殴り書いて、高校時代のアルバイトで残っていたわずかなお金を握り締めて、家を飛び出した。
公共機関はすべて運転が終わっていたから、私はひたすら走った。海沿いの国道を、時折通り過ぎるトラックのライトだけを頼りにして。
夜明けの瞬間は、浜辺に立って海をじっと眺めていた。水平線に真丸い姿が半分映し出されたときは、海の中に潜ってあと半分沈んでいるはずの太陽を覗こうと、無意識のうちに海に近づいていた。
あの夜明けは、私が今まで見てきた中で、一番綺麗なものだったと思う。
そのあとに都会の機械的な光を見ると、なお。
陽が昇りきったころ、ようやく目指した街に着いて、ビジネスホテルにチェックインした。
パンパンに腫れた腿をシャワーでザッと温めて、揉みほぐしたあと、ベッドに倒れ込んだ。そのまま眠りに落ちて、夢の中で、私は両親を想っていた。
きっと今ごろには私の書き残したメッセージを読んで、2人、考えている。
――なぜ出て行ってしまったのか。
そしてある結論に達して、「とりあえず好きにさせてみよう」と父が言うと、母は涙を流しながら、私の身を案じているのだろう。
目が覚めたのは、鳴り響くサイレンの音が不快に耳に届いたからだった。パトカーか救急車か消防車か、どれか分からない。どれも当てはまるような街なのだ。
電気をつけていなくても部屋が明るいのは、無数に光るネオンのせいだ。
ホテルの8階から窓の外を眺めると、思わずカーテンを閉めてしまいたくなる。あの夜明けの瞬間を見てしまったあとに、この機械的な光を目に焼き付けるのは、とても嫌だ。
だけど、カーテンを掴んだところで、思い直して力を緩める。
――私はこれから毎日、この光を浴びて、生きていくんだ。
唇をきゅっと結んで、私は見下ろしていた。
ネオンに吸い込まれていく人々に、明日からの自分の姿を投影させて。