あのね
「大丈夫だって」
そういって彼は私じゃないアノコの肩をたたく。本当に付き合ってるっていえるのでしょうか?
彼、マサくん。
私、ミナミ。
付き合い始めて一年。関係は変わらぬまま。
好きなのに。
話しかけられない。マサくんが遠い……。
「ミーナミ」
「わぁ、びっくりしたっ」
私の親友トモちゃんが後ろから抱きついてきた。
「何? なぁに? 悩み中? トモ様に言ってごらん?」
トモちゃんにそう言われても私は首を振るだけ。トモちゃんにもマサくんと付き合っているだろうことは言ってない。
マサくん、みんなに知られるの嫌がっていたから、だから……。
私はマサくんに嫌われるのが一番コワイ。
「やっだぁー! マサくんってばぁ」
そんな声が聞こえて、それでも、我慢する。下向いて、我慢する。
マサくんって呼ぶのは私だけがいいって、そんなのワガママかなぁ……。もう、ムリなのかなぁ……。
一年目の記念日の今日、私はマサくんをメールで呼び出した。
「放課後、教室で待ってます。来てください」
放課後、結局マサくんは教室に来なかった……。
泣きはらした目を隠すように化粧は濃くなった。
「あれ? ミナミ、泣いた?」
「昨日、映画みたらね」
トモちゃん、嘘ついてごめんね。
心の中で謝りながら、私はマサくんを見ないようにした。
声も聞きたくなかった。
「マサー? 昨日楽しかったね?」
そんな言葉が、ただ悲しかった。涙がまだ出てくる。
「え? ミナミ?」
「ごめんね」
夢、だったのかなぁ。好きですって言って、じゃあ付き合う? って言われたの。
初めての彼氏でわからなくなったの。
全部、夢、だったのかなぁ。ただね。あのね……。好きなだけなんです。
「何で泣いてんの?」
マサくんの声が聞こえるのも都合いい、夢? それでも、いいから……。溢れる気持ちをどうにかしたかった。
「マサくん、あのね……」
私ってマサくんの何かなぁ?
あのね……。
「マサくんのこと、好きだよ」
でも、ね。
「やめるから」
気にしないで、ね。
嗚咽混じりの声がマサくんに伝わるかわからない。ただ、少し、楽になった。
あのね……。言いたいことも伝えたいこともいっぱいあるの。
あのね。
「バイバイしよう?」
別れを告げるのが苦しいよ。
「ぜってぇにヤダ」
マサくんの声が聞こえるのも都合いいな。幻聴?
「ミナミがやっとワガママ言ったら別れよう? そんなん、拒否に決まってるだろ?」
マサくんがそっと頭をなでる。
「ごめん。ミナミ。大事すぎてどうすればいいかわからん。でもな、離せん」
マサくんの言葉に私はわからなくなる。どうすればいいんだろう。
「俺はミナミが好きだ」
初めて、マサくんから聞いた気がする。
「私も……!」
マサくんが好きだよ。
あのね……、これからいっぱい、思い出作ろうか?
End
(何で昨日来なかったの?)
(昨日?)
(メール……見てない?)
(え? 送ってる?)
ミナミ携帯を開いた。
(あ、未送信だった……)
勢いだけで書いた作品の一つです。
もう! マサくん!! って書きながらいらいらしていました(笑)
ここまで読んでくださってありがとうございました!
芽実