1.始まりの歌
新しいのは何もないけれど
別れて離れて戻っただけで
それでも進んだ時間を見れば
始まりと言って間違いはなくて
ゆりかごの中で
すやすやと夢を見ていた頃
鳥籠の中でまどろんでいた
今
ゆりかごから放り出され
鳥籠が新調された
嫌だと叫ぶ暇も
駄々をこねすがりつく場所も
圧倒的な時間の前に消え去る
私は立って歩くことを望まれ
立って歩くことを強制される
始まりは痛みをともなってやってきた
希望ではなく恐怖を連れてきた
それでも
それでも
それでも
人はあらがえない
時間にはあらがえない
だから
だから
だから
始まりはやってくる
終わりの後に
「よし!」
パタンと帳面を閉じる。と、同時に上げられた面はきらきらと満足そうな輝きに満ちていた。
「行くかい?」
古そうに見える色合いのバヴェラを抱えて、リヨの相棒シラは尋ねた。
「うん!行こう!」
大きく首を縦に振ってリヨは立ち上がり、敷いていたねずみ色のマントを拾い上げた。
始まりなどは
続きの中の
付箋紙を付けた
ある一点でしかないのだと
終わりもまた
続きの中の
付箋紙が付けられた
ある一点の前でしかないのだと
言い訳の中に沈みたくて
それは許されることではなくて
今 もう一度快楽の中へ
しかし もう一度恐怖の中へ
いや すべては平穏のままに
始まっては終わり
終わっては始まる
繰り返される時間の中で
いくつ付箋を張り付けて
始まりと終わりを
迎えるのだろう
また 今 始まり
「どこまで行きましょうか?」
二十代後半くらいだろうか、モノクルを右目につけた学者風の青年が、よく似た風貌の青年に問いかける。
「そうですね~できれば~人の~」
「少ないところには行きません。」
雰囲気が全く違うもう一人の青年がのんびりと答えるが、学者風の青年が途中で遮り、あっさりと否定した。
「ええ~?どうして~?」
「自分の職業くらいわかっていますね?ライ。お金のない私たちがとれる選択肢は、ハザキかユウサなどの都市しかありません。この時期ならば、“生まれの宴”か“春永園”などがあるでしょうから、場所には事欠きませんし、容易に稼ぐことができるでしょう。」
「なんで~歌唄いなんかに~なっちゃったんだろう~?」
「算書礼武すべていやだと言って逃げ回らなければ、ならずにすんだかもしれませんよ?」
「かも~でしょ~?逃げ回らなくても~なったかもしれないって~いうことでしょ~?」
双子に見えるのに、どうしても学者風の青年が一回りほど違うように思えてしまう、そんなやり取りが続く。
「・・・・何度でも聞きますね?ライ、あなたは何の職に就きたかったんですか?」
「ええ~?ほんと~何度でもだね~。僕は~王様になりた~い」
「はぁ・・・・理由は働かなくていいから、ですか」
「そう~!!何度も聞けば~覚えるよね~」
もし、街道わきの小さな空き地にともる焚火の明かりに誘われて、彼らのほかに旅人がやってきたとしたら、ライの無知ぶりに大笑いすることだろう。しかし、この夜は新月。ましてや、まだ雪が降るかもしれないこの時期に宿に泊まることを選ばない旅人がいるわけもなく、ただただ、学者風の青年がため息だけをつき続けることしかなかった。
はじめまして、稲波 緑風です。
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