少しの過去と日常の一端
誰かが言っていた。
「水溜まりを覗いた事はあるかい?」
「雨が降った後に出来る水溜まりには秘密があるんだよ」
幼い頃の朧な記憶の中で。姿は曖昧なのに声だけが頭に響く。
いつまでも
いつまでも・・・
学校にずっといたい、と思うようになったのはいつからだろうか。
小6?・・・いやもうちょっと前からか?
親が僕の存在を無視するようになったのと同じタイミングだった。
妹が生まれた瞬間、親は僕を「無かったこと」にしようとした。
今まで優しくしてくれた人間がいきなり首に手をかけてきたらどう思う?
しかも、後からイケナイことをしたっておもってか、首にかけられた手を外し優しく頭を撫でながら
『痛くなかった?』
『冗談に決まってるでしょ』
って、笑いかけてきた。
あの時ばかりは寒気が止まらなかった。
それから後も何回かこんなことがあった。
受験生だっただけあってそれなりに勉強はしていた。そんな時にも。
後ろに重みを感じたと思ったら急にナイフを突き付けられ脅された。
二人掛かりで来られた日もあった。
いつまで続くのかわからない無限地獄。
いつまで・・・・
続くのか・・・・・
『嫌な夢・・・』
左腕が何かを掴もうと天井へ向けられた状態で起きた。眼からは一筋の涙。
かっこ悪すぎる。21にもなってこれか?
『何を掴みたかったんだよ?』
掴まる物なんてないのに-
そう心の中で呟く。
『・・はぁ。まだ7時半。』
時計をみやり溜息一つ。
体を起こすのがとてつもなく重い。
大学に行くまではまだ時間がある。
比較的近いので、そこまで時間はかからない。
『それにしても起きるのが早すぎた』
する事がないため部屋を見回す。
物がそれ程置かれていないため殺風景である。
今住んでいるのは、アパートだ。
早く親元を離れたいがためにバイトをして借りた部屋。
大学友達との二人住まいだ。
一人暮らしをしたいと思ってはいたものの、なかなか家賃が高く願望は叶わずじまいだった。
そんなときに見つけたのがこの部屋。普通のアパートよりも少し部屋が広い二人暮らし用。
家賃はまあ、それなりにするのだが同じ大学の友達もそこを希望していたらしく
『ならば家賃割り勘』
という条件で一緒に住んでいる。
「・・・あれ?そういや龍夜は?」
いつもなら俺が起きる頃には不機嫌気味にのっそりおきてくる筈の同居人。
本人曰く、オレの目覚ましの音はあいつの目覚ましでもあるらしい。
それが鳴ると目が覚める上に二度寝ができないとか。
「あいつのバイトいつだっけ?」
カレンダーに目を向け思考していると、ちょうど龍夜から電話がきた。
「龍夜」
『・・起こしたか?』
寝起きの暗い声で答えたからか、龍夜には機嫌が悪いととられたらしい。
「お前じゃあるまいし。ところで今日バイトだっけ?」
『・・・いや、ホントは明日だけど朝電話があって急遽入ることになった。』
「そうか、どうりでいないわけだ。」
『あぁ、悪ぃな。言おうかとも思ったんだが、起こしちゃまずいかなって。お前昨日も遅かったし。』
いつもは頼りなさげだがこういうときこいつは鋭い。
「・・・全然。オレも助かったよ。眠くて眠くて。」
『はははっ。のわりには起きるの早かったな!まだ寝てると思ってたのに。』
「寝てると思って電話なんかかけてくるか?普通。」
『まあそういうなって。そんでさ、頼みがあんだけど。』
「頼み?オレに?」
『あぁ。いまから来れるか?』
「・・・いけるけど。」
『そんじゃまたかけるから仕度しといてくれ。』
何をするのかもわからないまま引き受けてしまった同居人からの頼み事。
これが後々にオレに大きな影響を与えることになる。
前々から思ってたけど、
オレは人が良過ぎるんだ。どうも。