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騎士と宮殿


 いつも通りの昼下がり、ーー店の外が騒がしい。

 すると常連のおじさんが駆け込んできて、息を切らせる。


「おい、女将さんっ! はぁ、はぁ」

「どうしたんだい、そんな慌てて」

「みっ、店の、外にっ、馬車が停まってんだよ!」

「馬車ァ?」

「ただの馬車じゃねえ! ありゃあ、王様んとこのだ!」

「えっ⁉︎」


 驚きの声を上げたのは女将さんだった。


「アンタ、こんな早い時間からもう泥酔かい? 幻でも見たんだろ?」

「見間違えじゃねえよ! 見間違うもんか! 酔いも醒めちまった!」


 その時、騎士のような格好をした精悍な男性が入り口で壁をノックする。


「失礼。ここがクリームブリュレを作る店で合っているだろうか?」


 業務のような堅い態度でニコリとも笑わず問いかけられ、女将は思わず頷く。


「ここの女将が作っているのか?」

「い、いえ。あたしじゃなくて、あの子だけど……」


 女将はそう言って私を指さす。騎士の男は上から下まで私を見てきて、外へと促した。


「尊きお方がご所望だ。宮殿にご同行願えるか」


 有無を言わさない声である。

 視線を女将さんに向けると、青冷めた顔で必死に首を縦に振っているので、大人しく同行することにした。


 この男性は「宮殿」と言っていた。でも、なぜ私が宮殿に?


 馬車の中で二人きりだが特に会話もなくシンとしている。

 気分はパトカーで連行される犯人だ。何も悪いことはしていないけど。


 ふと窓の外を見てみる。


 いつもは酒場と市場の往復だけなので、遠出をしたことがない。

 遠出と言っても王都の範囲内だが、酒場がある街は端っこの方なので、宮殿に近い地域を見たことがなかった。


 体感で何十分か馬車で走っていると、宮殿の正門に到着した。

 馬車の中からでも荘厳で壮大なつくりであることが分かり、ギョッとする。

 学生時代にフレンチの研修としてフランスへ行ったことがあるが、ヴェルサイユ宮殿に似ているな、と思った。


 騎士が門番に顔を見せるとすぐに正門が開き、また敷地内を馬車で走る。

 どんだけ広いんだ……と思いながら、静かに座っていると、正面の宮殿からどんどん離れていった。


「……あの」

「なんだ」

「どこに向かっているんですか?」

「離宮だ。王妃殿下がお待ちしている」


 ーー王妃。

 さっき言っていた「尊きお方」というのは、まさか王妃様だったのか。


 さらに十何分走ったところで、馬車がようやく停車した。

 正直言って、馬車の乗り心地は微妙だった。お尻が痛い。

 騎士が先に降りて手を差し出してくるので、少し感動を覚えながらエスコートされる。


 そうして案内された扉を開くと、

 椅子にゆったりと腰掛けた、絶世の美女がこちらに微笑みかけたのだった。


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