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【Side:聖女】食前酒と林檎ジュース


 まさに圧巻だった。

 VRゲームをやっているよりもリアルに広がる、目の前の情景に興奮すら覚える。


 これはいわゆる「謁見イベント」という最初に訪れるイベントだ。

 ここで聖女として謁見した後に、分岐コマンドが現れていた。


 ドキドキしながら謁見の広間で待っていると、まず第一王子のアレクシス・ド・ベルモン殿下と、第二王子のルシアン・ド・ベルモン殿下が現れた。


 まさにスチルイラストそのままの格好良さに、心の中で大興奮だ。

 発狂と言ってもいい。だって推し達が目の前にいるんだから。


 そんな第一王子と第二王子の側には、騎士団長の息子である、ギルバート・ヴォンフォール様が立っていた。


 それに続いて、宰相様やその息子のシリル・モンヴァル様が広間に入室し、その近くに侍る。


 ーーす、すごい! 攻略対象がこんな同時に拝めるなんて!

 ここに隣国の王太子、ノア・オーガス殿下がいれば完璧だったのにな〜。


 私はもうこの時点ですでに満足していた。


 しかし、この後に皆が拝礼し、ロアナディア王国の王と王妃が入室する。


 その顔が視界に入った瞬間、私は「げっ」と顔を顰めた。



 そりゃいるよね! この国の王妃様だもん!


 このゲームで、何度煮え湯を飲まされたか分からない元凶が目の前で、美しく微笑んでいる。 

 生で見ると怯んでしまうくらい煌めいていて美しい。


 でも、彼女はこの乙女ゲームにおける「悪役王妃」なのだ。

 頼むから今回の目指すエンドは、どうか邪魔をしないでください、と祈っていると、王と王妃の挨拶から始まった。


 それをボーッとしながら聞いていて、ふと思う。


 あれ? この謁見イベントって、王妃様だけだった気がするんだけど、王様っていたっけ?

 まあ正直このシーンはオートスキップしてたから記憶に自信はないんだけどさ。



「国王陛下、今回は謁見の時間を賜り、恐悦至極に存じます」


 マルセルさんが深々と礼をする。

 それに合わせて、私も遅れないように礼をした。


「こちらが件の、光と共に現れた聖女でございます。さあ、聖女様、国王陛下にご挨拶を」

「は、はいっ! お目に書かれて光栄に存じます、国王陛下。私は、高田陽菜乃と申します。名はヒナノ、姓はタカダです。以後お見知り置きくださいませ」


 事前に練習した台詞とカーテシーを遺憾無く披露できて、ひとまず安心する。

 ゲームで操作するのと、自分で実際にやるのとでは大違いだ。


「うむ。余は、レオン・オーギュスト・ド・ベルモンだ。面を上げてよい。堅苦しい挨拶は終わりにしよう」


 そう言って、レオン王および他の側近達も起立する。


「今日は、わずかばかりではあるが、歓迎の席を用意した。我が王妃お墨付きの料理人が、腕によりをかけて料理を作った。ぜひ食して行ってくれ」


 昼時であるため、事前に昼食は食べないように通達されていた。

 ちょうどお腹が減っていたから、私としては嬉しい。


 お城のご飯は美味しいといいな〜と思いながら、全員で庭園に移動する。


 このお庭もゲームでよく出てきたな。

 

 メインの宮殿は「ロレアノン宮殿」って呼ばれていて、ここはロレアノンの庭園。

 そして、王妃様のために建てられた離宮は「ロレーヌ離宮」と呼ばれ、ゲームのタイトルにもある「ロレーヌの庭」はここからついたらしい。


 庭園の眺めが良い場所に2つの長テーブルと人数分の椅子が用意されていた。


 そして均等に間隔をあけて、給仕をする男女の使用人が配置されている。

 神官の中には「庭で食事会など……」とブツブツ文句をいう声も聞こえた。


 王様と王妃様の座る席の隣には、いつの間にか1人の女性が静かに佇んでいる。


 その人を見て、思わず目を疑った。

 だって、どう見ても日本人だ。


 そのお姉さんも、私の視線に気付いたのか、目が合ってにっこりと笑う。



 ーーえ、待って。このゲームにあんなキャラはいない。モブだとしてもおかしい。

 もしかして……私以外の転移者がいる?


 そのことに気づいた途端、心臓がバクバクし始めた。

 もしあのお姉さんが本当に転移者で、私よりも前にこのゲームをスタートしているなら、このゲームはシナリオ狂ってる可能性ない?


 これから先のイベントが予見できなくなったら、すごく困る。

 どうにかして、あのお姉さんとお話しできないだろうか?


 そんな考えをよそに、全員の着席を見届けたお姉さんは挨拶をする。



「ーー皆様、改めまして、本日のランチを担当させていただきました、ヨーコと申します。本日の食前酒にはシャンパンを用意いたしました。」


 その言葉にテーブル席はざわつく。だって、シャンパンなんて置かれていないからだ。

 早速のミスだろうか? と周りの声が上がりそうになった時、お姉さんは2つのテーブルの真ん中に立つ。


 庭園についた時から気になっていた、布のかけられた謎の物体。


「お酒の苦手な方には林檎ソーダを用意しておりますので、後ほどお申し付けください」



 お姉さんは、その布を繊細な手つきで、そっと取り払った。


「えっ!」


 中から出てきたものに思わず声をあげる。



 だってそれはドラマやSNSでしか見たことのない「シャンパンタワー」だったからだ。



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