表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

なんとなくでいい、気がする

未来はちょっと、困ります ーー内定の日、知らない時代にいました。

作者: 春凪とおる
掲載日:2026/04/10



「……通った」


画面を見ながら、そう呟いた。


『内定のご連絡』


何度見ても、同じだった。


「……そっか」


少しだけ、息を吐く。

空を見上げる。


特に何も変わっていないのに、

少しだけ、世界が軽くなった気がした。


「……あやの、か」


名前を出して、少し笑う。

——そのとき、視界が揺れた。




気づいたら、知らない場所に立っていた。

石の道。見慣れない建物。


「……いや、今じゃないだろ」

ポケットのスマホを見る。


『内定のご連絡』


現実。

でも、

画面の反応が、少しだけおかしい。


「……古いの、俺のほうか」

「そうだね」


振り返ると、おばあちゃんがいた。


「それ、もう使えないよ」

「……規格が合ってない」


あっさり言う。


「……」


少しだけ引っかかる。

どこか、知っている感じ。


「困ってるんでしょ」

「……まあ」


「来るなら、来れば」

それだけ言って、歩き出す。




家は、静かだった。

生活感はあるのに、無駄がない。


テーブルの上のマグカップに、目が止まる。

白地に青い線。


「……あやの、こんなの使ってたな」

「似たようなの、昔、よくあったからね」


少しだけ間を置いて、


「……今は、あまり見ないけど」

「……」


違和感が、増える。




街に出る。


色も、人も、普通なのに、

どこか違う。


懐かしいのに、思い出せない匂い。


「……なんか、変ですね」

「そういうものだよ」




「迷ってるね」

同い年くらいの男に声をかけられる。


「選択肢が多い状態は非効率」

「……なんか違うんだよな」


「それは錯覚」

「……そうかもな」


少し笑う。


「でもさ」

「うん」


「その“違う感じ”、嫌いじゃない」

「非効率だね」




「……なんか、落とした気がするんですよね」

「何を」


「わからないですけど」

「じゃあ、探せばいい」




「帰れるよ」


おばあちゃんが言う。


「戻りたいならね」

「……」


街を見る。

整いすぎた世界。


「……」


でも、

ポケットのスマホに触れる。


古くて、遅くて、

でも、


「……」


自分の時間が入っている気がした。


「帰ります」

「そう」




「……なんか」


少し迷って、


「一緒にいると、落ち着きますね」

「……そう」


少しだけ、笑った。


「無駄、嫌いじゃなかったでしょ」




気づいたら、元の場所にいた。


ベンチ。空。


「……通った」


もう一度、呟く。


さっきとは少し違う意味で。

スマホを開く。

少し迷って、

閉じる。


新しい画面を開く。


「……まあ」


指を動かす。


「……よし」


送信する。

空を見上げる。


「……なんとかなるか」


少しだけ、笑う。




思い出せなかったけど、


たぶん、


間違ってなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ