未来はちょっと、困ります ーー内定の日、知らない時代にいました。
「……通った」
画面を見ながら、そう呟いた。
『内定のご連絡』
何度見ても、同じだった。
「……そっか」
少しだけ、息を吐く。
空を見上げる。
特に何も変わっていないのに、
少しだけ、世界が軽くなった気がした。
「……あやの、か」
名前を出して、少し笑う。
——そのとき、視界が揺れた。
気づいたら、知らない場所に立っていた。
石の道。見慣れない建物。
「……いや、今じゃないだろ」
ポケットのスマホを見る。
『内定のご連絡』
現実。
でも、
画面の反応が、少しだけおかしい。
「……古いの、俺のほうか」
「そうだね」
振り返ると、おばあちゃんがいた。
「それ、もう使えないよ」
「……規格が合ってない」
あっさり言う。
「……」
少しだけ引っかかる。
どこか、知っている感じ。
「困ってるんでしょ」
「……まあ」
「来るなら、来れば」
それだけ言って、歩き出す。
家は、静かだった。
生活感はあるのに、無駄がない。
テーブルの上のマグカップに、目が止まる。
白地に青い線。
「……あやの、こんなの使ってたな」
「似たようなの、昔、よくあったからね」
少しだけ間を置いて、
「……今は、あまり見ないけど」
「……」
違和感が、増える。
街に出る。
色も、人も、普通なのに、
どこか違う。
懐かしいのに、思い出せない匂い。
「……なんか、変ですね」
「そういうものだよ」
「迷ってるね」
同い年くらいの男に声をかけられる。
「選択肢が多い状態は非効率」
「……なんか違うんだよな」
「それは錯覚」
「……そうかもな」
少し笑う。
「でもさ」
「うん」
「その“違う感じ”、嫌いじゃない」
「非効率だね」
「……なんか、落とした気がするんですよね」
「何を」
「わからないですけど」
「じゃあ、探せばいい」
「帰れるよ」
おばあちゃんが言う。
「戻りたいならね」
「……」
街を見る。
整いすぎた世界。
「……」
でも、
ポケットのスマホに触れる。
古くて、遅くて、
でも、
「……」
自分の時間が入っている気がした。
「帰ります」
「そう」
「……なんか」
少し迷って、
「一緒にいると、落ち着きますね」
「……そう」
少しだけ、笑った。
「無駄、嫌いじゃなかったでしょ」
気づいたら、元の場所にいた。
ベンチ。空。
「……通った」
もう一度、呟く。
さっきとは少し違う意味で。
スマホを開く。
少し迷って、
閉じる。
新しい画面を開く。
「……まあ」
指を動かす。
「……よし」
送信する。
空を見上げる。
「……なんとかなるか」
少しだけ、笑う。
思い出せなかったけど、
たぶん、
間違ってなかった。




