50円!
期末テストの結果返却の日。
教室はいつもよりざわついていた。
先生が答案用紙の束を持って入ってきて、
「じゃあ、返却するぞ。名前呼ばれたら受け取りに来い」
英語から始まった。
「次、頑張ったな」
担任の先生から呼ばれた瞬間、胸がどくんと鳴った。
いつもなら、
答案用紙を受け取るのが嫌で嫌で仕方なかった。
すぐに点数を隠して、誰にも見せたくなくて、
机に伏せてやり過ごすだけだった。
でも今日は、違う。
先生が答案用紙を差し出す。
俺は立ち上がって、受け取る。
裏返しにされた紙の裏側に、赤ペンで書かれた点数が見えた。
81点。
「…………ヤバい」
思わず声が漏れた。
「まじか……俺が、英語で81?」
答案用紙をじっくり見る。
間違えたところも、ここ、もう少し考えればわかってたなって思うような問題だった。
隣の席の友達が、こっちを覗き込んでくる。
「翔太、何点よ?」
俺は答案用紙を隠さずに、笑いながら見せる。
「81」
「え、マジか!? すげー!」
「今回難しかったよなー……俺68点でさ」
「そうだな……点数良くて正直ビビったわ」
俺は照れくさくて、答案用紙を机に置いたまま、頰が熱くなるのを感じた。
次は数学。
数学の先生がまた名前を呼ぶ。
今度は、心臓が喉まで上がってきた。
英語のときは「できたかも」って思ってたけど、
数学は……本当にできたのか?
出来てないからじゃない。
「どこまでできたか」の緊張だった。
答案用紙を受け取る手が、微かに震える。
裏返しをゆっくりめくる。
赤ペンで大きく書かれた数字。
91点。
「……まじか」
一瞬、頭が真っ白になった。
「50円!まじか!」
思わず声に出してしまった。
教室の空気が、一瞬止まる。
周りの視線が俺に集まる。
「翔太50点かよー!」
誰かが笑いながら茶化す。
笑い声が広がる。
俺は慌てて答案用紙を掲げて、見せる。
「91だけど」
教室がどよめいた。
「え、マジで!?」
「翔太やべぇ!」
友達が笑いながら。
「50点って叫んだのなに?」
俺の肩を叩いてくる。
「すげーじゃん! 91点って……お前、最近勉強してたもんな?」
俺は答案用紙を握ったまま、笑うしかなかった。
「まあ……ちょっと、な」
心の中で、俺は呟いた。
(50円……見てたか?
91点だぞ……)
答案用紙を机に置いて、俺は財布に手を伸ばす。
小銭入れを開けて、50円を手に取る。
誰もいないところで、小声で話しかける。
「……50円」
返事はない。
でも、俺は知ってる。
この91点は、
あの「よしよし」の積み重ねだ。
俺は答案用紙を大事にカバンにしまって、
教室を出る。
帰り道、ポケットの中で50円が、ほんの少し温かくなった気がした。




