6話 初任務…?
「では、午前中最後の任務を霞に任せようと思う!」
「任務、ですか」
あの地獄のような場所から警視庁へと戻るとびしっ、と柔らかそうな椅子に座りながら私を指さしてくる蓬莱さん。任務という言葉はどこかのドラマのような言動で内心舞い上がってしまう。
異能力対策本部、なんて名前なのだから犯罪に関する任務なのは確定であり、私の能力を活用できると思えばワクワクしてしまう。
「捜査一課から書類を盗んで来い!」
「……ぬすむ、?」
「それ成功した事ないよねぇ…」
「俺はもう2度と行きたくない」
一応正義の組織のリーダーから"盗む"なんて言葉が聞こえてしまい理解が追いつかなかった。後ろの2人はため息をついたりしており、盗む行為を経験済みということが分かる。
理解が未だ追いつかない私に対して蓬莱さんはペラペラと話し続ける。額には少しの汗が見えて、自身の言動が良くない事は理解しているようだ。
「つまりだ!僕達と警察は仲が悪くて捜査協力や事件の共有をさせて貰えないから書類を盗まないと僕達の仕事はなくなる!!」
「な、っそんな事新人に任せないで下さいよ!」
「ダメだ。霞じゃないとダメなんだ」
思わず声を荒げてしまった私の手を握り真剣な眼差しで見つめられる。自分で言うのもなんだが、私はこの視線に弱い。この眼差しのせいでこの組織に入ることにしたし、今だって心が揺れてしまっている。
「まあ僕らは出禁になっちゃったしね〜」
「…はい?」
「まだ新人は出禁にされてないからな。実質お前しかできない」
「頼む、この通りだ!自分達で事件を探しても中々出会えなくて、このままではいずれ全員無職になってしまう〜!!!」
「な、なにしてるんですか!?出禁?無職?どんだけ崖っぷちなの!?よくそれであんな格好良く私の事誘えましたね!?」
「僕ら、見た目だけでも格好つけようって前の日に会議したんだ…」
「椎原さん自分で言ってて悲しくないんですか」
「すっごく悲しい!!」
「碧の素直さに免じて頼む!!」
「は?いや、私無理です!流石に捜査一課なんて、ぜっったい、無理です!」
ー
「なんだ?一般人が迷い込んでるぞ?」
目の前で広がる景色は警察ドラマで見たまんまの景色だった。電話をしながら駆け回っている警察官や、書類と見つめ合って犯人特定に繋がるヒントを得ようとしている警察官、全てが想像通りだった。
そして目の前にいる、このおじさんも想像通りだった。警察ドラマによくいる新人警察官を敵対視しておちょくったり、邪魔したりする嫌な感じのおじさんいるでしょ?それそれ。
「いや、えっと…」
「おい、誰か下に案内しろー!」
こんな騒々しい場面で「事件の概要書類下さい!」なんて言える訳もなくどもってしまう。このまま書類もなしに戻ろうかと思ったが、蓬莱さんや椎原さんの期待に満ちた眼差しが脳裏に思い浮かぶ。誰だって期待されて嫌な人はいない。実際私だって期待されて浮かれてこんなところにいる。ちょろい女だ。
だからって勇気が出る訳もなく通り過ぎる人に消え入るような声で話しかけては、無視される。そんな事を続けて数分、後ろから声をかけられ振り向く。
「迷っているのなら下に案内しま、………っ!?」
「え、あの…どうかしましたか?」
新人の方だろうか、若めの警察官は営業スマイルから一転、飛び出しそうなほど目を見張ってずっと私を見つめてくる。
数秒しか経っていないはずなのに数十分にも感じられる程の圧力で見つめられる。彼は固まったまま動かず、語彙力が失ってしまうくらい迫力があり怖い。本当の本当に怖い。
すると背後から黄色のオーラが現れ、周りに花が咲いたかのように満面の笑みを浮かべた。えっと、黄色は確か…
「ラキニちゃん!?」
「らき、…なんて?」
「異世界魔法少女スクールのラキニちゃん!!!自分、こんなラキニちゃんに似てる子初めてです!好きです、付き合ってください!!」
「え??…無理ですけど」
「そんなところもラキニちゃんに似てるなんて…すぅ、最高だ」
最悪だ。変な人に絡まれてしまった。
きっと黙っていればイケメンの部類に入るこの男性はこの短時間に何が起きたのか、いや私も何が起きたのか理解はし切れていないがきっとキャラ崩壊が起きている。
初めましてで告白をされるのは体験したことがなく、恋のドキドキというよりやはり恐怖のドキドキの方が勝っている。
異世界魔法少女スクール、という作品は聞いた事がある。漫画原作のアニメで事故で亡くなったOLが転生して魔法少女になる為に学園で友人と共に努力をしていく物語だ。話から察するにこの人はそのアニメが大好きで私とそのアニメキャラが似ていて興奮をしているんだと思う。
人間いざという時は冷静になれるものなんだと自分自身に感心した。
キラキラと輝く瞳。緩みまくった頬。溢れんばかりの黄色のオーラ。これを活用しようという考えが頭をよぎる。
こういうのは良くないのかもしれないけど、使えるものは使わないと…そうじゃないと手ぶらで帰ることになってしまう。
「あの、私アスラの人間なんですけど事件の書類が欲しくて…ダメですか?」
「…アスラって、流石に……」
ー
「貰えました」
「なんで!?」
渋られたかと思えば即答で良い返答を貰い、書類を渡してもらった。正直警察がこんなに甘くて良いのか不安になるが私は自分の任務を果たせたからヨシとしよう。
「誰から貰ったんだ?」
「えっと、竹田さん…だっけな」
「た、竹田!?僕あの人にブチギレられたのに!?」
「あの爽やか七三分け、女には甘いのか?」
「いや、竹田くんは誰にでも厳しいぞ。現役時代少し話した事があるんだが、普段からルールには厳格で先輩にもしっかり意見をしていた。…本当に竹田くんか?」
「まあ貰えたから良いじゃないですか!ほら、これです!」
本当にキャラ崩壊が起きていたらしく、そんな竹田さんに「アニメキャラに似てるって告白されて〜」なんて恥ずかしくて言える訳もなく話題を逸らす。
目の前の机にファイルに入った書類をぱしんっとたたき落とす。表紙には『連続強盗事件(イレギュラー関連)』と書かれており、3人の興味をしっかり逸らす事に成功して餌を貰った犬のように今は書類に夢中だ。
「久々の大仕事じゃないか!!」
「ふぉぉ〜!やっとまともな仕事だ〜!!」
「これが初めてのイレギュラー関連の事件だろ。新人がいるからって嘘をつくな」
「…はじめて、」
「…さて!事件をまとめるぞ〜!」
ため息をついた千桐さんが説明をしてくれ、軽蔑の意を込めて蓬莱さんをじっ、と見つめる。先程と同じように額に汗を浮かべて大慌てで話題を逸らした蓬莱さんに私もため息をついた。
警察との仲が悪く、書類も盗めなかった事から今までまともな事件に触れて来れなかったのだろう。そう思うと私はすごく役に立っているのでは、なんて自意識過剰にもなってしまう。
ホワイトボードが取り出され、蓬莱さんがサラサラと書き進めていく。流石元警察、綺麗な文字に分かりやすくまとめられている。インクの匂いが鼻についたが気にせず私は他の2人と同じように目の前にある椅子に座り、書き終わるのを待つ事にした。
「…っと。こんなもんだな」
待つ事数分ペンからでる高い音が止み、蓬莱さんが呟く。椎原さんと話していた私は真正面に向き直しホワイトボードを読んでみる。千桐さんの椅子は壊れ気味なのか、ギシギシと音が鳴っている。
事件概要、被害状況、容疑者候補、様々なことが小さな四角くのボードにまとめられている。犯罪が起きているのにこんな状況にワクワクしてしまう私はおかしいのか、それでも興奮は収まらなかった。
「4月8日、銀座のブランド店でネックレスが盗まれる。4月19日、表参道のブランド店でバッグ2点とブレスレット。5月1日、表参道の2回目とは異なるブランド店で指輪2点。犯人は防犯カメラに映っておらず、いつの間にか商品が消えている為イレギュラー関連として調査を進めている___ふむ、イレギュラーなのは確定だろうな」
「案外普通に能力者っているんですね…」
「うんうん、それねー。僕も隠して生きてきたから全然知らなかったんだけどみんな隠してるだけで普通にその辺にいるらしいよ」
「なるほど…」
「事件について分かったは良いものの……どうするか」
「調査するんですよね?」
「ああ、それはそうなんだが…そろそろお昼時だな。上に行こう、食べながら説明をする。少し視線が痛いがご飯は美味いから安心してくれ!」
その言葉に今朝の出来事を思い出す。あの異質な視線に不気味な雰囲気、怖気付くには十分な材料だった。さっきは平気だったのに何故か今は変に意識してしまって動けない。
「どうした?」
「…っあ、ごめんなさい!すぐ行きますっ」
「…警察が怖いなら隠れてれば良い。俺は慣れてるから」
背後にいた千桐さんに声をかけられ張り詰められていた緊張の糸が切れる。無理に笑ったせいでバレてしまい、慰めるような言葉に呆気に取られてしまう。
慰め慣れていないのか誤魔化すように目線を泳がす姿がイメージと違いすぎて悩みの種はどこかに行ってしまった。
「…っあはは、ありがとうございます」
「どうせ今日はあいつの奢りだからな。いっぱい食えよ」
ぽん、とつむじに微妙な暖かさが伝わる。呆気に取られてる私を他所に歩き出す千桐さんを必死に追いかけた。逮捕術の時はあんなに怖かったのに、今ではそんなイメージが払拭される。




