1話 能力発現!
「ようこそ!異能力対策本部-AsterLampo-通称アスラへ!」
クラッカーの音が響くと同時に火薬の匂いがツンと鼻をつく。目の前には一応主役の筈の私を置き去りにしケーキやらのご馳走を取り合いする男達の姿がある。
どうしてこんな事に___
私藍羽霞、大学卒業をしたばかりのピチピチの22歳!色んなな就職活動を経て念願のホワイト企業へと就職が決まり華やかなOL生活を送っていた、筈だった。
「ちょ、まっ、はあ?あははは!え?それで倒産?はははっなにそれ、ちょーうける!!」
「普通に笑い事じゃないんだけど」
「いやーごめんごめん。折角夢見てたOLになれたのに災難だね〜でも霞なら次の会社もすぐ決まるんじゃない?」
「いんやそれがさー、ほらこんな中途半端な時期じゃん?中途でも採用してくれる所がなくて暫くはバイト生活」
はあ、とため息をついて目の前にあるアイスコーヒーをストローで一気に飲み込む。以前の様な甘みが感じられず苦味だけが味覚を刺激した。
目の前で大笑いを披露していたこの子は佐々木夢希、大学時代からの友達だ。お互い同じゼミ出身で猫を被っていた時期が懐かしい。
今回は夢希からの連絡で集まり、現状を話せば気遣いは何処に消えたのか大笑いをして今は涙を拭ってる。今だけは猫を被って欲しかった。
「あーあ、夢希は大手のアパレルだもんね。潰れる事は無さそうで羨ましいわ」
「そんな羨まし方されたの初めてだわ。でもさ普通倒産しても他の所紹介してくれるんじゃないの?」
「ははー、そんなの新人社員の私には関係ないのだよ夢希くん」
「それは失礼仕った」
倒産すると連絡を受けた日から約1ヶ月。あの日はどれだけ絶望したことか。今だってこの不安定な生活のせいで安心して眠れた事はない。
でもこうやって友達と話していると少しだけ心が軽くなった。
昔からこうだ、嬉しい事があると必ず不幸が訪れる。大学だって受かった筈なのに入学式に行けば私の名前はなかった。結果的にそれは事務員のミスだったらしく、その後訂正して貰い入学はできた。その後も目の前でデザートが売り切れたり、塗りたてのベンチに座ったとか小さな不幸は沢山あった。
でもこんなに大きな不幸を体験するのは初めてだった。どんなに小さな不幸が起きたとしても人生を左右するような不幸は起こらないと自負していたのに、まさか起こってしまうなんて。
はあ、私って疫病神でもついてんのかな
「ほら霞ここは私が奢ってあげるからなんでも食いな!私からの餞別だよ」
「うぅ…ありがと〜やっぱり夢希が一番!私頑張るよ!!」
ー
と、友人の前で意気込んだのも良いものの家に帰り1人になれば再び不安に押し潰される。
私はドが付くほどの田舎から大学への入学を機に上京して来た。その為頼れる人は多くなく、1人で寂しく過ごしている。
会社の倒産を伝えた時のお母さん達の不安な声色が何度も耳奥で再生される。あんなに応援してくれたのに、今だって仕送りをしてくれるのにそれに対して私はまだ何も返せてない。
一度帰って来たらどうか、なんて言われたけど私は東京に憧れて東京で暮らしていくと決めたのだ。それをこんなに早く逃げたくない。まだ頑張りたい。
「はあ、やっぱり私に東京は早かったのかなあ…」
ベッドの上で呆然と天井を見つめるが、ぐるぐると考えは纏まらず霧がかかった様にはっきりとしない。
いいな、夢希は成功してて。他の友達だってSNSやらで愚痴は吐いてる癖に私より成功してる。本当なら私だって…
街中を歩く人達を思い返せば全員キラキラと輝いていて私が、私だけがそんな光に埋もれている。あまりネガティブにはなりたくない。でも考えてしまうのはネガティブな事ばかり。
ふと時計を見れば時刻は深夜1時を過ぎており慌てて電気を消す。ネガティブな私は誰にもバレたくない。溢れる涙を止めるために目元を拭って瞼を閉じる。
明日こそ、気持ちを切り替えられます様に____
「こんばんは、霞ちゃん」
「、は、え?…ゆめ、?」
「そうそう正解!流石霞ちゃんだね」
バチっとウィンクをキメてくる目の前の男性(?)
彼は腰くらいの白髪と淡い水色の着物を着ており、動物、多分犬?の耳を生やしている。いや、私だって何を言っているのか分からない。夢ってその人本人の欲求を現してるって言うけど、私ってケモ耳フェチだったの
「ん〜霞ちゃんがケモ耳フェチかは分からないけど、僕は僕の力で君の夢の中に入り込んでるんだ」
は、と思わず声が漏れる。この人ナチュラルに心の声を読んだし、いやまって入り込むって何?私こんな意味不明な夢を見るレベルでストレス溜まってるの?
「ははは、まあ僕の事は覚えてないよね。簡単に自己紹介をすると僕は神様なんだ!」
「…へーすごーい」
「あっこら!考えるのを放棄しなぁい!昔からそうだよね、君は…!」
「…それで貴方は神様だからなんですか。もしかして最近話題の異世界転生ですか?なら困ります。まだ親孝行もできてないのに」
疑いの目で神様を見つめる。切れ長な目元だがキツイ印象はなく、中性的な雰囲気にただただ美しいと感じてしまう。神様と言われても納得してしまうレベルの高貴さだ。しかし声の調子や微笑み方に何処か親しみを感じる。
「転生なんて、そんな大層なものじゃないよ。僕は君にこの力を返そうと思ってね」
「…ちから?」
「そう!この世界では能力というのかな?昔の約束を果たしに来たんだ」
「…は、え?やくそくって…」
「昔の君が言ったんだよ?"将来必要な時になったら返して"って」
小指を差し出し首を傾げた神様。同時に何処かで鈴の音が響き、懐かしい心地良さを感じた。
しかし聞き覚えのない約束に頭が痛くなる。神様とか能力とか、約束とか全てが追いつかない。
「あ、そろそろ時間だね。それじゃあ約束は果たしたから」
「え、ちょ!」
「待って!!」
見慣れた景色の中でがばっと勢い良く起き上がる。伸ばした手は何も掴めずに空を切っただけだった。ヒヤリとした空気が手先を冷やしていく。
こんなにも鮮明に夢の事を覚えてるのは珍しい。いや、あれは夢と呼べるのかも分からないけど
まだハッキリとしない頭を抱えて静かに起き上がりバイトへと出かける準備を進める。その間に何度もため息が出てしまい、部屋の中は私から逃げた幸せで満たされてる。
頭を切り替える為にコップに入れた水を一口飲みテレビをつけた。
【本日朝7時頃、都内で通勤中の女性をナイフで切り付けるという通り魔事件が発生しました。現在も犯人は逃走中です。】
【さて続いては犯罪心理に詳しい坂本さんに来て頂いてます。坂本さん最近の犯罪についてどうお考えですか?】
【そうですね、近頃"イレギュラー"による犯罪が増えているので警察にはいち早く対処してほしいところです。】
いかにもな胡散臭いおじさんがテレビの中でぺらぺらと自信ありげに語っている様子に再びため息が出る。最近都内では犯罪行為が多く発生してる。理由は簡単。ニュースでも話しているレギュラーと呼ばれる能力者のせいだ。
近頃どういう訳か特別な力を持った能力者が増えて来ているらしい。その能力者を世間は"シグナ"と呼び、反対にその能力を悪用する人を"イレギュラー"と呼ぶ。最近ではそんなイレギュラーが殺人や強盗、誘拐などの犯罪を犯している。
夢の中であの神様…かどうかも怪しいけど。その自称神様が私に能力を返しに来たなんて言ってたけど、もしかして私がシグナだったり、……なんてそんな訳ないか!テレビでもイレギュラーを取り扱ってるけどそんな人は実際に見た事ないし、殆どの人は信じてない。
あの夢は全部私の妄想。現実逃避をしたくなった私の創作。現実の私には何も関係ないんだ
ー
「…いらっしゃいませ〜」
そう思ってたのに、そう確信してたのに、…
なんだこりゃ!!!!
お客様がいる手前貼り付けた笑顔で接客をするが今ここにいる誰よりも動揺している自信がある。
だってさ、だってさ!電車に乗ろうと外に出た瞬間色んな人にオーラ?っていうのかな、なんか背景みたいなのが見えるんだよ!?でもそれは全員じゃない。10人に1人くらいかな、結構ランダムで今は店内にいるデート中の女の子と男の子に黄色?いやオレンジかな?そんなオーラが見える。
もしかして私占い師としての才能が…!?
黄色なら金運上昇みたいな!
「あはは、違うよ?あれは喜び。好きな子と出かけられて嬉しいんじゃない?」
「喜び〜?なにそ、れ………!っな!!!」
リン、と鈴の音聞こえ隣を見てみればさりげなく立っている神様もどきに思わず声をあげる。そのせいでお客様の目線が私へと集まってしまい、このカフェがコスプレカフェだと勘違いされてしまった。
この男は私の夢の邪魔にとどまらず営業妨害までするのか!?
「霞さん?急に声を上げてどうしたんですか?」
「あっ、いや!すみません、変な人が、」
「変な人…?そんな人いませんけど…」
オーナーに事情を説明するが私の隣に目もくれず店内をキョロキョロと探している。
今も隣でにやにやと笑っているのに、まるでこの人が見えてないみたいな…
「そうだよ〜僕は神様だからね、僕が見えるのは君だけなんだ」
「なっ、はあ?!」
衝撃のあまり勢いで飛び出てしまった言葉に慌てて自分の口を塞ぎ頭にハテナを浮かべてるオーナーと再びこちらを見るお客様に謝る。
「すみません、ちょっと電話して来ます!」
「や〜ん、強引〜」
「え!…あ、行っちゃった」
神様を引っ張り控え室へと押し込む。神様は全く焦っておらず余裕な表情を浮かべており、無意識にイラついてしまう。今の時間は誰も来ないし、誰も休憩はしてこない。つまり話すならここが最適なのだ。
「あの!全部説明して貰えますか!!」
「全部って、夢の中で言ったでしょ?僕は君に能力を返したの、ほらオーラが視えない?それが君の能力」
「の、能力って…それはつまり……私があの、"シグナ"だったって事…?」
「そうだよ!流石霞ちゃん、大正解!君は"人の感情がオーラとして視える"シグナなんだ!」
「……感情?オーラ?」
机を強く叩き、正直に話すように圧をかけてみたが意味はなかったようだ。私だけが何も理解できておらず、1人で焦っているだけ。そんな姿が滑稽なのか神様は薄い唇を三日月へと変形させている。
この神様もどき、!!いや神様らしいんだけど、…あー!!もう全部訳わかんない!!
「まあ理解できなくてもしょうがないよ。小さい頃の霞ちゃんもこの能力を怖がってたしね」
「その、小さい頃ってなんなの?何も覚えてないんだけど…」
頭を抱えながら聞き返せば続くのは沈黙だけで、少し怖くなり慎重に頭を上げるとそこにはにっこりと静かに笑う神様がいた。
ぞくりと背筋が凍った。冷えた体では心臓だけが活発に動いている。神様だからなのか人間では到底出せない圧を感じて思わず生唾を飲んだ。
てか神様ってタブーとかあるんだ。まあ普通は見えない存在だしあるにはあるか。にしても怖
「霞さーん?もう電話終わった?そろそろ混み始めるから入ってほしいんだけど…」
「あっ、すみません!今行きます!…とりあえず今日は15時までだから終わったらまた出て来て!」
微笑んだままの神様に伝えて私は店内へと戻る。分からない事だらけだけどあの人は悪い神様ではない、と思う。そう私が思い込みたいだけかもしれないけど、ふとした瞬間に見える神様の表情が優しくて…
ー
「じゃあ霞さんお疲れ様〜」
「お疲れ様でした〜」
忙しい営業時間を乗り越えて控え室へと戻り、エプロンを脱ぐ。この後はどうしよう、気分転換に街中でも歩こうかな
「霞ちゃんお疲れ様〜」
「うぎゃ!!……はあ、そういえばいたな」
気配もなく背後から現れた神様に可愛げもない声が漏れてしまった。幸い控え室には私以外には誰もおらず一息ついた。
あまりにも非現実的すぎて忙しさの中で神様の存在を忘れてしまったみたいだ。
「この後はどこ行くの?街中歩くなら僕に紹介してよ〜」
「はあ、神様がいるなら家に帰るよ。1人で話してる変な奴とは思われたくないですから」
「あれ言ってなかったっけ?口に出さなくても心の中で話せば会話できるよ?」
「…よく説明が足りないって言われない?」
「え!よく知ってるね!流石霞ちゃん!!」
犬のように尻尾をブンブンと振ってる神様を背に店を出る。平日だからかそこまで人がいなくて少しばかり快適だ。でもみんなはこの間にもしっかりと働いて…いや、私だってちゃんと働いてたし!
この頃どんな些細な事でもマイナスに捉えてしまい、自ら精神を削ってる。思わない様にしようと思うほど考えてしまう。底なしの沼に落ちた感覚だ。
「そんなに思い詰めなくても霞ちゃんなら大丈夫だよ!」
信号待ちの一場面で目の前に現れて親指を突き立ててくる神様。そういえば考えてる事はなんでも筒抜けなのか。
無責任に大丈夫とか言わないで欲しい、とも思ってしまう自分が恥ずかしかった。そんな事を思っていると神様にバレたくなくて違う話題を振る。
(「とりあえず神様が話せる範囲で全部教えてくれない?」)
「話せる範囲か〜」
信号が青になり私が歩き始めればふよふよと胡座をかいて浮きながら移動をする神様。神様なんだから浮く事だって出来るもんね。もう何も驚かないぞ
「そうだなあ、あっ、君の能力はこれから必要とされるものになるから安心してね」
(「…それって"イレギュラー"と関係あるの?」)
「んー、そういうのは分かんないけど悪い方向ではないよ」
安心して、と目尻を下げて優しく微笑む神様に胸が騒ぐ。この笑顔、どこかで見た事がある。ここまで来て疑ってはいなかったけどやっぱり小さい頃に会ってたのかもしれない。
(「じゃあ能力について教えて。オーラが視える人と視えない人の違いは何?」)
「違いというか…君は凄い事に全人類のオーラを視る事が出来るんだ。だけどオーラが現れる条件は1つ。その人自身の感情が一定以上になる事」
だから店内でも視える人は少なかったのか。歩きながら観察してると黄色のようなオレンジのような、確か喜びだっけ?そのオーラを出してる観光客が何人か視える
(「他にも視える感情はあるんだよね?」)
「そうだよ、青だっら悲しみとかなんだけど色の濃さや混ざり具合で色々意味は変わってくるんだ。それはまだ僕にも把握しきれてないからそこは頑張ってね〜」
(「え、一番大事なとこじゃない!!?」)
あまりの衝撃に人目も気にせず神様の方を向いてしまった。不審者に間違えられるのは耐えられない為誰にも見られていない事を願ってすぐに前を向いた。
が、その時背後からぞわりとした感覚が肌に伝わり全身に鳥肌がたった。神様の時とは違う、嫌な予感が空気を通して伝わってくる。
思いがけない緊張感に動けずにいると少しして女性の悲鳴が聞こえて来た。その声を皮切りに氷の様に固まっていた体が溶けたので、すぐに振り向く。
悲鳴をあげた女性の目線はある男性に向いていて、その男は____
「__あれは殺意、だね」
真っ黒なオーラを背負っていた。




