2日目 坂道とグルメ
ラーメンが好きです。
小五郎さんの家を漕出発してから5時間、出発したのが朝8時だったのでいまの時刻は大体13時程。私はいまだ山道を進んでいた。最初の2時間は楽しかった景色も今では余りの代わり映えのなさに苛立ち始めている。「しんどい。」このセリフもこれで20回目だ。鼻から抜ける血の味、ペダルを踏むたびに悲鳴を上げる足と私。いったい何度この地獄をこれから味わうのだろうか。もうそこの茂みで首を括ったほうが絶対に楽だろう。しかしここまで進んだ暁そんなことはしたくない。他人から見れば(たかが2県)、しかし私からすればこの2県は私の価値観を変えてくれた(されど2県)なのだ。これは誰にも馬鹿にさせる気はない。
そんなことを考えた矢先、少し高いところに出た。ようやく下りの道に出たかと少しあきれていると正面の方に私がこれから行こうとしている街が見える。私はテンションが上がるのと同時に、安心したのか腹の虫が大きな声で鳴きだした。時間もちょうどよかったのでここらで少し昼休憩を挟もうと木陰の下に自転車を停め、気分の良くなる景色を肴にもらったおにぎり(鮭)を頬張り、クーラーボックスの中でキンキンに冷えた水を喉に流し込んだ。おにぎりは塩がよく効いた鮭に粒だった白米が合わさることによって、マイルドな味わいの中でしっかりとした満足感を生み出す御馳走となっていた。そして山を登り火照った身体に流し込まれる結露が輝くほどに冷やされた水が身体の熱という熱を追い出し、内側から冷涼感を生み出す。
嗚呼、私は今生きているのだ。現代では質素ともいえるようなご飯がこんなにもおいしい。私は少し涙ぐんだ。ご飯を食べ終わり、荷物をまとめて今日の目標地点へと再度自転車を走らせ始めた。
そこから3時間。8つの山を越えてついに熊本市にたどり着いた。目の前にはどんなに強い地震が起きても崩れそうにない城がそびえたっている。私はここまで辛かった道のりを思い出しながら達成感に浸っていた。
すると三人組の大学生らしき男達が声をかけてきた。どうやらXで私のポストを見たらしく会いに行こうとここで待っていたらしい。彼らは「おつかれさまです」と言うと、コーラをくれた。私は感謝の言葉を述べて「少しこの辺りを観光してみたい」と言った。すると彼らは大船に乗った気でいてくださいと言わんばかりに案内をしてくれた。熊本城の歴史や伝統工芸館など深くわかりやすく教えてくれた。
私が特に気に入ったのはラーメンで、彼らのイチオシの店に行った。私は「ラーメンには一家言ある」と彼らに言い、今まで食べたラーメンの話をした。彼らもまたラーメンにはこだわりがあったようで店に入るまでの30分間ほど熱く語りあった。店に入り早速彼らの勧めるラーメンを注文、10分ほどで到着した。肝心の味については、豚骨ベースで非常においしかった。スープのコクが深いにもかかわらず臭みが少なく、さっぱりとしていた。舌にしっかり味は乗るが、胃に入っていくとまるで油などなかったかのように軽い。チャーシューもまた味が染みておりスープの良さをこれでもかと言わんばかりに引き立てていた。麵にもしっかりコシがあり歯ごたえも楽しく、まさしく最高の一杯ともいえるラーメンだった。
熊本を満喫し、そろそろ解散しようとしていたとき、彼らが「頑張ってください」と5千円を手渡してきた。流石にここまでしてもらってお金まではもらえないと断りを入れると、彼らは私のポケットの中に突っ込み、蜘蛛の子を散らすように去って行ってしまった。なんとも情けない展開だ。自分よりも一回り以上年の離れた人にお金を渡されることになるとは…しかし今の私には足りなかったものだったのでとてもありがたかった。
見えなくなってしまった彼らにお辞儀をして銭湯に行き、防犯のために近くの激安の殿堂でカギを買い自転車とクーラーボックスに鍵をかけ、近くの公園で眠りについた。夜の孤独に少しだけ寂しさを覚えながら。
資金残り10万8千円
感想など励みになりますのでよろしくお願いします!




