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3-1

 雨が強く降る夜だった。この世界にきてから初めての雨だけれど気にする余裕はない。黒蛇がしばらく来れないとはっきり明言してから三日目の夜で、そしてタイミングの悪いことにレーヴェンもルーナ絡みで一晩留守にすると言った日だったからだ。

スミレは目を擦りながらキッチンに立ち、ざあざあと聞こえる雨音を聞きながらミルクシチューを火にかけてぼんやりと過ごしている。日付はとうに変わり草木も眠りにつく時間になったがどうにも寝付けずにいた。足元からじわじわとのぼるように恐怖と不安があって、それはレーヴェンが出ていった時から拭われることなく……どうしても一人が怖い。

「私は、一人になるたびにこうなるのかなあ」

 なんとなく呟いた声は平坦で、どこか遠い先のことのように思えた。

 それでも今は、今だけは目の前のことを考えるだけで良い。朝になればレーヴェンが帰ってくる。だから彼女はあまり回らない頭で、シチューが余ったらグラタンにリメイクでもしようかななんて考えていた、その瞬間だった。リリリン! とベルが鳴る。

「……こんな時間に、誰かな」

 ベルが鳴るということは当然、彼らではない。そして、彼女が手放しで歓迎できる相手なんてそれだけだった。

 ――でも。

 スミレはナイフをポケットにしまい、火を止めてから聖堂の方へ向かう。足が急く。だって、だって、だって。一人は嫌だ。怖い。知らない世界が怖い。殺されることより怖い。ずっと。だから。

「こんばんは。こんな夜更けにどうしましたか?」

 最低限の灯りしか点いていない空間には、ローブを着た人間が立っていた。

 ――黒いローブ。本来なら警戒して逃げてしかるべき相手なのにスミレは安心さえ覚えてしまう。黒いローブをまとった人は彼女にとって黒蛇だけで、怖がるなんて考えられないことだった。

「テメェが、シスターか」

ばさりとフードを降ろしスミレに近付くのは黒蛇と同じような年頃の男だった。だからなおさら心がほぐれる。

「はい。あなたは、どうしてここへ? 夜の森は進むのが大変なのに」

 落ち着いていた。彼はいつぞやの侵入者のようにピリピリするような空気もなく、長い前髪の奥で疲れたような顔をしていることが分かったから。

 夜の森は怖いと聞きかじっただけの知識でそうたずねると、彼は言いにくそうに、苦虫をかみつぶしたように返した。

「……告解室」

「へ」

「告解室があるって聞いたからよ」

「えと、つまり、あなたは罪を告白しに来たんですか?」

 こくり、と男はどこか幼い仕草で肯定した。スミレは困って眉根を下げた。それはまだ教わってない。この教会には人が来ないことを前提にした教育を受けていたから、知っているのは教義や成り立ちばかりで、正式な祈り方すら自分で読んで学んだ。他人がいて成り立つような罪の告白なんて、受け方も、どういうものかもよくわからない。

 けれど今はレーヴェンもなく、ここに居るのはスミレだけだった。夜にわざわざ訪れてくれた以上わからないからと断るのもしのびない。

「……告解室、は、あっちにあります。案内しますね」

 結局、彼女は奥へと誘うことにした。話を聞くくらいなら、と思って。

薄暗い中を危うい足取りで進むと男がついてくる。スミレは背中に刺さる視線を感じながら

「あ、あの、教会にはよく行くんですか?」

 と話題を振ってみた。

「いかねーよ。これが、初めて」

「そう、なんですね。お祈りはしなくても大丈夫ですか?」

「神なんか信じてねぇ」

「あ、す、すみません」

 スミレは口をつぐんだ。もう喋らない方がいいかも知れない。


 そうして静かにあるいて、数分。

「ここが告解室です。えと、その、たぶん、本当は相手の顔を知らないままするはずなんですけど」

「オレ、テメェの顔見ちまったけど」

「う、はい。私がうっかりしてて。でも、いちおう決まりの通りに別々に入りましょう。それで、お話を聞きますから」

「……」

 男はしばし無言でスミレを観察して、やがて一人で懺悔室に入った。彼女も勉強しておけばよかったと半泣きになりながら隣の扉を通る。

 壁にあるスイッチにそっと触れて魔力を流すとオレンジ色の明かりが点いた。彼女は眩しさから目を細めながら椅子に座る。部屋はこぢんまりとしていて、椅子と小テーブルしか無かった。そして壁の高いところにカーテンの掛けられた格子がある。そこから声を聞く仕組みらしい。

 部屋に入ったのも初めてであれば懺悔を聞くのも初めてなスミレは深呼吸を何度か繰り返して、出来るだけ柔らかい声を出した。

「それでは、どうぞ」

 部屋を沈黙が満たした頃、彼は話し出した。

「……オレは、商人をやってンだ。何でも売買する。情報とか命とか、何でもな」

「それをどうこう思ったこたあねぇんだが、ちぃと疲れちまった。他人を食いモンにするのによ」

「クソッタレな知り合いは人殺しだが、オレはそれをバラして売る商売だ。気色悪ぃコトしてンだよ」

「神の使いなんかやってるテメェとは住んでる世界がちげぇんだ。神だって信じてねぇ」

「でもよ、一度吐き出しゃなんか変わるかもって、そう思っちまったんだ、オレ」

「なあ、シスターサンも軽蔑するだろ? オレは死体突付くカラスよりタチわりぃクズで人間以下だ」

 スミレは静かにその告白を聞いていた。今隣にいるのは人をどうこうして稼ぐ人種だと。そしてそれに疲れていると。つまり、たぶん、もうそういう仕事を辞めようとしているんだろう。だから、今隣にいるのはただの仕事に疲れたひとだ。

 ――黒蛇と同じ黒いローブの、黒蛇と同じ暗い髪の、黒蛇と似たような仕事の。

 それに気付いてしまえば、怖いことなんて一つもないような気がした。

「お兄さん」

「……あぁ」

「お兄さんは、偉いですね」

「ハァ?」

「ちゃんと、悪いことだと言えて偉いですね。そしてそれを他人の私に言えるなんて凄いです。自分が悪いことをしたひとだなんて、言わなくちゃバレないのに」

「……」

「お兄さんはいいこです。自分のことをよく分かってる凄いひとです。ね、疲れたら休んだらいいんですよ。ちょっと休憩です」

「きゅう、けい」

「そう。いいこのお兄さんは、休み方は分かりますか?」

「……わかんねー」

「じゃあ、私が教えます。一緒に考えても楽しいですね。お兄さんがのんびり出来る方法」

 ガタン、と隣で音がした。スミレは逃げ出さずに扉を見ている。だって彼は、どこにでもいるようなひとだから。不安定な場所でそれを恐ろしく思っているただのひと――黒蛇だけじゃない。自分ともおんなじだ。

「なあ」

 キィと開いて、男が部屋に入り込んだ。彼女は何もしない。漠然とした不安感でぼんやり痛む頭を抱えながら微笑んでいる。

「ルチって呼んで」

「はい、ルチさん」

「呼び捨てで構わねぇ、です。オレ、あんたみたいなのに会いたかった」

「ルチ」

 彼は笑顔で椅子に座る彼女の足元に縋るみたいに跪く。

「一緒にごはん、食べますか?」


「ふふ、丁度良かったです。シチュー、作りすぎちゃったから」

 スミレはにこにことシチューを器に注いでいた。二人はキッチンに立っている。

「これ、あんたが作ったんすか?」

 カルガモのヒナのように彼女の後を追いかけるルチは首を傾げた。どこか幼い動作をくすりと笑い、スミレはスプーンを取り出す。

「はい。私、料理を作るのが好きなんです」

「だからこんなにたくさん?」

「食べてくれるひとがいないから」

「一人、なんですか」

「そうなんです」

「……一人……」

 何事かを考えている男に気付かず彼女はテーブルに並べて椅子を勧めた。

「ルチ。どうぞ召し上がれ」

「……あったかい、メシ」

「シチューは嫌いですか? 少し待ってもらえれば別のものも――」

「や、好きっす! 値段、幾らかなって思ってただけで」

 スミレは不思議そうに口を開く。

「お金なんていりません」

 そう言ったのは、単純に不必要なものであるからであった。どうせ外に出られない。つまり金銭が必要な状況になることが無いということだ。食料や服は黒蛇が持って来てくれる。本のたぐいは教会にたくさんある。欲しいものなんかない。あったとしてもそれは叶わないものだと知っている。お金では買えないものばかりを望んでいる。

スミレにとって異世界に居るという事実はこの世界への執着を確かに失わせていて、だから裏世界の告白をにこにこ笑って受け流せるし、暖かい手作りの料理を無償で提供なんてしてみせる――それが相手にどういう影響をもたらすのかを、考えもしないで。

「……そ、すか。では、食わせてもらいます」

「はい、暖かいうちにどうぞ」

 そうしてルチが恐る恐る食事をするのを、やっぱり彼女は嬉しそうに眺めていた。

「……あの」

「はい」

「あんたって、神サマですか」

「え?」

「そうじゃねぇとおかしい。オレはクズで、こんな優しくされる人間じゃねぇ。不幸にならなきゃいけねぇんだ」

「そんな、罰せられるべき人間なんていません。ルチはちゃんと反省もしていますし、大丈夫です」

「でも」

「もし心配なら、私が祈ります。ルチが幸せになりますようにって。私は神様でもなんでもないですけど、ルチがきたらごはんを作りますし、ベッドも用意します」

「……」

「ね、それで安心でしょう?」

「……オレ、ずっとここにいてぇ。いても、いいですか」

 ルチのぼんやりした目を見ながら彼女は微笑んだ。

「あなたの好きなだけ」




「あ」

「あ?」

 教会の玄関でばったりと、スミレとレーヴェンが顔を合わせた。

「う、わ、レーヴェンさん、お帰りなさい、ええと」

「今戻った……何かあったのか」

「いえ、いや、なにかはあったんですけど、うーん、早く帰ってきましたね……」

 レーヴェンはいぶかしみつつ被っていた白いローブを脱いで、ばさばさと雨粒を落とす。まだ夜明け前。一人に怯える子供の為に駆けて戻ったというのに反応が鈍い。普段の彼女であればあからさまに喜んで、雨に濡れたレーヴェンの為に温かいものを用意するくらいはやる。それなのに今は困惑と少々の怯えがうかがえて、挙動不審にうろうろしている。

「ええと、あの、ここに外のもの、入れたらダメです、よね?」

「……変なものでも拾ったか」

「ものっていうか――」

 顔を青くしつつ、視線を盛大に泳がせつつ、スミレが口を開いた瞬間。

「シスター! これっていつまで焼くんすかー?」

 調理場の方から声がする。ぐ、とレーヴェンの眉間にシワが寄った。スミレはちぢこまって忙しなく指を組み替えている。

「おとこのひと、です……」


 教会内の、客間にて。

「この馬鹿者が!」

「う……」

「貴様、何故自分がこの教会で生活しているのか忘れたのかっ! 余所者を招くな! ここは貴様が暮らすと決まった時点で教会であって教会ではなくなったのだ!」

「はぃ……すみません」

 叱るレーヴェンと、沈み込むスミレと、パングラタンを食べるルチでテーブルを囲っている。彼女が用意した温かいミルクはレーヴェンの前で冷めるばかりで、ルチはそれをうらやましそうに見ていた。

「鈴の音が鳴れば隠れるというのがここを不在にする時の約束だったろう! ……私では、守るには足りないと? だからおのれを顧みず対応したというのか」

「いえ、違います、ごめんなさい……あの、さみしくて、つい」

「っ、そ……」

「すみません、軽率な行動でした……今日は寒いから、夜いっしょに食べようと思ってたのにいなくなるから、あっ、レーヴェンさんのせいって言いたい訳じゃないんですけど、私が悪いんですけどっ」

「シスター」

 グラタンを空にして置かれたスプーンの音が響く。

「っうはい!」

「オレが聞いた話と違う」

「へ」

 首を傾けて、長い前髪が揺れる。今夜の空のような紺の色。

「シスター、一人って言ってました。オレと一緒に居てくれるって。それ誰すか」

「――随分不遜な奴だな」

 硬直していたレーヴェンが初めてルチを見た。睨むといった方が正しいほどの圧を、けれど彼は意に介さずスミレだけを視界に入れている。

「ねえオレはあんたといられると思ったのに……他の虫がいるのかよバラすのめんどいだろ」

 ピリピリした空気を肌で感じて、それが自分に向けられていることに気付いて、ぎくりと身体を揺らした。一気に青ざめて怯えに満ちて、けれど自分のせいだという意識のせいで口を開く。

「えと、ごめんなさい、今は一人って意味で……このひとはレーヴェンさんで、ここの――」

「神父だ」

「――あ、です! れ、レーヴェンさん、こちらはルチで、告解室に……あれ、ルチ、ローブは」

「置いてきました」

 ばつりばつりと切られるように言葉を返されて――スミレは限界を迎えた。

「そうだった、んですね! う、ええと、私――レーヴェンさんの分のシチューを持ってきます! すみません失礼します!」

 口早にそう言って脱兎のように部屋を出て逃げていくのを、片や眉間を揉んで片や惜しそうに見ていた。


「――で? ルチといったか。この教会に何の用だ?」

 先に口火を切ったのはレーヴェンの方だった。彼にはスミレを守るという契約がある。そしてルチみたいなタイプが気に食わないので対応は初めからとげとげしい。

「シスター以外の声聞きたくねえから黙ってくんね?」

 相対するルチは、黒いローブの人間の大概がそうであるように自分さえよければどうでもいいタイプで、今は不機嫌であるためレーヴェンに視線すら向けずに爪を眺めている。

レーヴェンの額にぴきりと青筋が立つ。苛立たしげにテーブルに指先を打ち付けた。

「貴様、やはり信者ですらないな? 告解室に用があったというのは嘘か?」

「そんな簡単にウソって決めつけるなんて、神父ってのはさぞ偉いんだろうな?」

「黒が懺悔をするなど馬鹿馬鹿しい」

「黒? なんのことだよ」

「ローブに決まっている。ろくでなしめ。あれは身分証明を兼ねているからな。簡単に脱いでしまうのは黒くらいだろう」

「……あぁ、そりゃ盲点。で? 神父サマはオレを通報でもするか? その前にテメエを殺すがな」

「噛みつくな、面倒だ。あの小娘に手を出そうとしない限り私からどうこうする気はない」

「ありがてえこって」

「……と言いたいところだが、今すぐここを出ていけ」

「は? 教会へ来たやつを神父が追い返すのかよ」

「ここの教会でなければ黒とはいえ応対くらいはしたがな……何故よりによってこの森に来たのだ……」

「知り合いから聞いたから。町の方の教会だと騒がれんだろ?」

 その言葉にレーヴェンは意外そうにひょいと眉を上げた。

「……懺悔は本当だったのか。だから聞いてくれたあの娘に執着を向けていると? あれも懲りないな。他人に気を向けるべきではないと何度言っても自覚しない」

「あぁん? ここ、テメエとシスターだけじゃねえのか?」

「……出て行ってくれると、私が片付けをせずに済むのだがな」

「へえ? 神父サマはオレを片付けられると思ってるのか?」

「そうしなければならない理由を持っている」

 かち、と剣を抜く音がする。緊迫した空気。殺気が張り詰めて、視線を動かすのもためらう感覚に満ちる。

「最終警告だ――ここを、出ていけ」

 レーヴェンの鋭い声に、ルチは降参するように両手を上げた。

「……あー……そ。ダメだ、じゃあなんも足りねえや……」

 ゆらゆらと手を揺らす。持っているのはフォークと小瓶。

「これじゃテメエを殺せねえから、次は殺せるように準備してくるぜ」

「来るなと言っているんだが……自殺志願者なら森で野垂れ死ね」

 がたんと音を立ててルチが立ち上がった。手遊びのように小瓶を手の内を転がしている。中でとろとろと液体が揺れていて、レーヴェンはそれを警戒して動かない。

「死ぬのが怖えから懺悔するんだろ」

 にやりと上機嫌に笑って――

「またな、エセ神父」

 レーヴェンの前に置かれた冷めたミルクをさらった。

「ははあ、甘えや、シスターみてえ……あーあ、あれが欲しい、メシもうまいし、やわそうだし、早く、はやく……」

 そのまま飲みながらふらふらと部屋を出ていった。レーヴェンが後に続くが気付いているのかいないのか、不安定な足取りのまま進む。

「壊してえなあ壊したくねえなあ痛くしたい優しくしたいオレのものになって、ならないで、かみさまになって……」

 明らかにさっきまでと様子が違う。異様だった。例えるなら空腹時と満腹時の黒蛇だ。

「……黒の奴らは全員こうなのか……?」

 ぶつぶつと何事がを言う上足取りは不確かな割に、スミレが居るであろう調理場ではなくきちんと聖堂の扉へとたどり着いた。

「……まぁたねぇ、シスター」

「来るな」

 追い払うようなしぐさをしてもルチは全く堪えないで見えていないスミレに手を振って、教会を出た。

「――……はぁ……疲れた……」

 レーヴェンはぐったりとして剣の柄から手を離した。ああいう人間は武器に怯えないから始末が悪い。恐らく宣言した通りまた来るだろう。面倒なことに、スミレを狙って。しかも狙う理由に信仰が混じっていた。あれは本当にやっかいだ。司教を守る立場にいるからわかる。信仰は、それも個人に向けられるそれは終わりがない。自分の脳内で作り出した神様に向けているのと同じだからだ。自己陶酔に近い感情を延々と煮詰めて信仰にかたちを当てはめたものを抱えた人間は相手を顧みない。

 様子のおかしい人間と関わった疲労感と殺意を浴びたことによるこわばり。軽く伸びをして、この厄介な問題をどう黒蛇に報告したものかと思案し出した時。

「あ、レーヴェンさん!」

 明るい声が聖堂に響いた。

「シチュー、部屋に置いてきました! 雨だったから温かい紅茶とスコーンも」

「……」

「夜にお疲れ様です。早く帰ってきてくれたの、ほんとにうれしかったです。ちょっと、私のせいでゆっくりできなくて申し訳ないんですけど……でも、ルチはいいひとそうだったから」

「……」

「あ、あと、ルチを知りませんか? 昨日焼いたクッキーをあげようかと思ったんですけど、いなくて」

「……おい」

「はい?」

 スミレは屈託なく笑う。抱えた皿から甘くて香ばしい良い匂いがしている。真っ白なワンピースが揺れて、彼女は無防備に近寄る。

「レーヴェンさん? 大丈夫ですか? なにかありましたか?」

「――先程叱られたことを忘れているな?」

「えっ」

「部屋に戻れ、説教の続きだ」

「ええっ」

「あの男は帰った。だから貴様が抱えているそれも、部屋に用意してあるものも、全て私が食べる」

「え、う、そ、それは嬉しいですけど」

「他人を家に上げないという常識も含めて教えてやろう」

「うええ、今からですか……」

「ああ、夜明けまで側にいてやる」

「――ご、ごめんなさい……ありがとう、ございます」



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