『ロードの思惑』と『まさかのご指名』
「単刀直入に言おう。その少年は、我々魔法聖協会が引き取らせてもらう」
「はあ!?」
ロードの言葉に真っ先に反応したのはグレンだった。
「ちょっと待てよ!いきなり呼び出してレオを寄越せとか!意味わかんねえよ!!」
「よせグレン!」
「こいつは俺たちの仲間になるんだ!お前らなんかに渡してたまるか!」
レオの静止を無視して声を荒げるグレン。
「あの赤毛の少年。追い出しましょうか?」
レティシアがロードに聞くが…
「いや、構わん。流石に単刀直入すぎた所はあったな」
ロードはグレンの怒鳴り声に対し不快感を表すこともなく冷静に話し始めた。
「事実確認から入ろう。まず…レオと言ったな。お前は先日壊滅したココヤキ村の人間…。それは間違いないな?」
「……ああ、間違いない」
「お前はココヤキ村から3人の白いローブを着た男たちに連れていかれた…。そうだな?」
「!!…なんでそのことを…」
レオが驚くのも無理はなかった。
レオが拉致されたことを知っているのはレオの口から直接話を聞いたジーク、グレン、フロイ、アイリス、フィオネ、この5人のみのはずだった。
しかし今、ロードはそのことをさも知っていて当然かの様に聞いたのだ。
ココヤキ村が壊滅して数日、突然エンディミオンの近くに現れた一人の少年。
それが行方不明とされていた少年であると推測するのは難しくないが、拉致されていたことまで知られているのは不可解としか言えないだろう。
「事実か…否か?」
「……事実だ」
レオは疑問が解けないままロードの確認に答える。
「やはりそうか…」
「な…なあ、あいつなんでレオが攫われたことまで知ってんだ?」
レオとロードのやり取りを見ていたグレンが小さな声でフロイに聞く。
「僕も話でしか聞いたことはないけど…。ロード・オルフェンスは相手の心を読む魔法を使うことができるって…」
「マジで!?それって最強じゃん!」
「ちょっ…!声が大きいよグレン…!」
「あっ…やっべ…!」
「でも、相手の心を読むって魔法は確かにすごいけど…それだけで七天大魔導士のトップになれるの?」
グレンとフロイの小声の会話にアイリスが混ざる。
「それは…う~ん…」
アイリスの疑問にフロイは答えることができなかった。
そんなやり取りとは別にロードは少し考える様子を見せてから再び口を開いた。
「ふむ…。やはり君はまだその三人に追われているだろう。
我々としてはこの国で保護した以上君を大人しくそいつらに渡すつもりはない。君がこれ以上狙われないようにしっかりと守るつもりだ。
そのためには、この魔法聖協会で匿うのが一番安全だ。だから改めて、レオ・ライズハルト。君の身柄は我々魔法聖協会が引き取る」
「「…………」」
ロードの言っていることは正しい。
レオの身を守るというのであればこの魔法聖協会ほどうってつけの場所は存在しない。
国の中で最も充実した警備システム、何よりエンディミオン最強の魔導士を含む7人の大魔導士がすぐ近くにいる。
いくらレオを狙っている者たちといえど簡単には手出しができない。
それを理解しているグレンたちは言い返そうにも何も言い返すことができずにいた。
「それだけじゃないだろ。ロード・オルフェンス」
ただ一人を除いて。
「なに?」
「あんたらがレオを引き取りたい理由はただこいつを保護するためだけじゃないだろって話だよ」
そう声を上げたのはレオの隣に立っているジークであった。
「マスター…?それって…」
ジークが放った言葉の意味が分からない様子のフロイ。
グレンたちも声には出さないもののフロイと同じで意味が分からないといった顔をしていた。
「俺ですらおおよその目星がついてんだ。七天大魔導士ともあろうあんたらがわかってないなんてことはないだろ?」
「何が言いたいのですか?ジーク・フロデロイド殿」
ジークの言葉にレティシアが反応する。
ジークは「ははは!まだとぼける気なのかよ!」と大きな声で笑った。
「レオを攫った奴らの正体だよ。あんたらもなんとなくわかってんだろ?恐らくだがレオを攫った奴らの正体は…」
「神だ」
その言葉を聞いたロードの目元が僅かに反応する。
それはロードだけではなく七天大魔導士全員同じ反応であった。
………………否、今もなお熟睡中のクルトは例外であった。
そんな七天の反応を見たジークは続けて話し始めた。
「一番のヒントはレオがどこから逃げてきたかってとこだ。
レオは空から落ちてきた。普通に考えるとありえない話だろ。村から連れ去られた奴が空から落ちてきたなんて。だが、レオを連れ去ったのがかつてこの世界を滅ぼそうとした神々だとしたら…。
かつて人類に攻撃を仕掛けた時も神々は空から現れたと記録には残されている。
恐らく、空には神々が住まう『国』がある。
グレンたちは子供だし歴史についてそこまで詳しい知識がなくても仕方ない。
この国にあるほとんどの書物にはどこから神々が現れたなんて記されてないからな。
だが、この国のトップに位置するあんたらも知らないなんてことはないだろ?
大方あんたらもそれを察知してレオを引き取ろうとした。神々によっていじられた可能性の高いこいつの体を徹底的に調べ上げて黒幕を完全に暴くために…」
その言葉を聞いたグレンたちは目を見開いた。
「それってつまり…」
「レオを利用するってことか!!」
「そんな…!!」
「そんなのこいつを攫った奴らとほとんどやってることが一緒じゃない!」
レオを除く四人が怒りを露にする。
フロイ、グレン、フィオネ、そしてレオを毛嫌いしていたアイリスですらもレオに対するあまりにも非人道的行為を許すことができなかった。
それを聞いたロードは目を閉じ「ふぅ…」と一つ息を吐いてから目を開く。
「バレてしまった以上仕方ない。ジーク・フロデロイド、貴方の言う通り我々はレオ・ライズハルトを攫った三人はかつてこの世界を滅ぼそうとした神々であると睨んでいる。そして同時に、神々は再びこの世界に攻撃を仕掛けてくると踏んでいる。
それに対抗するためにはもっと情報がいるのだ。
なぜ奴らはレオ・ライズハルトのみを攫ったのか、彼を使って何をするつもりなのか。
この国を守るために我々はレオ・ライズハルトの身体を調べる必要があるのだ」
「ふざけんな…!!」
ロードの言葉にグレンが我慢の限界かの様にロードを睨みつける。
「それじゃあレオはどうなるんだよ!!ここに閉じ込められて!やっとの思いで逃げ出してきたのにまた自由の利かねえところで人体実験みたいなことされて!お前らレオのことなんも考えてねえじゃねえか!!」
「木を見て森を見ずだよ少年。このまま何もしなくてはこの国に住まう何億もの命が脅かされる。それだけはなんとしてでも阻止しなくてはならないのだ」
「てめえ…!!」
ロードのあまりの言い草にグレンは拳から炎を出し飛びかかる寸前だった。
しかし次の瞬間。
「なあ」
声を上げたのはレオだった。
レオはロードの顔をまっすぐ見ながら聞く。
「あんたらは、その神ってやつをどうしたいんだ?」
「無論、過去の魔導士たちが成しえなかったことを成すだけだよ。すなわち排除だ。二度もこの世界を滅ぼそうと戦いを挑んでくるのであれば今度こそ完全に神々を排除する」
「……そうか…」
ロードの返答を聞いたレオは少しの間下を向き、しばらくしてから意を決したかの様に顔を上げる。
「なら、俺にもやらせてくれ」
「……なんだと?」
「神を倒す戦いってやつに、俺も参加させてくれって言ってんだ。
あいつらは俺の村をめちゃくちゃにした。両親も…妹も…故郷にいた俺の友達も皆殺した。
俺はそいつらを一発ぶん殴らねえと気が済まねえ。
だから、俺もお前たちの戦いに参加させろ!!」
「…………なるほど。いい目をしているな」
強い覚悟を持つ信念ある男だけができる目。
ロードはレオの提案を聞きしばらく考えてから宣言する。
「おもしろい!!いいだろう!レオ・ライズハルト!君の提案を吞もうではないか!」
ロードの決定に他の七天は驚くような反応をする。
「ロード様!よろしいのですか!?」
七天たちの驚きを代弁するかのようにレティシアがロードに聞く。
「ああ、ただし条件がある。君はまだ魔法も使えないのだろう?
いくら威勢が良くても魔法が使えなければ何の役にも立たない。
そこで!今からひと月の間に魔法を覚え、この私から出すクエストにクリアすること!
もしひと月以内に魔法を覚えられなかったり覚えたとしてもクエストに失敗するようなことがあれば当初の予定通り君の身柄は我々が引き取る。これが君の案を呑む条件だ」
「上等だ…!やってやるよ!!」
ロードから提示された条件にレオは臆することなく答える。
その様子に満足そうな笑みを見せるジークとグレン。
フロイとフィオネは心配そうな顔をしていた。
ひと月で魔法を使えるようになるということの難しさをその心配そうな顔が物語っているように見える。
アイリスは気に食わなそうな顔でレオの背中を見ていた。
「今日は実に実りのある一日だった。これにて話は終わりだ。レオ・ライズハルト。健闘を祈るよ」
ロード・オルフェンスの最後の一言により長い話し合いは終了した。
魔法聖協会からギルドへと戻る馬車の中。
「これでレオの身柄はひとまず俺たちに委ねられることになった。だが、大変なのはこれからだぞ」
「わかってる。このひと月が勝負になる。けど、俺は絶対にやってやる」
馬車の中で言葉を交わすジークとレオ。
しかし、未だ心配そうな顔をしたフロイはジークに話しかける。
「でもマスター…。ひと月以内に魔法を覚えるというのは…その…」
「ああ、かなり無茶な話ではあるな」
「それに魔法を使えるようになったとしても協会から出される依頼に失敗したらレオ君が…」
フロイと同じように心配した様子のフィオネがそう言いレオの顔を見る。
しかしジークは心配はないといった様子で答える。
「まあ安心しろ。そこについてはちゃんと考えてある。アイリス」
「……なに?」
相も変わらず興味がなさそうに窓から外の景色を見ていたアイリスがジークの呼びかけに少し遅れて反応する。
「お前、レオに魔法を教えてやれ」
「……は…?………………………………………………はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
突然のジークの指名にアイリスの声が馬車の外まで聞こえるほど響き渡った。