『レオの身体の秘密』と『七天大魔導士』
「なあ、レオ」
揺れる馬車の中でグレンがレオに声をかける。
「お前ってどんな魔法使うんだ?」
「魔法?」
「あ、それ僕も気になる」
グレンの質問に自身も乗りかかるフロイ。
フィオネも気になるのか頷きながら目を輝かせる。
アイリスは足と手を組みながら馬車の窓から外の様子を見ており特に気になるといった様子ではなかった。
そしてギルドマスターのジークは…
「zzzzzzzzz」
窓の額縁に肘をつき頬杖をしながら眠っていた。
しかし、質問を投げかけられた当のレオ本人はキョトンとした様子である。
そして一言…
「俺…魔法とか使えねえけど?」
「「…………え??」」
予想もしなかった返答に眠っているジーク以外の4人が反応した。
さっきまで興味なさそうにしていたアイリスもしっかり反応しており目線は外の景色からレオへと向けられていた。
「うちの村じゃそもそも魔法を使うようなことなんてねえし、特に習いもしなかったからな」
「いやいやいや!!魔法もなしにどうやってグレートウルフの群れを一人で壊滅状態にしたんだよ!?」
「そんなこと言われてもな…。殴ったり蹴ったり…」
「嘘だろお前…」
まさかの回答に驚愕するグレン。
フロイはそんなレオの答えに考え込むような様子を見せていた。
そして…
「レオはもともと他の人より身体能力が優れていたの?」
「いや、それが全くそんなことないんだよ。村にいた時は戦いとは無縁の生活してたし。子供の頃友達とかと普通に走り回ったりして遊んでたけど別に他の奴らと変わんなかったし。ああけど…あの時あの狼みたいな奴らに囲まれたときは自分でも信じらんねえくらい力が溢れてきたのは覚えてる。あぁいや…どうだったかな…。俺を攫ったあの3人から逃げる時もすげえ速く動けてたかも…」
「時系列から考えるとどれも君が攫われてから起こったことだね。空から落ちても軽傷で済む体の頑丈さ、そして魔法なしでグレートウルフの群れを壊滅させるほどの力…。僕には君の身に起きた変化と君を攫った連中が無関係だとは思えない…」
「レオさんはその3人に、何かされていたということですか…?」
「憶測の域は出ないけど恐らくは…。でも僕たちは確かにレオの魔力を感じることができた。それは今も同じだ。レオの身体には僕たち魔導士と同じように魔力が巡っている」
「それって何か変なことなのか?」
「この国には一人もいないだろうけど、エンディミオンの外にある小さな村とかには魔法が使えない人は結構いるんだ。使えないというか、使う必要がないから魔法を覚えなかった人たちって言った方がいいかな。人間の身体には魔力そのものは例外なく存在している。たとえ魔導士じゃなかったとしても生まれた時点で魔力自体はその身に宿してるんだ。魔導士との違いは魔力の巡りに出る。
魔導士じゃない人の魔力は大体へそのところで小さく纏まって存在する。でもその状態じゃ魔法を使うことはできないんだ。
魔法を使うためにはへそに纏まっている魔力を全身に巡らせるように操作する。
それはグレンたちも知ってるでしょ?」
「ああ、そういや俺もじいちゃんに習ったわ。そっか~魔力操作って魔法使う時に絶対必要だから習わなきゃいけないのか」
「あんたそんなことも知らないで今まで魔導士やってきたの…?」
「うっ…!うっせえな!今魔法使えてんだから別にいいだろそんなこと!」
呆れながらツッコむアイリスに焦りながら反論するグレン。
そんな二人をよそにフロイはレオに説明を続ける。
「魔導士であるかそうでないかは全身に魔力が巡っているかそうじゃないかで判別することができる。魔法が使えないというならレオの魔力はへそのところで纏まっているはずなんだけど…」
「俺の魔力はお前ら魔導士と同じように全身に巡ってるってことか?」
レオの言葉にフロイは無言で頷く。
フロイの解説を聞いたレオはあることを思い出した。
「そういやあの時…魔獣と戦ってた時なんだけどよ。俺の体からなんかオーラみたいなのが出てた気がするんだよ。初めてのことで何が何だかさっぱりわかんなかったけど…今思い返せばあれって…」
「君の魔力だろうね」
「だよな…。はぁぁぁぁ………ほんっと…ちょっと前までは普通の人間だったはずなんだけどなあ…俺。自分でもわけわかんねえくらい馬鹿げた力が湧いてきたり、知らねえうちに魔力が全身に巡ってたり。自分が自分じゃねえみたいだ…」
「レオくん…」
自身の手の平を見つめながら意気消沈するレオ。
フィオネはそんなレオを心配そうに見ながら呟く。
それからは特に会話などもなく馬車に揺らされること数十分…
ここは、魔法聖協会。
このエンディミオンを統治する巨大な組織であり国内の政治や外交なども執り行う施設なのだ。
「相変わらずクソ長え廊下だな~」
「申し訳ありません、ご足労をおかけしてしまい」
施設へと入ったレオ達はジークを先頭にして兵士の案内の元目的の場所へと向かっていた。
その廊下のあまりの広さにジークがぼやき案内役の兵士は軽く謝る。
そんなやり取りを見ていたレオはフロイに質問する。
「なあ、あのおっさんって偉いやつなのか?」
「え?」
「ここってこの国にとって一番偉い奴らが集まる場所なんだろ?なのにさっきからおっさんがぼやきまくってもあの兵士怒るどころか謝ってるし…」
「あ~…。まあ、確かに偉いと言えば偉いのかな。マスターはこのエンディミオンの中でもトップレベルの魔導士で昔この魔法聖協会の最高権力者の内の一人にも誘われるほどだったんだ」
「最高権力者って…」
「そう。今から僕たちが会いに行く人たちのこと。正式には七天大魔導士って言われる人たちなんだけど」
七天大魔導士
このエンディミオンを統治する魔法聖協会のトップに位置する7人の大魔導士たち。
彼らはいずれも桁外れの魔力と実力を持っているのだ。
「へ~…そんなすげえ奴らがいるのか…。じゃあ、あのおっさんもその七天大魔導士の内の一人なのか?」
「いや、違うよ」
「え??」
「マスター曰く…」
『はあ?七天大魔導士?やだよめんどくさい。絶対仕事増えるやつじゃんそれ』
「……だって」
「…………なるほど」
納得できるようなできないような。
グレンはそれ以上考えることを止めた。
そうしているうちに案内役の兵士が歩みを止める。
「さあ、着きましたよ」
兵士が目の前にある扉をノックして「七天大魔導士様。魔導士ギルドラビリンスの方々が到着されました」と声をかける。
すぐに扉の奥から「入りたまえ」と返答が来ると兵士は振り返りジークたちの顔を見る。
「私がご案内するのはここまでです。どうぞ、お入りください」
「あいよ。ご苦労さん」
そう言ったジークは兵士の横を通り扉を開けた。
レオ達もジークに続き次々に部屋へと入っていった。
全員の入室を確認した兵士が扉を閉め、部屋の中には七天大魔導士とジークたち6人のみの空間となった。
その部屋はまるで大掛かりな法廷のようになっており七天大魔導士はそれぞれジークたちより高い位置に座っていた。
余談だが、七天魔導士には第1席から第7席という風に実力差による序列がある。
「悪いなジーク。急に呼びつけて」
「別に構いませんよ。どうせ呼ばれるだろうと思ってたし」
一番右端に座っている男がジークに声をかけジークは軽い感じで返答した。
先程ジークに声をかけたこの男、七天大魔導士第7席『メイナード・グランス』29歳。
「おや?何人か呼ばれていない奴らもいるようだが?」
7人の中で最もガタイがよく常にマッスルポーズを取っているこの男、第6席『ヴォルグ・アレクサンダー』30歳。
「恐らくは例の少年を保護したという者たちでしょう。報告では4人の魔導士が魔獣に襲われている少年を保護したと聞いています。あと、さっきからしているそのポーズ止めてください」
眼鏡をかけた真面目そうな見た目が印象的なこの女、第5席『レティシア・シャーレット』25歳。
「zzzzzzzzzzzz…」
史上最年少で七天入りしたこの少年、第4席『クルト・ファウスト』15歳、現在熟睡中。
「おいクルト起きろ!こんなとこで寝てんじゃねえ!」
隣で熟睡しているクルトの肩を揺らし起こそうとしているこの男、第3席『デオル・サルヴァドーレ』20歳。
「いつものことだろうさデオル、放っておくがいいさ」
そう言いながらワイングラスに入っている赤ワインを飲むこの男、七天大魔導士最年長、第2席『クリフォード・ローレンス』40歳。
「あんたもあんたで何酒飲んでんだよクリフォードさん!!」
一応執務中だというのに堂々とワインを飲んでいるクリフォードにデオルがツッコミを入れる。
するとそこへ…
「クリフォード…」
クリフォードの隣、そして七天大魔導士たちの中央に座っている男が鋭い目つきでクリフォードを睨む。
誰しもが執務中に酒を飲んでいるクリフォードに対しての注意だと思ったが…
「私にも一杯いただけるだろうか?」
「もちろん」
まさかの言葉にデオルは「あああああああああ!!!!!」と叫びながら頭を抱えた。
この男こそ、七天大魔導士第1席、現在のエンディミオン最強の魔導士、『ロード・オルフェンス』26歳。
「さて…」
クリフォードから注がれたワインを一口飲み、ロードはワイングラスを机に置きジークたちを見ながら口を開いた。
「なぜ貴方たちがここに呼ばれたか…。その理由は分かっているな?ジーク・フロデロイド」
「ああ、こいつについての話だろ」
そう言ってジークは隣に立っているレオの肩に手を置いた。
「その通りだ。単刀直入に言おう。その少年は、我々魔法聖協会が引き取らせてもらう」