『偽善』と『憧れたヒーロー』
ドタバタと医務室になだれ込んできたグレンたちを落ち着けたジークはコホンと一つ咳払いをしてレオに紹介する。
「あー、まあ入ってきちまったからもうそのままの流れで紹介するぞ。この赤い髪の毛のやつがグレンだ」
「グレン・アルバノクスだ!よろしくな!」
ジークから紹介を受けたグレンは自己紹介の後ニカっと無邪気な笑顔を見せた。
「………」
レオはそんなグレンの顔を冷めた表情で見ていた。
「んで、こっちの水色の髪したやつがフロイだ」
続いてジークに紹介されたフロイが一歩前に出る。
「フロイ・エスカルド。よろしくね」
そう言ってフロイは笑顔を浮かべる。
「次にこの金髪少女がアイリスだ」
ジークに紹介されたアイリスだが前二人とは違いレオの前に近づくこともなくその場でそっぽを向いていた。
その態度からレオのことを信用できないということが伺えた。
「まあこいつは所謂ツンデレってやつだ。時間をかけて仲良くなればデレ要素もたくさん見られるぞ」
そう付け加えたジークにアイリスはすぐさま反論する
「私はツンデレじゃないわよ!ただコイツのことが気に食わないだけ!」
「さあて最後にこいつの紹介だな」
「無視しないでよ!!」
未だ騒いでいるアイリスを放っておきジークは最後にフィオネの紹介をする。
「この翡翠色の髪したやつがフィオネだ…って…こいつのことは知ってるんだったな」
「…あんたはさっきの…」
レオはフィオネの顔を見て先程一人で部屋に入ってきた少女であることを思い出した。
「改めて、フィオネ・シルベスターです。よろしくお願いします」
そう言ってフィオネはペコリと軽くお辞儀をした。
「そんでお前ら、こいつの名前はレオ・ライズハルトだ。仲良くするんだぞ~」
「レオか…。いい名前だな!」
ジークから名前を聞いたグレンはレオの傍まで歩いていき手を差し出す。
「これからよろしくな!レオ!」
握手の為に差し出されたグレンの手をレオはただじっと見つめていた。
「…………お前らだろ」
しばらく間を置いてからレオがふと口を開く。
「俺を助けたのは、お前らなんだろ」
レオは自身が気絶する前の記憶からこの4人が自分を助けた魔導士であると理解していた。
「ん?ああ、まあ助けたって言えば…助けたのか?」
「なんでそこで僕に聞くのさ…」
いまいちピンときていないグレンはフロイに確認を取りフロイはため息をつく。
そしてフロイはグレンの代わりに答えた。
「確かに君を助けたのは僕たちだけど、そのことはそんなに気にしなくていいよ。あの状況じゃ助けるのが普通だと思うし、君が無事ならそれでいいよ」
「……なんで助けるのが普通なんだ?」
「え??」
「お前らにとって俺は見ず知らずの他人だろ?助ける義理なんてあるはずもない。……そんなやつをなんでお前らは助けたんだ?俺を助けることでお前らに何かメリットでもあるのか?」
そう言いレオはグレンたちの顔を睨んだ。
そんなレオの態度に我慢できなかったのかアイリスが声を上げる。
「ちょっとあんた。さっきから黙って聞いてれば何よその言い草。助けてあげた私たちにありがとうの一言も言えないワケ?」
「助けてほしいなんて誰も言ってねえだろ」
「はああああ!?何よそれ!?私だってあんたなんか助けたくて助けたんじゃないっての!!」
「おいアイリス」
今にもレオに殴りかかりそうなアイリスをグレンが止めように肩に手を置く。
しかしアイリスはその手を振り払い今度はグレンたちに怒鳴る。
「だいたいあんた達もあんた達よ!傷だらけのこいつをそのまま見殺しにできないってのは分かるけど傷を治してあげただけじゃなくてこうして休ませてる私たちにお礼の一つもないのよ!?ムカつかないの!?そもそも私は反対だったのよ!傷を治した時点で放っておいてもよかったんだわ!なんで私たちがこんな奴の為にここまでする義理があるのよ!」
「あんなボロボロな体で一人で戦ってたんだ!そりゃ気が立ってもおかしくねえだろ!そんなことでいちいち怒ってんじゃねえよ!」
アイリスの怒鳴り声にグレンも熱くなり怒鳴り返す。
「おーいお前らいい加減にしろ。怪我人の前だぞ。」
そんな二人の喧嘩をジークが止める。
ジークに注意された二人は喧嘩こそ止めたもののお互いそっぽを向く。
そこで再びレオが口を開いた。
「……そいつの言ってることが正しいだろ」
そんなレオの言葉に5人は一斉にレオの方を向いた。
「人を助けようなんて結局はただの偽善でしかねえ。もし助けることができたとしても自分になんの得があるんだよ。それに下手したら…」
そう言ったレオの頭によぎるのはあの日、妹に覆いかぶさったまま家の屋根に潰された両親とその両親に潰された妹の姿。
「助ける側も助けられる側も両方死んじまうかもしれねえ…」
「「…………」」
グレンの言葉に5人はただ黙って聞いていた
「……損とか得とかそんなことはどうでもいいんだ」
沈黙を破ったのはグレンだった。
レオは驚いた顔でグレンの顔を見る。
グレンの顔は真剣そのものであった。
「確かにお前の言う通り誰かを助けたい、自分の身よりも他人の方が大切なんて思うのは偽善なのかもしれねえ」
しかし、真剣な顔から急にフッっと笑顔になるグレン。
「けど、こういうのって体が勝手に動いちまうもんだろ!」
「!!」
グレンの言葉に目を見開くレオ
(……本心だ…。こいつは、本心で人を助けたいって思ってる…。損得勘定もなく…こいつはきっと…困ってる奴らは一人として放っておけないやつなんだ…)
「ああでも!今回に関しては俺はお前を助けて得したぞ!」
「…得って…なんだよ…?」
「お前と友達になれるかもしれねえ!」
ただひたすらに眩しいばかりのグレンの笑顔を見てレオはグレンから視線を外しそのまま下を向いた。
そして。
「……かはっ…」
思わず吹き出すようにレオは息を吐いた。
「お!やっと笑ったな!」
そんなレオの様子をみてグレンは満足そうにしていた。
自分よりも他人が大切。
人を助けたいという想い。
そんなものは全て偽善でしかないと思った。
あの日全てを失ったとき深い悲しみと共にあふれ出た考え。
両親が早々に妹を見捨てれば二人だけは助かったのではないか?
そんな性根の腐った考えが多くの絶望により自分の中で正当化されていた。
けれども…
(きっと…父さんと母さんもそうだったんだ…)
あの時、両親も体が勝手に動き、妹を助けようとした。
確かにその想いは成就することなく結果は最悪なものとなった。
それでも、両親がやろうとしたことは間違いなんかじゃなかったとレオは強くそう思った。
そして、それに気づかせてくれたのが目の前にいる出会ってまだ間もない一人の少年。
「お前、なんかヒーローみたいなやつだな」
「え??ヒーロー??俺が??なんで??」
「助けるだけじゃなくて人の曇った心に光を当ててくれる。子供の頃村で読んでた絵本にお前みたいなヒーローがいたんだよ」
そう言って下を向いて思い返すのは昔の記憶。
家で妹と2人で読んでいた絵本。
『このえほんのヒーロー!おにいちゃんみたい!』
『そうかな??それなら俺はいつかリオもお父さんもお母さんも村の人みんなを照らせるヒーローになるぞ!!』
『わあ!おにいちゃんかっこいい!!リオ!おにいちゃんのゆめおうえんする!』
(……いつの間にか忘れていた…。そうだ...俺は…)
ふと顔を上げ、グレンの顔を見て思い出す。
(こういうヒーローに憧れていたんだったな)
顔を上げたレオの顔は先程までとは違ってとてもスッキリした様な表情だった。
そしてなりたい自分を思い出させてくれたグレンとその仲間たちにきっちりとお礼を言おうと思った。
「助けてくれてありがとう。グレン、フロイ、アイリス、フィオネ」
お礼を言われた4人の反応は様々であった。
グレンとフロイは嬉しそうに笑い、アイリスは再びそっぽを向き、フィオネは恥ずかしそうに顔を赤らめ下を向いた。
それを見たジークは満足そうに笑いながら話を進める。
「さて、長めの自己紹介も終わったところでここからは少し真面目な話になる」
「……ああ、わかってる」
ジークが何を聞きたいのか、レオは既に察している様子であった。
「察しがよくて助かるよ。それじゃあ早速…。レオ、お前さんはいったい何があって、どうして一人で魔獣が蔓延る森の中にいたんだ?」
予想通りの質問が来たのかレオは特に驚くこともなく口を開いた。
「少し、長話になってもいいか?」
そこからレオはジークたちに全てを話した。
自分がココヤキ村出身であること、ある日突然自分たちの村を火の海に変えた白いローブを着た3人組の存在。
両親と妹が家の屋根に潰されてしまいそのショックから気を失ったこと。
次に目が覚めた時はココヤキ村を襲った3人が目の前にいて命からがら逃げようとした結果空から落下して魔獣に囲まれてしまったこと。
「……なるほど、それで限界寸前のところにグレンたちが助けに入ったってことか…」
「そういうことになるな」
(彼があそこまで人を助けることに否定的だったのは自身のトラウマにもなりかねない壮絶な出来事が原因だったってことか…)
フロイはレオの話を聞いてそう感じた。
グレンは何も言わずに下を向いたままその場に立っていたが強く握りしめられていた拳が震えている。
恐らくはココヤキ村を燃やした3人に対しての怒りからであろう。
アイリスも顔が見られないように下を向いていたが僅かに歯ぎしりする音が聞こえる。
フィオネに至ってはその場に座り込んでしまい今にも泣きだしそうになっていた。
「悪いなレオ、思い出したくもねえ話をたくさんさせちまって」
ジークの謝罪の言葉にレオは首を振る。
「いや、大丈夫だ。助けられた以上、事情を話すのは当然のことだ」
「しかし…ココヤキ村の生き残りか…。こりゃあ魔法聖協会への出頭は避けられんな…」
そう言ったジークは「めんどくさいことにならなきゃいいが…」と頭をポリポリ掻く。
次の瞬間。
医務室のドアが勢いよく開かれる。
グレンたちは驚きドアの方へと向くと一人の魔導士が息を切らしながら部屋に入ってきた。
「マスター!魔法聖協会の奴らがいきなり来て!マスターに話があるって!!」
報告を聞いたジークはうなだれ「ああ…もうめんどくさいことになってた…」と手を顔に当て落ち込む。
「悪いがレオ、体は動かせそうか?」
「あ、ああ…。それは大丈夫だけど…」
「じゃあ悪いが、俺と一緒に来てくれ。今からお前さんのことを魔法聖協会のお偉いさん共に報告しに行かなきゃならん」
それを聞いたグレンは驚きジークに詰め寄る。
「ちょっ!それってレオを協会の奴らに引き渡すのかよ!?」
「違えよバカ。協会はずっとココヤキ村の件について気にしていたし、何より唯一の行方不明者のレオを探してたんだ。そのレオが見つかったから、「行方不明者見つけました。見つけたのはうちのギルドなんでうちで面倒見ますね」って説得しに行くんだよ」
「ああ~!なるほどそういうことか!」
ジークの言葉に納得したグレンはそのままジークに一つ頼みごとをした。
「ならマスター!俺たちも一緒に連れてってくれ!レオと会った時のことも話すなら俺たちが一緒に行った方が都合がいいだろ?」
グレンの提案にジークは「確かにな」と頷きグレンたちの同行を認めた。
唯一アイリスだけが「なんで私も行かなきゃいけないのよ!」と反発していたがグレンたちに半ば強引に連れていかれた。
こうしてレオは、ジーク、グレン、フロイ、アイリス、フィオネと共に魔法聖協会へと向かったのだった。
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