『調査』と『出会い』
全焼したココヤキ村へと入っていった4人。
村自体はそれほど広くはなく数十分で村を一周することができるほどであった。
4人はグレンとフィオネ、フロイとアイリスの二組に分かれて村の調査を行うことにした。
ココヤキ村で起きた村を全焼させるほどの大火災の原因調査。
死者34名、行方不明者1名という被害を出したこの火災には何か裏がある。
ギルドへ依頼してきたエンディミオンの最高権力団体『魔法聖協会』はこの火災を自然災害ではなく何者かが意図して起こしたものではないかと睨んでいた。
「でもなんで協会は火事が意図的なものだって睨んでるわけ?確かにただ火が燃え移ったからって村が全焼するなんて考えにくいことではあるかもしれないけど、ありえない話ではないでしょ?」
アイリスが疑問を口にする。
それに答えたのはフロイだった。
「ああ、それなんだけど…出発前に門の警備の人たちから聞いた話で…」
数時間前
フロイたち一行はギルドから転移魔法で北の門まで転移していた。
そんなフロイたちを見て警備の魔導士の一人がフロイに声をかけた。
「お!フロイじゃないか!ここに来たってことは今日も仕事に行くのか?」
「はい、ココヤキ村で起きた火事の出火原因を調査する依頼です」
「なに?ココヤキ村だと?」
ココヤキ村という単語を聞いた警備の顔が少し険しくなった。
「??どうしたんですか?」
「ああいや、すまない。ココヤキ村の話は俺も上から聞いている。ただ、少し気になる情報があってな…」
「気になる情報…ですか?」
「あ~…これは情報漏洩になるかもしれんが…いや、あの村に調査に行くのであれば伝えておいた方がいいだろう。あの村での死者のほとんどの死因が焼死か煙による呼吸困難などだったんだが一人だけ明らかにおかしい者がいたんだ。」
「おかしい者?」
「ああ…。体に…大穴を開けられていた…。十中八九魔法によって開けられた穴だと思う。確か…村の村長だったはずだ。それを見て協会は今回の件には何か事件性があるのではないかと睨んでいるんだ…。お前たちも、調査とはいえ十分に気を付けるんだぞ」
「っていう話を聞いたんだ」
「なるほどね…でもそれなら真っ先に疑われるのって一人だけ行方不明になってるやつよね?」
「ああ、ここの調査とは別に協会側で行方不明者の捜索に力を入れてるって警備の人が言ってた」
「そう…。どうする?もう少し調べてみる?」
「そうだね」
一方、グレンとフィオネは。
「どうだフィオネ、何か見つかったか?」
「ううん、こっちは何も…。グレン君の方は?」
「こっちも成果なしだ」
焼け落ちた民家などから出火原因に繋がるヒントを探していた。
「しゃあねえ、ちょっと休憩するか」
「うん、そうだね」
そう言って二人は近くの石垣に腰かける。
「……こんな時に言うのはおかしいんだけどさ…いい所だよね、ここ」
「…ああ、風も気持ちよくてのどかな感じだ。きっとここで暮らしていた人たちもみんな穏やかでいい人だったんだろうな」
「うん…そうだね…」
そう言って俯くフィオネ。
それに気づいたグレンが声をかける。
「なにか気になることでもあるのか?」
「…え??」
「さっきからお前…正確にはこの村に来てからだけど。そうやって俯いたりしてるだろ?そういう時お前は大抵なんか気になることがあってそれについて考えてるって決まってんだよ」
「あはは…すごいねグレン君…。お見通しなんだ」
「まあ、4人で組むようになってずいぶん経つからな。それで?何考えてたんだ?」
「……行方不明になってる人のことをちょっと…。今までずっと一緒に暮らしてた大切な人たちがたった一日でいなくなっちゃて…帰る家もなくなって…。……もし自分がそんな立場だったらどうなっちゃうんだろうって考えちゃって…」
「……そうか…」
「……うん…」
グレンはそれ以上深くは聞かず、それから二人は無言で風に当たっていた。
それから2時間後
一通りの調査を終え4人は村の入り口で合流した。
「村の中を細かく調査したけど、これといった成果はなかったね…」
それぞれの調査の結果を聞いたフロイがそうまとめる。
「どうする?フロイ」
「これ以上調査しても無駄だろうし、今日はとりあえずこのまま帰ろう」
「えええええ!?また何時間もかけて歩くの!?」
ココヤキ村へ向かう道中エンディミオンからココヤキ村までの距離が遠すぎると怒っていたアイリスが再び声を上げる。
「仕方ないよアイリスちゃん。ここじゃ馬車も呼べないし」
「うううう…わかってるけどぉ…」
結局アイリスは帰り道も怒ったり泣き言を言ったり、「うるせえ!」と言ったグレンと喧嘩しながら帰っていった。
ココヤキ村からエンディミオンへ戻っている時、ふとグレンが足を止めた。
「??グレン?どうしたの?」
フロイが振り返りグレンに声をかける。
「…向こうからいくつか魔力を感じるぞ」
「……本当だ…1、2、3、…細かい数までは感知できない…。フィオネ」
「わかりました」
『魔力感知』
魔導士は全員魔力を感知することができるがその正確さには個人差がある。
フィオネは4人の中で一番魔力感知に優れており索敵役を担うことが多いのだ。
「!!北東に100メートル進んだ森の中に6つの魔力を感じます!その内の5つは魔獣の魔力…!誰かが魔獣に囲まれています!!」
「!!フロイ!アイリス!」
「うん!」
「わかってるわよ!!」
フィオネから位置を聞いた三人はすぐさま森の中へと走って向かう。
「ッッ!おい、囲まれてるやつの魔力すげえ小さくなってねえか!?」
「ああ!このままじゃまずい!急ごう!」
3人はスピードを上げ魔力が集まっている場所へと向かった。
「はあ…はあ…はあ…くそっ…!次から次へと…!」
森の中では一人の少年が傷だらけになりながら魔獣と戦っていた。
それはかつて神々によりココヤキ村から連れ去られ、命からがら天界から逃げてきた少年であった。
(やべぇ…もう…意識が…)
気絶する寸前の状態で戦っていた少年の体はもう限界であった。
その瞬間、オオカミの様な姿をした魔獣5匹が少年へと飛びかかる。
(くそっ…!こんなところでっ…!)
次の瞬間
「グギャアアア!!」
魔獣の内の一匹が炎魔法をくらい体を燃やしながら倒れた。
それを見た残りの4匹もすぐさま少年から距離を取る。
「よかった!ギリギリ間に合ったな!」
「でもすごい怪我だ…!すぐにフィオネのところに連れて行かないと…!」
グレン、フロイ、アイリスが少年のそばに駆け寄る。
「……お…お前らは…いったい…」
薄れゆく意識の中で少年は口を開く。
「喋らないで!話は君の傷が治ってからだ!アイリス、君はこの人をフィオネの元へ!」
「わかってるわよ!私に指図しないで!」
そう言いながらもアイリスは少年の腕を自分の肩に回す
「ほらアンタ!移動するわよ!」
アイリスは少年を連れてその場を離れる。
「フロイ、こいつらは…」
「うん、グレートウルフだ。常に50匹以上の群れで獲物を仕留める魔獣。相当実力のある魔導士でも一人で対処するのは困難なはずだけど…」
「見たところこの5匹以外にはいねえぞ。つまりアイツ、一人で40匹以上仕留めたってのか?」
「まあ、その話も後からだね。とにかく今は…」
「ああ、この残った犬っころどもをぶっ倒す!」
そう言ったグレンの手から魔法陣が浮かび上がり炎が出る。
「フロイ!援護してくれ!俺がやる!」
「わかった!」
「いくぞ…ッッ!!」
グレンは足から炎を出し一気にグレートウルフとの距離を詰める。
1匹のグレートウルフもすぐさま反撃しようとグレンに飛びかかるがグレンは容易くかわし
「遅えよ!煉獄拳・火焔!!(れんごくけん・かえん)」
拳に纏わせた炎をそのまま敵にぶつける『火焔』がグレートウルフの顔面をとらえる。
その隙を突くようにさらに一匹のグレートウルフがグレンに飛びかかるが…
「アイスグラベル!」
細かい氷を弾丸のように撃つフロイの魔法、『アイスグラベル』がグレンに飛びかかったグレートウルフの体を貫通する。
「グレン!あと二匹だ!」
「ああ!一気に仕留める!!」
グレンが両手に炎を纏って飛び上がり両手の炎を合わせ一つにする。
そして、まるで太陽のような火球を作り出し…
「骨も残さねえ!煉獄拳・流星火!!!!(れんごくけん・りゅうせいか)」
地上へと放った。
「やりすぎだよグレン」
流星火によって地面に生まれてしまった大穴を見ながらフロイは声をかける。
「そうか?これくらい普通だろ?」
「普通って…まあいいけど…。それより早くアイリスたちと合流しよう」
一方そのころ、アイリスと少年。
アイリスは傷だらけでまともに動くこともできない少年に肩を貸しながら魔獣たちから離れていた。
「…手を…はなせ…!」
「あっ!ちょっと!!」
その時、少年がアイリスの手を強引に振りほどいた。
しかし、少年の体はすでに限界を超えており一人で立つこともままならず今にも倒れそうになっていた。
「ちょっとあんた!そんなボロボロの体で何強がってんのよ!」
「うる…せえ…!!お前には…!関係ないだろ…!!」
「はあああああ!?助けてあげたってのに何よその態度!私たちが来なかったらあんたとっくに殺されてたのよ!?」
「…誰も助けてほしいとは…言ってねえ…!」
「アンタねえ!!って…ちょっと!!」
アイリスは怒りのあまり少年に詰め寄ろうとしたが少年はそのまま地面に倒れこんでしまった。
するとそこへ…
「アイリスちゃん!」
「あ!フィオネ!こっちよ!!」
「遅くなっちゃってごめん!…って…その人!すごい怪我してる!!」
「こんなにボロボロだったくせにさっきまですごい暴れてたのよこいつ…。とにかく、応急処置をお願いできる?」
「うん!」
「ふう…」
「終わったの?」
「うん、治癒魔法で傷口は塞いだよ。でも体力も相当消耗してたみたいだから目が覚めるまではまだ時間がかかると思う…」
「とは言っても、こいつが起きるまでここで待つなんてできないわよ。こんな荒野じゃまたいつ魔獣が出てくるかわからないし…」
「おーい!お前らー!」
フィオネとアイリスが今後の行動に頭を悩ませている時、グレートウルフを倒したグレンとフロイが小走りでやってくる。
「グレン君!フロイさん!」
「あんたたち、あの魔獣は?」
「もちろん全部仕留めてきたっての!」
「とは言えここに長居するわけにもいかない。フィオネ、彼の治療はもう終わった?」
「はい、傷口はすでに塞ぎました。でも…まだいつ目を覚ますかがわからなくて…」
「そっか…。なら仕方ない、このままギルドへ連れて行こう」
「はあ!?」
「ま、そうするしかないな」
フロイの提案に驚くアイリスと当たり前のように納得するグレン。
「ちょっとフロイ!本気で言ってるの!?こいつをギルドに連れてくって!」
「だってこのまま放っておくわけにはいかないだろ?」
「だからって身元もわからないやつを連れて行くなんて危険すぎるわよ!もしかしたらとんでもない極悪人かもしれないじゃない!」
「ならお前はこいつをここに置いてった方がいいって思ってんのか?」
「なっ!?そんなこと一言も言ってないでしょ!?けど…その…うううううううう…!!」
フロイの提案に猛反対するアイリスに質問するグレン。
すぐさま反論するアイリスだがその先の言葉に言い淀んでしまいそのまま頭を抱える。
「……フィオネはどう思う?」
頭を抱えるアイリスから視線を外しフロイはフィオネに自分の提案について賛成か反対かを聞く。
「……私もフロイさんの提案に賛成です」
「ちょっとフィオネ!?」
「アイリスちゃん、私、この人がそんな悪い人には見えないの。なんとなくだけど…。それに、私は傷ついてる人を放っておくなんてできない」
フィオネはアイリスの目をまっすぐと見つめながら言った。
そんなフィオネの目を見てアイリスは…
「ううううう…。わかった!わかったわよ!!ギルドに連れて行けばいいんでしょ!!でも、こいつが起きた時もし変な行動とか私たちに敵対するような態度を見せたら私がすぐに仕留めるからね!!」
「決まりだね。なるべく早くギルドに連れていきたいし、すぐに出発しよう」
フロイの指示に3人は頷き、少年を連れて急いでギルドへと向かっていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたらぜひブックマーク、下の星から5つ星評価をよろしくお願いします!
制作の励みになります!