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50日目

 



 50日目――


 私は完全に死にそびれてしまい、再び生きることを模索し始めた。


 あのあと、会うたびにスン君は食べ物をくれた。

 臭いチーズとか、湿気たクラッカーとか。


(きっとスン君も生活苦なんだろうな)


 あまりにも私が気の毒で、目の前で死なれてはかなわないから捨てる寸前の食べ物を恵んでくれているのだろう。

 出される料理が少ないから、貰ったものは全部食べるけど。


 その腐りかけの食べ物のお陰か、最近少し痩せた。


(もしかして、そういう薬?)


 でも身体に異常はない。

 そもそも死のうと思ってたんだから、どっちでもいいか。

 生きることを模索してはいるが、強く生きたいという気持ちも薄い。

 最近はますます色んなことを諦めた。

 死ぬことさえ諦めたのだ。

 あれはエネルギーがいる行為だと知った。


 この頃になると、私が洗濯をするとどういうわけか曇っていても晴れるので、皆に羨ましがられるようになっていた。

 王は私のことは忘れたようで、新しい聖女を召喚するべく、魔法陣を描ける者を探しているらしい。


 一人の魔術師が描ける召喚の魔法陣は生涯で一つだけ。

 しかも描ける素質のある魔術師のみ。

 素質が無ければ魔法陣が描いてる途中で弾け、かなりの害を被るのだと、城の親切なメイドが教えてくれた。

 メイドに「被害って、どんな?」と聞き返すと、彼女も知らないらしく首を振っていた。


(それって禁術なんじゃないの? そこまでして聖女を召喚したい理由ってなんだろう?)


 疑問はあれど、せっせと洗濯をこなす。

 相変わらず手は痛いが、作業には完全に慣れた。真面目にこなしてしまう日本人メンタルが憎い。


 だからと言って、この世界に慣れたわけではないのだけれど。


(王に忘れられたということは、このままメイドとして暮らすのかなぁ)


 ランドリーメイドの爆誕である。

 ただし、デブのため罪人扱い。


(なんなのそのクソな設定は。ツッコミどころの多いアニメを見てる気分だわ)


 洗濯籠を持って歩いていると、あの無精ひげの騎士に会った。

 ここ数日、洗濯物を押し付けて来ない。

 いよいよ女に相手にされなくなったのだろうか。


 目が合ったが無視した。



 ふと、気まぐれに休み時間に図書室を覗いてみることにした。

 私が入っても怒られないかビクビクしながら中に入ったが、何も言われなかった。


(召喚について書かれている本か、もしくはこの国の成り立ちとか……なんか、そういうのないかな)


 つらつらと背表紙を眺めてみたものの、何を手にすればいいかわからない。

 とりあえず適当に三冊手に取って、本棚と本棚の間の小さなスペースに置かれた椅子に座って読み始めた。


 一冊めは、ちっとも美味しくなさそうな料理の本だった。

 二冊めは宗教の本で、なんとなくキリスト教のような雰囲気を感じた。

 三冊めはこの国の食べ物の生産量についての本だった。


(なるほど? 作物にとって大切な時期に雨が少なくて、痩せた土壌が多いから食糧難なのね?)


 ということは、雨を降らせる聖女か、土壌を改善できる聖女が現れれば、この国の食べ物問題が解決するということだろうか?


(あれ? やっぱり私、この国にとっては要らない聖女じゃない?)


 さすがにここまでくると、自分の能力にも気付く。

 明日は洗濯当番というときには必ず晴れるのだ。逆に城の掃除というときに降ることが多い。


(つまり私は究極の晴れ女ということよね?)


 この能力に気付かれたら、城内に留まることを強要されるのだろか?

 作物にとって必要な時期は城の中に居れば雨が降る……?

 と、いうことは――


(もしかして、王の側妃になって後宮に閉じ込められていたら、雨が降る……とか?)


 髭をたくわえた初老の王を思い出し、げんなりしてしまった。口臭がありそうな不潔な感じの人だ。

 アレの女にはなりたくない。女扱いどころか家畜扱いされる。いたぶられる未来しか思いつかない。


 けれども、そう考えれば慣例の側妃についても納得がいく。


 そして、デブは罪人という謎の風潮の予測も立った。


 単なる食糧難。


 太るほど余計なものを食うな、という暗黙の了解。


 なんとなく、正解のような気がした。

 





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